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ノーザンファーム空港牧場A-3厩舎にとっての初GI制覇(村本浩平)

  • 2016年01月12日(火) 18時00分


◆東谷厩舎長は「次もこの馬に携わったみんなで喜びを分かち合いたいです」

 阪神JFと言えば、ノーザンファーム生産馬が好成績を残しているGIレースとしても知られている。ちなみに過去10年では7頭の勝ち馬を送り出しており、2007年から2012年にかけては、6年連続で勝ち馬を送り出している。

 昨年の阪神JFにノーザンファーム生産馬は3頭が出走。さすがデータ通りとでもいうのか、1番人気の支持を集めたメジャーエンブレムが優勝し、同条件で行われる桜花賞の最有力馬として踊り出た。

 このメジャーエンブレムを育成したのが、ノーザンファーム空港牧場のA-3厩舎である。実はA-3厩舎にとって、メジャーエンブレムは育成馬で初めてのGI勝ち馬。またノーザンファーム生産馬としても、このGI勝利が初めての重賞勝利ともなった(育成馬の重賞勝ちとしては、2004年のフェアリーSを勝った追分ファーム生産馬のフェリシアがいる)。

 このA-3厩舎を任されているのが東谷智司厩舎長である。厩舎長になった頃から話す機会が多くなり、また、春先のPOG取材における的確なコメントでも非常にお世話になってきた。これまで、フェリシアの後も重賞勝ち馬を送り出していると勝手に思いこんでいたが、育成を手がけた馬たちはコンスタントに活躍を続けてはいたものの、不思議と重賞となると、勝利の女神はA-3厩舎から送り出された育成馬たちに微笑んではくれなかった。

 それでも東谷厩舎長やスタッフたちは、毎年の様に蓄積されていく様々な経験を、目の前の育成馬たちにフィードバックしていく。メジャーエンブレムもその経験の中から送り出された馬である。

 メジャーエンブレムの父ダイワメジャー譲りのグラマラスな馬体は、調教減りを気にすることなく、早い時期からのデビューにも適していた。その一方で、ダイワメジャー産駒の牝馬の持つ前向きな気性は、仕上がりの早さというメリットと、引っかかりやすいというデメリットも持ち合わせていることも東谷厩舎長は理解していた。

 早期のデビューを目指して速い時計の調教を行いながらも、あまりテンションは上げないようにする。言葉で説明するほどに簡単ではないこの調教をA-3厩舎のスタッフたちは調教だけでなく、コースまでの行き帰りを含めて気を使っていく。その結果、メジャーエンブレムは6月のメイクデビュー東京に出走できただけでなく、勝利という結果を導き出せる状態にまでに完成度を高めていた。

 メジャーエンブレムはメイクデビュー東京に続き、アスター賞も勝利。アルテミスSでは1番人気の支持を集めながら、ゴール前でデンコウアンジュの強襲にあって2着に敗れたものの、勝ちに等しいレース内容に、東谷厩舎長は待ちに待った瞬間が近づいていることを感じ取っていた。

 本来ならば、厩舎の代表として応援に行っても不思議ではなかった阪神JF。だが、東谷厩舎長は、これまで共に頑張ってきてくれたスタッフに歓喜の瞬間を味わって欲しいと、自身は牧場に残っての応援を決めた。

 その阪神JFは、TV観戦をしていた東谷厩舎長にとって、全く危なげないレースとなった。インコースから好スタートを切ったメジャーエンブレムは、すぐに折り合いを付けると、先手を主張したキリシマオジョウを先に行かせて、自身は2番手を追走。1000M通過が58秒7という速い流れでも手応えの良さは変わることなく、直線に入ると早くも先頭に立つ。そこからはまさに独壇場だった。C・ルメール騎手のゴーサインが出たのは残り一ハロン手前。すると一気に後続との差を広げていく。馬群の中からウインファビラスが追い込んで来るも、それでもセーフティリードを保ったまま、メジャーエンブレムは先頭でゴール板を駆け抜けた。

 この勝利を自分のことのように喜んだのが、ノーザンファームに務めるスタッフたちだった。東谷厩舎長やスタッフたちの日々の努力を知っていた仲間たちは、ゴールの瞬間から次々と「おめでとう!」と電話やメールで思いを伝え、中には「幾らあっても足りないだろう?」と、わざわざ厩舎までビールを持ってきてくれた調教主任もいた。

 この話を聞かせてもらった後、東谷厩舎長は、

「自分たちの力ではなく、管理をしてくださった田村康仁調教師や厩舎スタッフの皆さん、そしてイヤリングや繁殖など、メジャーエンブレムに関わってくれた、ノーザンファームスタッフのおかげだと思っています。それだけに、次もこの馬に携わったみんなで喜びを分かち合いたいです」

 と話してくれた。近年、ノーザンファーム生産馬はクラシックだけでなく、GIといった重賞レースにも多数の生産馬や育成馬を送り出している。その結果が過去最多タイとなる、昨年の中央GI9勝という数字としても表れている。生産馬の勝利は牧場スタッフにとって時に喜びとなり、そして時には悔しさともなる。しかし、誰もが競争心と向上心を持ちながら、日々切磋琢磨しているからこそ、毎年の様に多くの生産馬たちがクラシックやGIレースのゲートへと入り、そして阪神JFのように数多くの勝ち馬を送り出しているのだろう。

 勿論、ノーザンファームに務める他の育成スタッフたちの中には、メジャーエンブレムの勝利を喜んでいるだけでなく、「次に対戦した時には、自分たちが手がけた馬で逆転してやる」と思ってもいるはずだ。こうしたノーザンファーム内におけるレベルの高い争いは、牡馬、牝馬問わず、今年の、そして、これからのクラシック戦線も更に面白くしてくれそうだ。

須田鷹雄+取材班が赤本紹介馬の近況や有力馬の最新情報、取材こぼれ話などを披露します!

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