凱旋門賞を制したジャルネ騎手の言葉
戦いの本質は詭道、偽りの方法であるという孫子の言葉、「兵とは詭道(きどう)なり」を実感した。敵の裏をかいたり意表を突いたりする偽りの作戦を展開することを詭道と言うが、競馬にだってこれは存在する。フランスの牝馬トレヴの連覇は、凱旋門賞4勝目となったジャルネ騎手の言葉に象徴されていた。曰く「ロンシャンは特殊なコース、それにフランスの競馬では戦術も大事。そのあたりの経験が必要なのだ」と。レースに勝つためには当然と思っているこういう要素でも、国独特のものがあるのだろう。
日本人は、詭道と言うと良くないことと感じ、正々堂々と戦うべしというのだが、そうした中にでもレースの駆け引きは存在している。展開を読むとか予測するといったことは、レースを戦う側も競馬に参加する側も、必要な要素と認識はしている。強い馬は、王道を堂々と歩んでこその思いを背負っているから、いざ実戦では、なかなか口に出せない。だが、勝つために存在する方法を探らなければ、夢はかなえられない。そして、詭道を繰り出すための前提があることも忘れてはならない。
その中で重要なもの、それはやはり情報だ。相手がこう出ようとしていると知れば、こちらはこうしようと考えられる。情報がなければ、詭道は取りようがない。「彼を知り己を知れば、百戦してあやうからず」と孫子が述べた言葉がここで登場する。だが、孫子のこの最も有名な言葉も、相手が実情を隠そうとすれば生きてこない。自分のことは分かるが相手の実力はわからないことになってしまう。そして最も悪いのが、相手のみならず自己認識も甘い場合だ。戦いに勝つにはどうすべきか、まず自分自身を理解することではないか。
スプリンターズSを芝初勝利で勝ったスノードラゴンをパートナーの大野拓弥騎手は、長所も短所も知りつくしていた。好スタートを切れたこと、手前替えもスムーズだったことなど、それまでの欠点をカバーできたことが大きかった。詭道とまではいかなくとも、敵の意表を突いたことにはなっていたのだ。