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先輩後輩の良い関係、障害騎手のネットワーク ―小坂忠士騎手

  • 2013年11月12日(火) 18時00分


競馬の職人
 お嬢様たちの戦いエリザベス女王杯は、壮烈な戦いでメイショウマンボが見事GI3勝目を手に入れましたね。(武)幸四郎騎手が「たまには僕のレースもほめてくださいよー」と、ちょっぴりハニカミながら言ったのが印象的でした。

 オークスはマンボの力。秋華賞は馬を信じての、人馬一体の騎乗。そしてエリ女は、坂の下りから馬群の外に出して一気にスパートをかけ、重馬場もはねのけ、見事な騎乗でしたね。僕もライブでバッチリ観戦しました。感動です。やっぱり生はいいなぁ。

 その前日には京都ジャンプS(J-GIII)もありましたよね。小坂騎手は、ニジブルーム号に騎乗して、惜しい3着でした。今週は、ジャンプ界で活躍中の小坂忠士騎手を狙ってみました。彼も若くからジャンプレースに挑戦して、活躍しています。

◆「めんどうやな」と思われながら

常石:2001年にデビューして、2戦目で初勝利。その頃から障害レースにもチャレンジしていましたよね。

小坂:はい。3月3日の阪神4Rでデビューして、1番人気の馬に乗せていただいたのに、勝つことができず、その後の7Rで2番人気のブリッジシャトーで勝つことができました。今思うと、何がなんだかわからないまま勝った感じですね。でも、嬉しかったです。緊張が少し和らいだ感じがしました。

 その数日後に地方競馬に初騎乗させていただき、中央との違いを経験しました。乗り難しかったですね。そして6月にシンボリアカデミーで初めて障害レースに騎乗しました。やっぱり、緊張しました。同じ馬で、7月に小倉競馬場で初めて障害レースで勝つことができました。

 でも僕は、障害レースの騎乗がとってもヘタで、落馬してしまったり、乗ったまま宙吊りになってしまったこともあります。高田先輩に「めんどうやな」と思われるくらい(苦笑)、いろいろ聞いてアドバイスをもらっています。

常石:障害馬は自分で作っていく面白みもあるけど、「これでいいのかな?」と不安もあるもんね。

小坂:高田先輩に「オレ、このレースに乗るので見ててください」とよくお願いしてました。高田先輩がアドバイスしてくださったことを、次に乗る時に気をつけて乗るように心掛けています。的確に教えてくださるので、わかりやすいです。

 高田先輩が「上手く修正したな。なかなかやるやんけ!」と言ってくださると「ヤッター!」となって、ついドヤ顔になっていると、「調子に乗ったらあかんぞ!(ゴツン)」といかれちゃうんです(笑)。

常石:そういう先輩って、とっても大事ですよね。小坂君が、アドバイスを受けたことに対してしっかり考えて乗っているから、またいいアドバイスをもらえるんですよ。

小坂:いつも「障害レースの基本を忘れるな」と言われます。馬に負担をかけないこと。ちょっとつまづいただけでも、落馬してしまいますからね。それって無駄があるからだと思います。「最低限それはなくしていかないと、障害レースには乗るな」と言われます。

常石:とってもいいアドバイスだと思う。僕も落馬前に潤に聞けばよかったなぁ。まずは無事に完走することが一番。その後に結果がついてくるからね。

小坂:落馬しても怪我をしないように、どう乗ったらいいか努力しています。落馬しそうになった時は。馬の首にしがみついたこともありましたね。だからよく「空中分解して宙吊りになってる」と言われるんですよね。みっともないですよね…。

常石:やっぱり基本は、落馬しないで完走ですからね。それは障害レースだけに限らないけど。その後1、2年で凄い成長しましたよね。2003年3月に阪神スプリングジャンプをカネトシガバナーで勝利して、重賞初勝利を挙げ、この馬で中山グランドジャンプに騎乗して4着になってますよね。

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重賞初勝利となったカネトシガバナーでの阪神SJ


小坂:まだまだですよ。GIには挑戦していても、勝てていないですからね。チャンスはあってもこれは難しいです。常石さんは凄いですね。このレース勝っていらっしゃいますでしょう。

常石:いやいや。これも運でしょうね。中山のジャンプコースは難しいから、強い馬でも距離とかコースで合う合わないがあって。何処の競馬場のコースが好きですか?

