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勝ったにも等しいレースだったジュエラー/シンザン記念

  • 2016年01月12日(火) 18時01分


勝者に対する敬意をいささかも軽んじるものではない。そうことわったうえで…

 シンザン(1964年の3冠馬)の名を頂くこの重賞の勝ち馬は、ずっと長くクラシックを勝てない時代がつづいた。日本の至宝シンザンは、自分を記念する春の先駆けのレースで、のちのクラシックにふさわしくないような馬が勝っても、きっと嬉しくないのだと思われた。1月の1600m重賞という設定もシンザンには気に入らなかったかもしれない。

 シンザン記念の勝ち馬として栄光のクラシックホースに輝いたのは、シンザン(1961〜1996)が死してのち、その呪縛が解けた2002年、第36回の勝ち馬タニノギムレット(日本ダービー馬)が初めてだった。2012年のジェンティルドンナ(3冠牝馬)が2頭目。

 だが、シンザン記念の出走馬がクラシックに縁がないなどということは、ありえない。創設2年目の1968年、出走馬の中からタニノハローモア(日本ダービー馬)、マーチス(皐月賞馬)が誕生している。とくに近年は、マイル-中距離タイプが大半の時代であり、候補の描くローテーションからして、以前とは異なる。2011年の2着馬オルフェーヴルは、最初は伝説のシンザンと同じように必ずしもエースではなかったが、やがて3冠馬にまで昇りつめた。

 とくに近年は、距離体系が明確になったことも関係し、1600mの桜花賞を展望する有力牝馬が出走することもある。最近10年、このシンザン記念で男馬相手に「3着以内」に快走した牝馬のそのあとの活躍はあまりに有名である。該当するのは、2007年の2着馬ダイワスカーレット、2011年の3着馬マルセリーナ、そして2012年の勝ち馬ジェンティルドンナ。この10年間で3着以内に入った牝馬は3頭だけ。みんな4月の「桜花賞馬」となった。

 今年、筋としてまず勝ったロジクライ(父ハーツクライ)に触れなければならないが、勝者には勝利の事実に勝る栄誉はないから、賞賛の言葉をならべなくとも勝者に対する敬意をいささかも軽んじるものではない。そうことわったうえで、猛然と2着に突っ込んだジュエラー(父ヴィクトワールピサ)に注目したい。

 ワンカラット(父ファルブラヴ)の下だから、ジュエラー(宝石職人)。1200mの新馬は勝ったが2戦目の小倉2歳Sで5着にとどまり、本物になるには少し時間のかかった半姉ワンカラットと比較すると、体型、距離適性…などそうは似ていないが、新馬の勝ち方からしてスケールは姉より1枚も2枚も上だった。京都1800mを直線一気。先に抜けだしたアドマイヤキズナを並ぶまもなく差し切って、上がり34秒0。それでゴール前は余力十分だった。

 最初470キロ台だったワンカラットよりひと回り大きい494キロでデビューした馬体は、今回504キロ。デビュー戦と同様、前半は行けなかったが、あえて控えた印象もあり、M.デムーロ騎手は4コーナーまで半分なだめながらの後方だった。直線に入ってから外に回ると、好位から抜けだし上がり35秒2で勝ったロジクライを大きく上回る「34秒5」の切れ味爆発。

 クビだけ及ばなかったが、ここが5戦目でうまく流れに乗り、インからコースロスなしに抜け出した男馬のロジクライとこの小差なら、中身は勝ったにも等しいレースである。半姉ワンカラットは、なぜか短距離タイプばかりを送ったファルブラヴ(2200mのジャパンC、エクリプスS約10Fなど13勝)の産駒ゆえ全5勝が1400m以下だったが、母は仏2100mのGIII勝ち馬。祖母は障害でも8勝。牝系の特徴は、配されている種牡馬も競走成績も、完全にヨーロッパの中〜長距離タイプである。ワンカラットはフィリーズレビュー1400mを勝ち、桜花賞はブエナビスタの0秒4差4着(1分34秒4)だったが、妹は上回りそうに思える。

 1600mの桜花賞はメジャーエンブレムと互角か。しかし、2400mのオークスでは断然有利に展開することが予測される。メジャーエンブレムに、強敵が出現した。

 着差はクビだったとはいえ、早めに動いて例年以上の1分34秒1で勝ったロジクライの評価も一気に高くなった。4代母バーグクレア(父バステッド)は、ディープインパクトの祖母である。言いかえると、ディープインパクトの母ウインドインハーヘアの9歳上の長姉が、ロジクライの祖母カポディモンテ(父はサッチ直仔のファイナルストロウ)である。

 ディープインパクト一族の牝馬に、ハーツクライ。母の父マキャヴェリアン。祖母の父ダンジグ。これで1600mで2勝となったが、タフに距離適性の幅を広げる種牡馬を連続して配しただけであり、おそらくマイラーにはとどまらない。陣営も皐月賞に向かうことを表明している。浜中俊騎手は、11年レッドデイヴィス、13年エーシントップ、14年ミッキーアイル、そしてロジクライで勝ち、シンザン記念は7年連続の騎乗で【4-0-1-2】となった。

 果敢に飛ばし、自身「46秒3-47秒9」のバランスで1分34秒2。「クビ、クビ」差の3着に粘ったシゲルノコギリザメ(父スーパーホーネット)は、ダート1200m、芝1200mで連勝したあとの初距離1600mだから、負けたとはいえこれは立派。馬名も、血統背景も根っからの伏兵タイプを思わせ、今回はレース運びまで波乱を呼ぶ穴馬だったが、少しもフロックではない。自身でレースを作って1分34秒2である。

 牝馬ラルク(父ディープインパクト)は、同じキャリア1戦で挑戦したジュエラーとすっかり明暗を分けてしまったが、スローで逃げ切った新馬勝ちの1戦だけだから、快走もあると同時に、こういう凡走も仕方がない。スタートが悪く、馬群にもまれてしまった。2014年の勝ち馬ミッキーアイル(父ディープインパクト)が近親にいる。牝馬ゆえ、こういう凡走からすぐ立ち直れるかは難しいが、当然、巻き返してくる。

 1番人気のピースマインド(父ディープインパクト)も大きく失速の14着。こちらは2000mを逃げ切ったあと、1600mへのペースが予想外にきつかったか。新馬でリオンディーズの小差2着があるから侮れないが、前半スローで気分良く行けた2000mを2戦したあと、一転、多頭数の1600mでまさか下げるわけにもいかない。レースが運びにくかったろう。

 ショウナンアヴィド(父ゼンノロブロイ)は、もまれない外枠だから強気に行くかと思えたが、好スタートからしだいに下げて差す形を取った。確かにそういう時期ではあるが、相手強化の重賞だけにそう簡単には脚質転換には成功しない。一瞬伸びかかっただけだった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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