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素晴らしい勝負強さ/新潟記念

  • 2014年09月08日(月) 18時00分


降着ルールを世界主要国に合わせることは、まったく進歩ではない

 サマー2000シリーズの最終戦は、1番人気に支持された5歳マーティンボロ(父ディープインパクト)が乱戦を切り抜けて逆転勝ち。シリーズチャンピオンになった。

 N.ローウィラー騎手(マーティンボロ)の進路の取り方には、レース直後、再三の斜行により多くの馬がゴール直前に致命的な被害を受けたことや、右ムチの入れ方などから、一部ではラフすぎる騎乗による「失格」もささやかれたが、審議ランプはつかず、のちに9月13日から10月5日まで23日間(実効8日間)の騎乗停止の制裁が科せられることで終了した。

 新降着制度による、降着・失格の判定はきわめて難しい瞬時の判断になるが、今回はサマー2000シリーズの最終戦であり、加害馬マーティンボロが逆転のチャンピオンになった一方、実際に被害馬の1頭であるメイショウナルトは、被害を受けたことによって同点のサマーチャンピオンを失うことになったから、現実に生じた結果は複雑である。新潟記念の進路妨害の判断と、サマー2000シリーズは別になんの関係もないが、あれだけラフな斜行で8日間の騎乗停止になるということは、レースでの「降着、失格」判断と、そのあとの騎手へのペナルティは別のこととはいえ、ペナルティの大きさから、実際には降着、失格寸前だったと推測されること当然である。

 ゴールに近い地点の斜行だったから、あの不利がなかったら、たとえば素晴らしい勢いで伸びていたニューダイナスティ(0秒2差の7着)あたりが、マーティンボロに先着できたかどうかなど、だれにも分からない。したがって、判断できない、分からないのだから、降着にはならない。というのが現降着制度である。しかし、ルールのかかえる不条理や、矛盾を場合によってはカバーできるかもしれないのが、「著しいラフプレーにより他馬に被害を与え、なおかつ、レースをめちゃめちゃにしてしまった」騎手(馬)に対する失格処分である。

 マーティンボロのレース運びが、失格に相当するか、いやそれほどでもないか。これは見解が分かれるから、なんともいえないが、瞬時にすべては判断できないような複数(最低でも5頭以上)の馬に対する進路妨害であることだけは明らかである。判断できないものは「降着・失格」にならないという降着ルールを、裁決委員が逆手にとってはまずい。政治家ではない。検察でもない。

 これは短時間で判断できないと察知した瞬間に、当然のように「審議ランプ」に手が伸びているのが、JRAの優れた裁決委員でなければウソである。斜行が、瞬時に「降着に相当する進路妨害ではない」と判断できるケースだけならいいが、実際には、多頭数レースで判断不可能なケースは以前よりいっぱいある。斜行などめったに降着にはならないからである。

 公正なレースが行われるために、新降着ルールによって裁決委員の担う役割と責任が以前より重大になっている。瞬時に判断して(しまって)いいからである。しかし、最近はまるで面倒な審議を避けようとするかのような流れが感じられるのは、どうしてだろう。いつか指摘したが、降着ルールを世界主要国に合わせることは、全然、進歩進展ではない。正義から遠ざかることになるのをだれも否定できない。マーティンボロは悪くない。ローウィラー騎手だってそんなに悪いわけではない。でも、あれで騎手だけの制裁で終了は、JRAが謳う公正な競馬ではない。どこかの議員がいったという「要は金だろう」と同じ次元に堕落し、大げさにいえば、場合によっては「あいつを邪魔してくれ」、の世界にもつながりかねない。どうせ審議になんかならない。

大きな展望が開けたマーティンボロ

 少しも悪くないマーティンボロは、ここにきて急速に強くなっている。ほかの5歳馬より約半年遅く、8月20日に満5歳になったばかり。南半球仕立ての実験的交配で(秋に種付け)、受胎牝馬を南半球に輸出するか、南半球のオーナーに購入してもらうための試みだったが、馬インフルエンザの影響を受け、日本で走ることになったといわれる。

 今回の勝利は少々乱暴な1勝になったが、馬群をこじあけ、他馬をはじき飛ばして抜け出したからその勝負強さは素晴らしい。サマー2000シリーズチャンピオンは狙ったローテーションではなく、小倉記念2着が休み明けだから、それこそたまたまのボーナス。秋のビッグレースに向けて大きな展望が開けた。さらにパンチアップが期待できる。世界中に広がる名牝系で、3代母は北米で17勝したカナダの年度代表馬グロリアスソング(父ヘイロー)。ヴィクトリアマイルなどのヴィルシーナ(父ディープインパクト)は、マーティンボロの半姉の産駒にあたる。とりあえず6勝を挙げる2000mの天皇賞(秋)に挑戦することになるだろう。

 一旦は勝ったかとも見えた5歳クランモンタナ(父ディープインパクト)も、ここへきてパワー強化著しい。これで通算成績【5-8-4-7】。ちょっと詰めが甘いのはスキーパラダイス一族の特徴だが、この馬は粘り込むだけでなく追っての鋭さを身につけてきた。同じディープ産駒の勝ち馬に2キロ軽い54キロで差されたから、ビッグレース展望とまではいかないが、格上がりでこの内容は立派。中距離戦で崩れない馬に育ってくれるだろう。

 以下は、直線で不利があった馬が多く、着順と実際のレースの中身は一致しない馬も多い。メイショウナルト(父ハーツクライ)は、今回はすんなり先手を取ったあと、もし、差されて負けても5着以内(最低2ポイント)ならサマーチャンピオン確定なので、少しペースを落とした逃げに持ち込みたいように映ったが、内から横山典弘騎手のダコール(父ディープインパクト)に、行かないなら……と牽制されて並びかけられたのが痛かった。4ハロン目に11秒4とペースアップした地点でハナを奪い返すように動かざるを得なかったのが、前半1000m通過「59秒1」の数字以上に厳しかったろう。直線残り1ハロン、外から切れ込んできたマーティンボロにカットされ、あきらめざるをえない形で0秒6差の10着。進路妨害を受けなければ、どの馬が勝ってもぎりぎり5着に残ったかもしれないし、6-7着だったかもしれないが、不運だった。

 新潟記念らしく17番人気のトーセンジャガー(父マンハッタンカフェ)が、これはやったのではないかのシーンもあった。3月に勝ってはいるが、実際には不振期が連続していて、好調時には戻れないのかと思えたが、まだ6歳。この内容なら、調子が戻ればもうひと花がある。

 ダコールは、みんなの嫌った内を衝いて先手を奪おうかの先行策。見た目より余力があったから横山騎手は直線は外に出してきたが、メイショウナルトなどの前にこの馬も前をカットされてあきらめた。ユールシンギング(父シンボリクリスエス)は、馬体重は-2キロでも、体型が変わったのかずっと大きく映った。はっきり成長している。だが、休み明けで、いきなり57.5キロのトップハンデではさすがに苦しかった。変わり身に期待していい。

 追い切りでは素晴らしい動きをみせたステラウインド(父ゼンノロブロイ)は、デキの良さを買われて2番人気に支持されたが、「最初からずっとかかり通しで…」と蛯名騎手が振り返るように、珍しく前半からずっとムキになってしまっていた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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