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大怪我からの復活、平地・障害で腕を磨く森一馬騎手

  • 2013年10月29日(火) 18時00分


競馬の職人

師匠の松永昌博調教師と森一馬騎手


◆マジェスティハーツでの大役

 ユーイチおめでとう! 菊花賞と天皇賞の連勝はすごいです。同期の活躍はやっぱり嬉しいですね。ジャスタウェイのハミの取り方も上手く、いいポジションから抜け出して来ましたね。勝ちっぷりに乾杯! 楽しみが大きくなってきました。

 ただ、ライブで見られなくて残念でした。実はこの日、大阪マラソンに3回目のチャレンジ。「大阪制覇!」と完走を目指していましたが38kmでタイムオーバーに。目の前で「5、4、3…」とカウントされ、それでもダッシュができない脚にちょっと歯がゆく、悔しかったです。走り込みが足りなかったですね。

 さて、夏から障害競走に乗る騎手をシリーズで追いかけてきましたが、今週は若武者の活躍ぶりを紹介します。森一馬騎手に注目です。

常石:障害レースには、いつ頃から興味を持ちましたか?

:馬事公苑で乗馬をしていた頃から興味を持ちました。そして、競馬学校で障害を飛ばす練習をした時から「レースで飛んでみたいな」と思っていました。

常石:初めて障害レースに乗ったのは、デビュー2年目でしたよね?

:1年目にも乗せてもらいたいとお願いしたのですが、「平地も乗れないのに障害は無理や! 障害レースを甘く見るな」と叱られました。

初めて騎乗したのはメイショウユウシャという馬でしたね。障害のベテラン騎手だった嘉堂助手が作ってくれた馬でした。「大丈夫だ。乗ってみないか?」と勧めていただき、先生にも「のぶが作った馬なら大丈夫だ。おとなしい馬なので乗っているだけでいい」と言われました。本当に僕が何もしなくても馬が跳んでくれるんです。すごく賢くて乗りやすい馬でした。

常石:嘉堂さんといえば、デビューから30年間障害レースだけに騎乗して200勝以上を挙げ、重賞も沢山獲っているんですよね。

それに、騎乗スタイルが独特で、障害飛越をしているときでも鞭を使えるんですから、すごい騎手でした。僕も現役の時はいろいろアドバイスをしていただきましたが、嘉堂さんのようには乗れなかったです。

障害レースの魅力はどんなところにありますか?

:平地よりも動きたい時に動けます。自分で手を掛けた分だけ馬がよくなって来るので、レースをしていても楽しいです。馬のことをしっかり見るようになりますし、型にはめないようにしています。それと、僕自身が焦らないように、馬も焦らせないように、余裕を持って落ち着いて跳ぶようにしています。教えたことを理解して跳んでくれたときには「ありがとう」の気持ちでいっぱいになりますし、自分がミスした時は助けてくれます。それが障害レースの魅力なんです。

西谷先輩、高田先輩にもいっぱいアドバイスをもらっています。この間も「緩い馬はどうしたらいいんですか?」とお聞きしたら、「緩い馬はどうしようもないね。でも、無理をさせずにゆっくり成長を待っているといいよ」と教えて頂きました。

常石:平地でも障害でも、今楽しみな馬はいますか?

:松永昌博厩舎(自厩舎)のマジェスティハーツです。500万下1000万下と連勝して、神戸新聞杯に挑戦して2着。菊花賞への権利は何とか獲ることができました。通算30勝に満たないため、残念ながら僕は菊花賞では乗れなくて、豊さんに乗っていただきました。結果は残念でしたが、神戸新聞杯では(菊花賞を勝った)エピファネイアの2着に持っていくことができたので、挽回してくれるチャンスがきっとあると思っています。

口向きが難しくて、あまり抑えると頭を上げてしまいます。それを中山助手が毎日丁寧に調教してくれているので、だんだん乗りやすくなってきました。2連勝の時と同じように、道中で折り合いに専念すると、何処からでも競馬ができる自在性があるので、脚をためて終いで生かせるように持っていく。こんなレース運びができるように、僕自身がしっかりして行きたいです。

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神戸新聞杯、外から強襲し菊の権利を獲得


常石:神戸新聞杯は強い競馬でしたね。菊花賞への権利を獲るなんて、いいレースをしたと思うよ。先が楽しみだね。障害レースでも楽しみな馬がいるんですよね?