小坂:特に無いですが、中山のコースはやっぱり難しいです。

常石:だからいろんな競馬場で重賞レースをコンスタントに勝ってるんですね。凄いな。その中でも、史上初の障害重賞8勝を挙げた名牝・コウエイトライの主戦として、重賞7勝しているんでしょう。あとの1勝は、潤だったよね。

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コンビで重賞7勝を挙げたコウエイトライ(2010年阪神JS)


◆障害騎手のネットワーク

小坂:減量の時から障害レースに乗っていて良かったと思います。今からだと、きっと相当な覚悟がいると思います。それに、今さら誰にも聞けないっていう感じですよね。調教は人それぞれで、「馬に合わせて」って言うでしょう。腰が緩い馬はどうしようと思います。減量の時だったから何でも先輩に聞いてアドバイスをもらうことができましたけど、それが今でも続いていますから…甘え過ぎですかね。でも、高田先輩は僕の師匠ですから、ずっと頼りにしています。

常石:特に障害馬の調教は“これ”って言うのが無いからね。小坂君は熱心だし、それにアドバイスを次に生かして乗ってるから。障害騎手たちは、いつも情報交換していますよね。あれっていいなぁと思います。レースの回顧もしたり、みんなでできるだけ事故の無いように工夫をしているんですよね。いい先輩方に恵まれていますね。大事にしてください。

小坂:そうなんです。「この馬は跳びが危ないから後ろにつくな」とか、先輩が作った馬に乗せてもらうこともあるので馬の癖なども教えもらっています。障害レースって、馬が教えてくれるところ多いですよね。強い馬なんて僕が何もしなくても跳んでくれますよね。いかに強い馬に乗れるかも大事です。

 大きいレースに乗った時には「勝った馬がどういう動きをしているか?」「どんなレース運びをしているか?」「成績を残している人の進路の取り方」など、パトロールビデオを見て勉強しています。

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繋がりの強い障害騎手のネットワーク


常石:昨年の中山グランドジャンプも、バアゼルリバーで2着。惜しかったですよね。今年は6着でしたね。この馬はどんな馬ですか?

小坂:相手が強かったですね。(昨年は)GIIを勝って順調にきてたし、馬自身の走りもしっかりしていました。障害初戦は、ついて回れずに焦りましたが、能力のある馬なので期待してたら、2戦目で激変してくれました。斤量もこなせるし、スピード任せの競馬より距離も長い方がゆったりとこの馬のリズムで競馬ができるので、馬の持ち味がでやすい。

 中山グランドジャンプでは、初コースですが、馬がちゃんと跳んでくれるから回ってくればいいなと思っていました。大障害に向かう時も、馬の視野を広くして周りに馬を置かないで飛越したかったんです。馬にできるだけプレッシャーをかけたくなかったんです。

常石:馬のことを大事にしながら騎乗しているんですね。

小坂:この馬は平地でも活躍しているし、まだまだ成長してくれます。馬に教えられることが沢山あります。馬の首にのっかかってるだけじゃいけませんからね。僕がもっと成長しなければいけません。特に障害は、人と馬のかみ合わせが大事になってくると思います。

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期待の大きいバアゼルリバー


常石:今年は10勝を挙げ(11/11現在)、潤との差は3勝。いい戦いができそうですね。障害騎手としてファンにメッセージをお願いします。

小坂:とんでもないですよ。高田師匠には追いつけません。レースも少ないですからね。でもよく勝たせてもらっています。感謝です。ファンの方にはいつも応援してもらって、ありがたいです。思うような結果が出せなくて申し訳ないです。

 障害レースは追い切りのVTRもないし、中間の情報もあまりないので、馬券は買いにくいと思います。その日の馬の状態だけではなく、前走でどんな走りをしていたのか、馬と人間がいかにかみ合って騎乗しているかなど、じっくり観察して欲しいと思います。障害馬は現役が長いので、ずっと追い掛けていると面白いと思います。ぜひ興味を持って観戦してください。みんなで頑張ります。たくさんの方に応援してもらえると、頑張れるんです。よろしくお願いします。

常石:小坂騎手は、馬へのあたりがとても素直で優しいと思います。障害馬を作る上では、とても大切なことだと思います。でも、レースになると大胆に乗ったり積極的なレース運びをするので、頼もしいと思います。

小坂:そんなふうに言ってもらったら嬉しいです。頑張ります。

常石:貴重なお話をありがとうございました。年末の中山大障害を楽しみにしています。


 真面目で率直な小坂騎手は、馬に対するあたりが柔らかいので、いろんな競馬ができて面白いですね。ますます魅力を出せる騎手だと思いました。つねかつこと常石勝義でした。[取材:常石勝義/栗東]

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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