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秋のヴァンセンヌと少頭数競馬のフランス人

  • 2015年10月08日(木) 12時00分


デットーリ騎乗の英国馬ゴールデンホーンが凱旋門賞を勝った。重馬場なら回避、良馬場なら出走するといって、天と大衆をも見方につけて、圧勝した。
(天とはお天道様のこと。フランスはずっと晴天で馬場は乾いていた。大衆とは競馬ファンのこと。強い馬の出走は盛り上がるし、馬券も売れる。イギリスでは良馬場と稍重の中間くらいの馬場を理想とするのに対して、フランスでの理想の馬場は稍重で、散水して馬場を管理するらしい。大衆の期待が馬場を稍重ではなく良馬場にさせたか。だとすると、ゴールデンホーン陣営の投げかけた牽制球が功を奏したことになる。各国の馬場管理のことは本日発売の競馬王・海外版コースの鬼で詳しく紹介されている)

いずれにせよ、去年、トレヴを降ろされたデットーリとしては感無量の勝利だったろう。
その凱旋門賞を見ていて、自称・競馬印象派として、気になったのは2つ。

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#1 スタートしてすぐにデットーリはゴールデンホーンを馬群から離して追走させた。
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そして離れた外から追走させて、いつの間にか番手を奪っていた。
まるで、去年の宝塚記念(1着)や今年の天皇賞春(1着)の横山典騎手のゴールドシップの騎乗法じゃないか!

宝塚記念でも天皇賞春でも、横山典は出負けしたゴールドシップを最初のスタンド前の直線では、1頭だけ馬群から離し、大外から徐々に前に進出させて、コーナーで馬群に接近させていた。その真意を自分は知らないけれど、きっと気難しい、もしくは我が強そうなゴールドシップを気分良く走らせるための作法なのだろうと思っていた。

したらば、凱旋門賞でデットーリが同じようにゴールンデンホーンを馬群から離して先行させていた。グリーンチャンネルの凱旋門賞中継のゲストだった武豊は、ゴールデンホーンは難しい馬だと語っていた。

おっと、これはメソッドか!? 強いけど難しさのある馬を操縦する最新のトレンドなのか!? デットーリと横山典が実はすごく仲良くて、ラインかなんかで情報交換会をしているとしたら、トレンディーエンジェルだけど、実際どうかはわからない。ただデットーリ得意のフライング・ディスマウント(デットーリ・ジャンプ)を日本では横山典がやる。まあふつうに妄察すると、高いレベルのキャリアの中で自然に身につけた騎乗理論ってことだろう。

細かいところはわからないけれど、横山典の得意とする騎乗法をデットーリもやっていたのは間違いなく、改めて、横山典の騎乗には意味があるのだと、凱旋門賞のデットーリを見て思ったのだった。

その横山典が毎日王冠でヴァンセンヌに騎乗する。
なぜ横山典が騎乗することになったのか、その経緯はわからないけれど、難しそうなヴァンセンヌに横山典が騎乗するのは興味深い。

ヴァンセンヌについては、安田記念の週のコラムで詳しく触れた(6月4日付け)。
この馬の面白さは、4連勝の内容が4連勝できるようには思えないのに4連勝したことだった。

屈腱炎での休養が同時に気性をも成長させたようで、休養前よりも気性はマシになっていたように思えるけれど(屈腱炎前成績2-0-0-4、出負け・出遅れ4回)、それでも2回に1回くらい制御不能っぽい荒っぽさを見せながら勝ち進み、4連勝目を重賞勝ち(東京新聞杯)で見せた内容は未知の魅力にあふれていて、凄みがあった。

なんせ逃げ先行競馬を一度もしていないのに4連勝中上がり1位だったのは1回しかなく、あとは5位、8位、4位での勝利。理由は、後方にいたのに向う正面や3角手前で暴走気味に走り出して、1頭だけ超ロングスパートで勝つレースが2回もあったからだ。これがコーナー4つの1周競馬だったのならわかる。それをコーナー2つの1600競馬でもやって、勝ってしまうのだから、ただものではないのは明白だった。

ちなみに4連勝の中身はこんな感じだった。

1勝目 芝1800・500万 
10-10-1-2 1着 上がり5位 小崎
向う正面から仕掛けて、もしくは暴走して、3角先頭に立って、押し切った。上がり5位も納得のロングスパート。

2連勝目 芝1600・1000万 
8-8-10 1着 上がり1位 福永
福永騎手に乗り替わって、折り合って(いたように見える)、直線で抜け出して、上がり1位。数少ない行儀のいいレースだった!