:ハードダダンダン号に期待しています。京都ハイジャンプ(J-GII)で3着、新潟ジャンプS(J-GIII)で2着になりましたが、あと1歩で負けてるので悔しいです。僕自身の気負い負けですかね(苦笑)。

「迷ったら攻める」「自分に妥協しない」をモットーにしています。いろんなチャンスを与えてくださる馬主さんや松永昌博先生、厩舎の皆さんや他の厩舎のお世話になってる方に感謝しています。でも、思っているだけでは通じないと思っています。僕のできることは、結果を出すこと。そのためにも一鞍ずつ大切に乗ることなので、頑張ります。

この馬には、思いもいっぱいあります。落馬負傷してから復帰後初勝利をくれた馬なんです。(4月20日京都競馬場、障害4歳上未勝利、西橋厩舎)

◆周りから「変わったね」と

常石:調教中に大怪我をしたんだよね?

:はい。落馬してすぐにいびきをかいていたそうなので、それはかなり危なかったみたいです。頭頸部に血液を送る主管・頚動脈の損傷が激しかったようです。でもほとんど薬は使わず、自然治癒を待ってもらったそうなんです。ただ、まったく覚えていません。「歩けるようになるのに1年かかるでしょう。下半身に麻痺が残る可能性もあります」と言われていたんです。

常石:それは…男にとってはマズイな(笑)。っていう冗談はさておき、いつも危険と隣り合わせだから覚悟はしているつもりでも、実際そうなるとやっぱり慌てるよね。

:そうなんですよ。そんな自分がイメージできませんでしたね。「治る。また馬に乗ることができる」というふうに考えてました。なので約1か月の入院生活から退院できた時は、嬉しかったです。でも、体力も筋力もメチャメチャ落ちていて、歩くのもしんどくてふらふらしていました。それで心肺機能を高める運動から始めていきました。

そうしたら、今年の2月上旬にドクターから「ちゃんと元に戻っていますよ。奇跡です。よく頑張りました」と褒めていただきました。その翌日から調教に復帰させていただいて、嬉しかったですね。約2か月半馬から離れていましたから。やっぱり馬の背中は温かいですよ。昼は乗馬苑で乗馬をして、徐々に馬に慣れていきました。

常石:ご家族の皆さんは心配されたでしょう。

:かなり心配をかけてしまいましたが、自分は馬に乗るイメージしか無くて、父も「一馬の人生だからやらせてあげたい」と口を出しませんでした。母も「名前が一馬やからな、仕方ない。わかった」と受け入れてくれました。ありがたいなと思いました。

常石:分かる! 僕も馬に乗ることしか考えていなかった。そのためにマラソンにチャレンジしたり、いろんなリハビリにも取り組みました。家族もそうだったと思います。関係者の力も勿論ですが、家族の支えはパワーになるよね。

:はい。それに、落馬前は勝った時には「やったー」と思っていましたが、今は「ありがとう」という気持ちの持ち方に変わりました。生まれ変わったような不思議な感じで、何でも取り組みたいと思っています。周りからも「変わったね」と言っていただいています。

障害レースに関しては、騎乗コーチについてもらっています。前週の映像を見ながら、コーチに分析していただきます。そうするとすごく的確な分析をされます。飛越の時と追う時では姿勢が違いますが、馬の重心は一緒なので、障害レースで重心をきちんと取れるようにすると平地でも通用して、安定した乗り方ができるんです。まだまだ課題は多いですが、楽しみも多いです。先輩騎手のいいところをどんどん盗んでいきたいです。

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常石:夢を教えてください。

:ずっと馬に乗れること。そして平地レースと障害レースでGIを勝って、お返しをしていきたいです。ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。応援してください。

常石:怪我に気をつけて頑張ってください。応援しています。今日は長い時間ありがとうございました。実は松永先生、嘉堂助手、瀬戸口助手から応援メッセージをいただいていますのでご紹介します。

:ありがとうございます。でも…ちょっと恐い(苦笑)。

■嘉堂助手
初めてジャンプレースに乗せたんですが、馬に逆らわずに素直に乗っていたな。まぁ、乗りやすく(調教)しておいたけど。これからは自分で作っていくんやから、素直な馬に仕上げることやな。ずっと見てるからな。

■松永調教師
何にもありませんなぁ(笑)。怪我はしましたが、しっかり乗れるように努力していますね。一馬が自分で乗る馬を見つけてくるわ。

■瀬戸口助手
若くて頼もしい。素直やし、がんばって! 応援してるわ。

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障害のベテラン騎手として活躍した嘉堂助手


 生死を彷徨う事故から約2か月半で復帰して、一皮向けた感じを印象づけている森一馬騎手。たくましさも出てきた感じがします。いろんな方に見守られて、自分自身でも「リズム・バランス・馬の邪魔をしない。迷ったら馬に任せる」をモットーに進む若武者を応援したいと思います。

 同期の藤懸騎手たちとも仲良く、無邪気な面も見せる20歳の青年でした。若い方が障害レースにチャレンジしてくれるのは頼もしいです。他の若手騎手にもいい刺激になりますね。どんどんチャレンジして、障害レースの魅力をファンに伝えて行って欲しいです。つねかつこと常石勝義でした。[取材:常石勝義/栗東]

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常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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