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水の浮く馬場でも圧倒的な瞬発力を発揮したノンコノユメ/ジャパンダートダービー

  • 2015年07月09日(木) 18時00分

(撮影:高橋正和)



01年以降、ユニコーンSとの両レース制覇はカネヒキリ以来

 ダートでは一般的に湿った馬場のほうがタイムが出るが、道悪でも水が浮くほどになるとむしろスピードが殺されてしまう。この日の大井はまさにそんな馬場。勝ちタイムの2分5秒6は、過去10年の勝ちタイムとの比較でも2番目に遅いものとなった。

 クロスクリーガーとノンコノユメに人気が集中し、兵庫チャンピオンシップのようにクロスクリーガーが逃げて直線突き放すのか、それともユニコーンSのようにノンコノユメが直線一気を決めるのか、それとも水の浮く馬場で伏兵が台頭するのか。果たして4コーナーから直線半ばまではクロスクリーガーの勝ちパターンに思えた。しかし直線半ばあたりから残り100メートルのところで一気に形勢逆転。ノンコノユメが初めて経験する不良馬場にもかかわらず、目の覚めるような末脚を発揮して見せた。

 クロスクリーガーは他馬に競りかけられることもなく、すんなりと先頭に立ってマイペースの逃げ。普通なら2F目に11秒台、ときに10秒台のラップを刻むこともあるが、今回は12秒0だったことでも先行争いが激しくならなかったことがうかがえる。前半1000mの通過63秒0はややスローだが、タフな馬場を考えると、馬によっては必ずしも楽なペースではなかったかもしれない。

 前半の4F目に13秒3があったものの、後半はすべて12秒台とほとんどラップが落ちなかったのは、普段なら直線勝負の有力馬が馬場状態を考え、いずれも早め早めに位置取りを上げてきていたからだろう。東京ダービーでは直線大外一気で2着に入ったパーティメーカーは向正面に入ったところで5番手、今回は互角のスタートだったノンコノユメもそのうしろの中団、1コーナーを最後方で回ったストゥディウムも徐々に位置取りを上げてきていた。

 クロスクリーガーにとっては、ライドオンウインドとラッキープリンスに4コーナーまでピタリとうしろにつかれていたこともあって、息を入れられる場面がほとんどなかった。それでも3着以下の馬たちの上りが39秒台から40秒以上かかっているところ、逃げたクロスクリーガーの上りは38秒7で、逃げて直線突き放すという、逃げ馬としては完璧に強い競馬をした。ただしそれはノンコノユメがいなければ、という話になる。ノンコノユメは、クロスクリーガーより1秒4も速い、37秒3で最後の3Fを上がってきた。

 1800メートルまでのラップは逃げたクロスクリーガーが刻んだもので、残り100メートルのあたりでノンコノユメに交わされた。クロスクリーガー自身の上り3Fが38秒7で、レースの上りが38秒2だから、クロスクリーガーの最後の1Fはレースのラップタイムより0秒5遅い13秒4と推定できる。たしかに最後は脚が上がったともいえるが、それにしても4コーナーでは直後にいたラッキープリンスを5馬身差突き放している。ノンコノユメは、ユニコーンSでもレースの上り3Fが37秒0のところ、自身は35秒5で上っていたが、今回も同じように1頭だけ次元の違う末脚を発揮した。管理する加藤征弘調教師ですら、「こちらの想像を絶するというか、毎回(いい方に)期待を裏切ってくれる馬です」と驚きを隠せないほどだ。

 中央勢が6頭出走したなか、東京ダービー馬ラッキープリンスが3着、羽田盃馬ストゥディウムが4着と、地元南関東のタイトルホースが健闘。ラッキープリンスは、東京ダービーの勝ちタイムより0秒4タイムを縮めての2分7秒1。東京ダービーでは得意の末脚が影を潜めたストゥディウムだったが、今回は人気・実力ともに抜けていた1、2着馬以外では最速の上り39秒3。この2頭も悪条件のなか実力は発揮した。5着以下については、馬場にスピードを殺され持てる力を発揮できなかった馬もいるはずで、今回の評価はあくまでも水の浮いた不良馬場でのものとしておいたほうがよさそうだ。

 ユニコーンSで強い勝ち方をして、ジャパンダートダービーで人気になりながら、その期待を裏切ったという馬も過去には少なくない。ユニコーンSが6月上旬に行われるようになった2001年以降で、両レースを制したのは2005年のカネヒキリ以来2頭目のこと。果たしてノンコノユメは、カネヒキリ級のダートチャンピオンとなるのかどうか。今回のレースで、ナイターや、水の浮く不良馬場や、そして何より年に2度(JBCの開催場となれば3度)古馬のGI/JpnIが行われている大井の2000メートルの舞台をこなしたことで、その可能性は高いように思う。

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1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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