3連勝目 芝1600・1600万 
13-13-1 1着 上がり8位 福永
3角手前から暴走。残り4.5F(900M)くらいを一気に駆け抜けて1着した。いっしょにマクッたプリンセスジャックが11着に負けたレースで、ヴァンセンヌの乱暴な強さが際立ったレースだった。

4連勝目 芝1600・東京新聞杯 
9-7-7 1着 上がり4位 福永
位置取りだけ見ると、2連勝目と同じように見えるけれど、直線で抜け出すのが早かったからか、最後詰め寄られての1着だった。そのための上がり4位。

その後、3カ月休養し、京王杯SCで15番手から上がり1位で差して2着した。
これを見て、安田記念では大いに期待したのだった。
結果はご存知のとおり、内からなかなか抜け出せなかったけれど、抜けてからはモーリスに上がり1位で迫ってクビ差2着した。

気性は大人になりつつあるとはいえ、
いつ暴走のスイッチが入ってもおかしくない、
けれどポテンシャルは抜群に高い、
それがヴァンセンヌだろう。

そういう馬に横山典騎手が騎乗する。もう興味しか湧かない。

ここを使って、天皇賞秋へ向かうのか、マイルチャンピオンシップに向かうのか、どちらも使うのか、それはわからない。
しかし、もしこの馬がちまたで言われるように母フラワーパーク、母父ニホンピロウィナーの影響で、G1ではマイルまでの馬だったとしても、G2ならば1800を克服すると思っている。

っていうか、マイルチャンピオンシップでの勝ち負けを目指すのならば、そしてその可能性を感じているのなら、毎日王冠でも勝ち負けしないとどうしようもない。特に東京での走りは今までの傾向を見ると、行儀もよく期待はできそう。

問題は距離が伸びても、気性難を包み込むことができるかだろう。
でもそのための横山典騎手だと思っている。だからこれ以上の詮索は無駄だ。
暴走を制御できれば、この相手でも太刀打ちできるはず。暴走してしまったら、この相手では勝てない。それだけだ。横山典で馬券を買うこととはどういうことか、自分なりに理解してるつもりだ。エイシンヒカリの出るレースならば、行儀よく走れるのではないか?

にしてもディープインパクト産駒がいっぱいだ。登録13頭中10頭もいる。
自分は強いディープインパクト産の牡馬は、たとえ3歳時にダービーを目指していたとしても、古馬になると、ジャパンカップを目指すか、マイルチャンピオンシップを目指すか、運命の選択を迫られると思っている。っていうかデフォルトはマイルチャンピオンシップと思っている。
(今後は香港の道もあるかもしれない。1600か2000か2400か。2000だと天皇賞秋も含まれるから、その道も1つの幹線だろう)
そういう意味でもこの毎日王冠は進路を決める模擬試験みたいなレースかもしれないし、もう答えが出てて、そのための模擬試験かもしれない。調教師の答えは出ているけれど、馬主様が納得してない場合もある。はたしてこの中から何頭の馬がJCへ、何頭の馬がMCへ、もしくはHCへ行くのかな。

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#2 3連覇を狙うトレヴの陣営はシャアをペースメーカーとして出走させた。
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そのシャアの番手をゴールデンホーンが追走し、直線で先頭に立って、そのまま勝ち切った。2着、3着には3番手、4番手を追走した馬が残った。トレヴは中団外から追い込んだものの4着だった。

2-4番手の馬がそのまま勝つのだから、スローだったと言えるだろう。しかしトレヴは中団競馬。
騎手のジャルネは去年、凱旋門賞を勝つには戦略が大事で、日本の馬は戦略不足と語っていた。だからシャアの逃げ方には意図があったはず。去年と同じように抜け出すのに絶好の内のポジションにつける予定だったか? そのためのスローだとしたら納得できる。しかしそのポジションを上手く取れなかった。そのための中団外だった?

