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秋に向けた可能性と課題/エプソムC

  • 2015年06月15日(月) 18時01分


1,2着馬の内容を考える

 4歳エイシンヒカリ(父ディープインパクト)が期待通りにマイペースで押し切り、重賞初制覇を達成。通算成績8戦【7-0-0-1】となった。対する同じ4歳牡馬サトノアラジンは、クビ差及ばなかったものの2着に入り、そろって注目の2頭は秋のビッグレースシーズンを待つことになった。

 支持に応えた2頭を高く評価しながら、秋のG1シリーズで抱える課題はどこにあるのか? 強く印象の残っているうちに力量を推し量り、可能性を考えたい。

 勝ったエイシンヒカリは、予測された通り、他陣営に「あの馬と競っても仕方がない」の快速イメージが利いていた。しかし、断然のスピード能力を信頼するならもう少しピッチを上げた気もするが、武豊騎手はスローに近いペースの先導だった。

 ここまで8戦のうち、1800mで速い時計を記録した内容をまとめると(アイルランドT2000mは1800mの通過記録)、

▽未勝利戦…1分45秒7
前半59秒0――上がり46秒7-34秒3-11秒3
▽500万…1分45秒5
前半59秒2――上がり46秒3-34秒5-11秒5
▽アイルT…1分45秒5
(前半58秒2――上がり48秒1-35秒8-12秒8)
▽都大路S…1分45秒7
前半58秒8――上がり46秒9-35秒0-12秒3
▽エプソム…1分45秒4
前半59秒2――上がり46秒2-34秒6-12秒2

 3戦目に超スローで1分47秒8だった三木特別、6戦目の1分46秒8で9着に沈んだチャレンジCを別にすると、1800(2000)mを速い時計で勝ったときのエイシンヒカリは、馬場差もあれば、相手のレベルも異なるが、なんと時計はみんな「1分45秒4-7」である。驚くべきことに、デビュー2戦目の500万圧勝と、今回のエプソムCの中身は同一にも近い。

 この安定した能力は素晴らしい、とはいえる。しかし、少しも強くなってはいないではないか、という物足りなさも見えたのである。今回は、しなやかに重心を沈めた調教の動きなど、これまでよりずっとシャープであり、明らかに進化しているように思えた。

 だから、楽な単騎マイペースに持ち込めた時点で、途中からもっとレベルの高い中身を示してくれると期待したが、正直、案外だった。直前の条件戦の1600mが「1分32秒9(ハロン平均11秒62)」の高速馬場である。期待のエイシンヒカリと、サトノアラジンの対決の1800mが「1分45秒4(ハロン平均11秒71)」では、明らかに平凡であり、11秒台のラップが7回も連続した中間の1400mが1分20秒3と高速なので、息を入れにくかったとはいえ、このペース、この全体時計で、最後の1ハロン「12秒2」の勝ち負けは物足りない。

 ストームキャットを配合するくらいだから母方は名牝系であり、母キャタリナ(USA)の5代血統図には、芦毛を伝えるカロ(その父フォルティノ)を囲むように、ノーザンダンサー、セクレタリアト、クリムズンサタン、プリンスキロ、グレイソヴリン、リボー、シーバード…など、世界の名馬物語が収録されている。ぜいたくすぎ、種牡馬としてはアクの強い名馬まで並べてしまったから、雑草のようなタフな成長力を伝えていないのだろうか。

 もともと「後半のスタミナには自信がもてない」という陣営の心配もあると伝え聞く。いやいや、遅れてデビューし、まだキャリア8戦だけ。本質は決して一本調子型ではない。成長して本物になっていくのは4歳秋を迎えるこれからである。そういう立場をとりたいが、今回のエプソムCにより、エイシンヒカリの未来に霧が出てきたことも否定できない。

 一方、最終的に1番人気の支持を受けたサトノアラジンも、今回は「??」の2着だった。

 他のコーナー(丹下氏との動画)で、サトノアラジンの死角を考えたときに最初に持ち上がったのは、2走前の春興Sで爆発させた後半3ハロン「32秒7」は、中山の1600m以上では史上最速に相当する驚異の切れ味であり、前回の東京1800mを1分44秒7の高速決着で差し切ったのは、こういう快時計には伴うことのない上がり「33秒5」の爆発的な末脚であり、2度も連続して極限の能力を出し切ったサトノアラジンが「疲れていないわけがない」だった。

 間隔が詰まっての中2週とはいえ、明らかに今回の調教は控えめだった。落ち着き払ったパドックのあと、本馬場に出ると、気合の充実しない自分自身にカツを入れるように2-3度ジャンプして見せたサトノアラジンだが、気迫不足というより元気がなかったのだろう。

 ここ2戦で完成した、前半は控えて「最後の爆発力を生かすレース」を今回のC.ルメール騎手がとらなかったのは事実だが、1000m通過59秒2のスローでマイペースのエイシンヒカリから離れて、たとえば3番人気だったフルーキー(父リダウツチョイス)などと同じような位置に控えると、自身の1000m通過は「60秒0」以上の超スローの追走にもなりかねない。それでは勝算は著しく低下する。インを衝きながら繰り出したサトノアラジンの自慢の切れは、「34秒3」止まり。明らかに本調子ではなかったのが原因と思える。

 期待のわりに案外平凡だった2頭、サトノアラジンの平凡な内容の2着は、体調と思えるから実際にはあまり深刻ではない。立て直してパワーアップの再鍛錬しかない。しかし、エイシンヒカリの場合は、スローの競馬が続きすぎるから、久々に出現した快速馬のような印象を与えていたが、実際には競り込むのをためらう快速馬ともいえないことが露呈した危険がある。自身のパワーアップを図りながら、絡んでくる伏兵を振り払うスタミナ強化が求められる。もう一度、「快速エイシンヒカリにケンカを売っても仕方がない」と刷り込まないといけない。

 休み明けのディサイファ(父ディープインパクト)と、安田記念からこちらに回ってきたフルーキーは、上がり最速と2番目の「34秒1と34秒0」。エンジン全開は坂上からだけだった印象があり、脚を余してしまった。ペースを作るのはエイシンヒカリ(武豊)だから、「スローはない」と読んでしまったかもしれない。ヒラボクディープは好位でかかってしまった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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