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秋は菊花賞を視野に入れる展望も生じた/ラジオNIKKEI賞

  • 2017年07月03日(月) 18時00分


◆もしサトノクロニクルが56キロだったら、もっと惨敗した危険も…

 2戦2勝で挑戦した注目の上がり馬セダブリランテス(父ディープブリランテ)が、流れに乗って先行し1分46秒6の好内容で抜け出した。時計は福島のこの重賞としては史上4位。

 これで3戦3勝。騎乗していた石川裕紀人騎手(21)は、デビューして4年目、56回目の挑戦での初重賞制覇だった。新進の父ディープブリランテ(その父ディープインパクト)にとっても産駒の初重賞勝ちである。また、ディープインパクトの直仔で再来年2019年までに産駒がデビューする(予定の)後継種牡馬はすでに13頭を超えているが、このセダブリランテスは、ディープインパクトの直父系の孫世代として、初のJRA重賞勝ち馬でもある。

 まだ、素質だけで押し切り勝ちしているようなレース運びであり、着差以上の快勝とはいえ、スパッと切れるフットワークではなく、身体に実が入っていない印象もある。母の父はブライアンズタイム。そのブライアンズタイムともっとも相性の良かったパシフィックプリンセスの牝系出身であり、近親にナリタブライアン(父ブライアンズタイム)もいれば、キズナ(父ディープインパクト)も同じ牝系の近親馬。秋は、菊花賞を視野に入れる展望も生じた。このあとさらに大きく育ってほしいものである。距離延長は平気だろう。

 ローカルのハンデ重賞だからこそ、こういう新星に道を開くのが近年のラジオNIKKEI賞の大きな役割であり、ハンデ戦に変わったばかりの07年の勝ち馬は52キロのロックドゥカンブ(その年の菊花賞3着馬)であり、2着は54キロのスクリーンヒーロー(翌年のジャパンC勝ち馬)だった。このハンデ重賞に出走し、やがてG1〜G2級に育った馬にはトゥザグローリー、ストロングリターン、クリールカイザー、マイネルラクリマ、ショウワモダン、そして一昨年のアンビシャスなどがいる。近年、G1級はごく少ない。

 今年、1番人気で6着にとどまったサトノクロニクル(父ハーツクライ)陣営は、ここをステップに秋には菊花賞挑戦を展望していた。57キロで6着に終わった川田将雅騎手(31)は、負けた悔しさがあったからだろう、ハンデの「57」キロがひどく気にいらなかったようで、敗因を57キロのハンデに求めた。その気持ちは分かる。前回のサトノクロニクルは確かにやっとの辛勝だった。だが、敗因をトップハンデ57キロが重すぎたせいだと、転嫁するのは筋が違うように思える。ハンデ戦の負担重量に、レースが終わり、負けたから不満を言うなど川田騎手らしくない。

 サトノクロニクルは衆目一致の素質馬であり、G2京都新聞杯を別定56キロで頭差2着だった。そのあと、オープン特別の白百合Sを鼻差ではあるが57キロで勝っている。したがって、能力と、他にはない成績を評価されたから、3歳馬同士の中距離1800mのハンデ戦で、登録馬の中からハンデ頭を決定するときに「57」キロが妥当と判断されたのであり、オープン特別勝ちのあるサトノクロニクルを「あの馬は弱い」と、ここで55〜56キロでは、ハンデはややこしくなる。実際、重賞勝ちのある牝馬ライジングリーズン(父ブラックタイド)も、55キロ(牡馬なら57以上に相当)のハンデだった。

 だいたい、56〜57キロでG2重賞好走、オープン特別勝ちのサトノクロニクルのハンデを55キロ前後にとどめたら、「バカにするのか」と、怒るのはサトノクロニクル陣営のはずである。サトノクロニクルが57キロに相当は、出走馬を集めるための不当なハンデ軽減(抑制)は日本では許されていないので、みんな納得のハンデであり、陣営も納得しての出走である。また、そのくらいこなして当たり前だろうと判断したファンが多かったから、1番人気に支持されたのである。

 もしサトノクロニクルが56キロなら、上から順番に決めていくので、セダブリランテスは「54→53」になり、2着のウインガナドルは「53→52」になる。軽ハンデ馬は喜び、サトノクロニクルはもっと惨敗した危険がある。

 サトノクロニクル陣営には他にも有力馬がいること、あるいは、相手はたいしたことはないからここで賞金を加算しておけば秋が楽になる、との読みがあったはずであり、小回り福島の1800mこそ最高、コースも最高と判断しての出走ではないと思える。それで、負けた後になってハンデがどうのは、敗因にならない。ハンデ57キロが疑問というなら、今週の七夕賞(ハンデ)、最終週の同じ1800mの少頭数必至の福島テレビオープン(別定52キロ)、先週の巴賞(3歳サトノアレスが54キロで勝った)など、ほかにも夏休み前に出走可能なレースはある。

 ハンデ戦に変わってレースの中身が変化しているラジオNIKKEI賞1800mは、菊花賞馬ミナガワマンナなど古典の世界のたんぱ賞ではなく、前出のストロングリターンを筆頭に、スピード系マイラーが目ざす中距離重賞の出発点になっている。サトノクロニクルには、菊花賞を展望する期待馬にふさわしいレースがほかにあるはずである。気を取り直して再出発してほしい。

 2着に粘ったウインガナドル(父ステイゴールド)は、新潟の2000mの未勝利戦をレコード勝ちしているように、平坦に近い福島は抜群に合っていた。前半1000m通過「59秒5」という絶妙の平均ペースに持ち込めたとはいえ、向こう正面からピッチが上がり、後半は「11秒7-11秒9-11秒6-11秒9」。一旦は交わされたセダブリランテスを差し返しそうな粘り腰が光った。

 3着に突っ込んできたロードリベラル(父ブレイクランアウト)は、今回の12頭のなかでただ1頭の福島コース経験馬。最後方から1頭だけ上がり34秒台で伸び、このペースだから脚を余した印象もあった。1000万下の2勝馬、このあと父が素晴らしい切れで新馬を圧勝した新潟に転戦するとき、たちまちチャンスだろう。

 3番人気のクリアザトラック(父ディープインパクト)は、手応えのわりに失速しなかったあたり、前半行きたがったのが残念なロス。ちょっとムキになって行く気性なので、最初からスムーズに追走できてしまった外枠がかえって不利だったかもしれない。

 中山のマイル戦で途中から一気のスパートで3勝している牝馬ライジングリーズンは、高いコース適性があるはずだが、休み明けの今回はレース前から気負った状態。スタートが良すぎたのが裏目に出たか、前半のタメが利かなかった。マイネルスフェーン(父ステイゴールド)は、予定どおりにインから進出を図ったが、こちらはスタート直後の行き脚が鈍かった。位置取り争いがきびしくなる小回りの1800mより、中山の2000mくらいの落ち着いた流れ向きなのだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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