ペースメーカーに関しては、凱旋門賞を見るたびに気になってしまう。
オルフェーヴルが1回目の凱旋門賞(12年)に挑戦したときは、僚馬アヴェンティーノをペースメーカーとして出走させていた。しかし、レースではペースメーカーというよりは、オルフェーヴルのそばに寄り添って、守護していたかのような乗り方だった。

フランスで騎乗し、イギリスに渡ったある騎手が、フランス競馬は戦略が細かすぎて自分の騎乗には合わないと語っていた。競馬における緻密な戦略とはいったいどれほどのものか、1回聞いてみたいものだ。

ペースメーカーといえば、京都大賞典に登録のあるフォントルロイがペースメーカーに思えるのは気のせいか。
この馬はまだ1000万の身で登録してきている。2走前に途中から逃げたけれど、逃げて馬券になったことはない。

でも登録メンバーを見ていると、逃げたくない馬ばっかりだ。
逃げて馬券になったことのある馬はニューダイナスティしかいない。だからこの馬が逃げる可能性もあるけれど、最近は先行競馬で2着、3着しており、できれば逃げたくない?
直近5走で逃げたことのある馬は、フォントルロイとアンコイルドしかいない。アンコイルドも逃げは本望じゃないだろうし、回避とも言われている。

去年のジャパンカップで逃げたサトノシュレンも村山厩舎の馬で、ペースメーカーっぽい役回りを演じていた。フォントルロイは村山厩舎の馬で、今回も逃げるために出走するかもしれない。
とはいえ、フォントルロイは東京の本栖湖特別(芝2400・1000万)、京都のオルフェーヴルメモリアル(芝2000・1600万)にも登録している。どこが狙いかわからないけれど、京都大賞典に出走するようなら逃げる可能性ありと見立ててみたい。

仮に、そのつもりではなくても、フォントルロイがペースメーカーとなったら、それはラブリーデイやカレンミロティックといった先行馬には好都合だろう。だからこの2頭を狙うというのも悪くないけれど、自分は少頭数で、ペースメーカーのいるレースに慣れて、もしくは長けていそうな外国人騎手、特に戦略が緻密らしいフランス競馬出身のルメールに注目してみたい。

ファントルロイがいなければ、レースは混沌としそうで、それならそれでルメールでいい。
少頭数競馬ではフランス人。これはちょっと前から意識していて、そこそこの命中率と思っている。

ワンアンドオンリーのデキがどうか? そこはまったくもってわかってないけれど、次(天皇賞秋?)に乗ってもらえる保証はないのにルメールに頼むのだから、それなりのデキとは思いたい(ルメールはおそらくサトノクラウン)。ダービー馬の鞍上が固定しないのは少々侘しいけれど、ここを勝てば風向きも変わるのではないか。

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毎日王冠注目馬
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ヴァンセンヌ(差しかもしれないし、差しじゃないかもしれない)
イスラボニータ(復活するかもしれないし、復活しないかもしれない。でもここで復活しないでどこで復活するのか)

エイシンヒカリ(逃げ)・ステファノス(中団やや後方)・アンビシャス(差し)
賞金を上乗せしておきたいのはこの3頭。
脚質的にもバランスがいい。
この3頭に流しておけばなんとかなるんじゃないか。

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京都大賞典注目馬
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ワンアンドオンリー ルメールが騎乗するから。
レコンダイト Mデムーロが騎乗するから。
「フランス人>イタリア人」に注目してみることにした。

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サウジアラビアロイヤルC注目馬
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イモータル マンカフェ産に金子オーナーが「不滅の」と名付けたのだから、なんかあるはず。デビュー勝ちくらいじゃ名前の元は取れない。
ゴッドカリビアン 人気のない中で一番美味しそうに思える。

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競馬専門誌・競馬王の元本紙予想担当。今は競馬王その他にて、変な立ち位置や変な隙間を見つけて、競馬の予想のようなものを展開中のニギニギ系。 著書はなし。最新刊「グラサン師匠の鉄板競馬 最前線で異彩を放つ看板予想家の鉄板録」に再び間借りして、4年ぶりに全重賞・根多の大百科的なものを執筆。

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