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時計、着差以上に強さを感じさせた内容/札幌記念

  • 2015年08月24日(月) 18時00分


もともと底力を秘めていた証明

 5歳時に、初重賞エプソムC(GIII)を制したちょっと遅咲きの6歳ディサイファ(父ディープインパクト)が、3月の中日新聞杯(GIII)を制したのにつづき、今度は札幌記念(GII)を先行して抜け出した。時計、着差以上に強さを感じさせた内容が光り、6歳になり一段とパワーアップした成長力を味方に、秋のG1シリーズに再挑戦することになった。

 開催後半になり内ラチを3m外に移動したCコースは、この日、2歳未勝利戦の芝1500mでレコードが記録され、500万下の芝1800mの勝ちタイムも札幌にしては速い1分48秒4。洋芝ながら、時計勝負になって不思議ないコンディションだった。前後半「58秒9-60秒1」=1分59秒0の時計は平凡だが、陣営も四位騎手も予測される速いタイムに対応しようと、これまでのディサイファとは違い、行くトウケイヘイローを積極策で追走し、自分からスパートして押し切り勝ち。勝ちみの遅さを感じさせたころとは、明らかにひと味ちがった。

 陣営は、5歳春に初重賞のエプソムCを制した昨年、「大事に、大切に成長をうながしてきた期待馬が、ようやく結果が出せた。ことのほか嬉しい」というトーンのコメントを発していたが、恐るべし「ドバイミレニアムの血」ということか。限られた産駒の中から、後継種牡馬ドバウィが出現して大成功したのと呼応するように、母の父にドバイミレニアムを持つ牝馬ミズナ(不出走)がGレース3勝馬の母となったのである。昨年の天皇賞・秋では、12着(8番人気)にとどまったが、スローの接戦で差は0秒6しかなかった。本質がスピード系らしく、ディサイファは1800-2000mに高速の持ちタイムがある。

 天皇賞・秋では、8歳時に本物になり、1分57秒2で勝ったカンパニー(父ミラクルアドマイヤ)の例もある。遅れて本格化は、もともと底力を秘めていた証明である。

 直線、もつれて台頭したのは、2着に突っ込んだヒットザターゲット。このベテラン、5歳時に強烈な爆発力で京都大賞典(GII)を差し切り、7歳の今春は57キロで馬群を割って目黒記念(GII)を勝った。今回の組み合わせでは「過去の実績」なら少しも見劣らないどころか、最上位の1頭にランクされても不思議ないが、札幌に登場したのは、4歳夏の札幌記念を3番人気で11着に負けて以来のこと。候補の1頭とされて好走したことがなく、これで重賞連対は5回目だが、「5、6、11、11、8」番人気の時である。

 たまたまツボにはまれば…の大駆けタイプだったが、今回は目黒記念につづいて連続してGIIで快走したから素晴らしい。この伏兵、昨年の天皇賞・秋は、10番人気でスピルバーグから0秒2差の5着だった。ディサイファに0秒4も先着している。ディサイファに、「カンパニーの例がある…」としたが、実はもっとふさわしいのは7歳ヒットザターゲットかもしれない。母の父タマモクロス。祖母の父ニホンピロウイナー。ともに天皇賞・秋で快走している。

 勝ったディサイファと同じ美浦の小島太厩舎のダービーフィズ(父ジャングルポケット)が、岩田騎手必殺のイン強襲で「アタマ、アタマ」差の惜しい3着。54キロの函館記念をハナ差勝ちしたのが現時点では最大の能力と思えたが、巧みなコース取りがあったとはいえ、57キロで札幌記念(GII)をタイム差なしの3着は、さすがマンハッタンカフェの一族。春まで1000万条件を人気で勝てなかった当時とは別馬である。今まさにピークを迎えている。

 秋のビッグレースシーズンを前に、伏兵評価のベテランが快走したのに対し、もっと大きく成長して欲しい人気上位グループは、3歳ヤマカツエース(父キングカメハメハ)が4着に健闘した以外、みんな凡走してしまった。

 初めて1番人気になったトーホウジャッカル(父スペシャルウィーク)は、スタートで出負け気味。押して好位を取りに出た時点でもうリズムが悪かった。菊花賞の反動が尾を引き、なんとか出走にこぎつけた宝塚記念時に比べれば、今回のほうが不安は少なかったが、彗星のように頭角を現した3歳秋と異なり、G1馬となってからのローテーションと、仕上げはことのほか難しいのだろう。近年、新星として菊花賞を制した馬は珍しくないが、11年ビッグウィーク、10年スリーロールス、06年ソングオブウインドが象徴するように、激走した菊花賞のあとが大変である。菊花賞馬らしいレースをしなければならない。菊花賞馬らしくあって欲しい。関係者のみならず、わたしたちの期待も高まる。たしかに菊花賞の勝利で可能性は広がっている。

 ただし、3歳のビッグレースはすべてそうだが、激走することによって生じる反動や消耗が、だれもそんなことは認めたくないが、受け入れなければならない現実として多くの馬に降りかかるのは事実である。まして3000m日本レコードの激走だった。トーホウジャッカルは決してあせることなく悠々と、しかし、懸命に立て直したい。

 C.ルメール騎手のラキシス(父ディープインパクト)は、ディサイファ(四位騎手)と同じようなレースを予測し、内枠の利を生かそうとする作戦だった。ここまで2000mは4戦【2-1-0-1】。少しも悪い成績ではない。洋芝もOKと思われた。ところが、ここに至るまでの2000mの最高タイムは2分01秒7。今回の走破タイムは自身とすれば破格の「1分59秒2」なのに、最後はスピード負けである。ストームキャットの牝馬に、ディープインパクト。快速型であっても不思議ないこの牝馬、距離は問わず、予測された通りの時計で決着したレースでは、1度も好走例のない馬になりつつあるから不思議である。

 4コーナーでは勝ち負け必至と思われる勢いで上がってきたラストインパクト(父ディープインパクト)は、そこから直線の詰めを欠いて6着止まり。一見、パワフルな印象を与え、事実そういうファミリー出身だが、これがラキシスとはまったく逆。予想外の快時計決着なら好走するが、タフなレースでは決まって善戦止まり。洋芝は合っていなかったのだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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