信頼性に乏しいのは承知、昨年の再現に期待/安田記念
◆「この馬、スプリンターとは信じられない」と田辺騎手が驚いた
今年の安田記念の最大の特徴は、クラス再編成直後なので、例年だとあまり出走数の多くない4歳馬(条件分け賞金が半額になるため、出走しにくい。今年までの制度)がなんと8頭もいること。これは21世紀になって18年、最多出走数である。最近5年など「0〜3」頭だった。レベルうんぬんはともかく、現4歳馬は元気いっぱい。5歳以上の古馬が押されている現状を如実に示している。
もうひとつは、ふつうはフルゲート18頭立てなのに、クラス決定賞金が2200万円に下がりながらも奇跡的に連闘で出走できたモズアスコット(当然、4歳馬)を含め、16頭立てにとどまったこと。
最近では2016年が12頭立てで行われたが、安田記念ではきわめて珍しいことにスローバランス(前後半47秒0-46秒0)で展開し、良馬場なのに1分33秒0の勝ちタイムだった。頭数減はペースにも関係する。
良馬場で行われた最近10回の勝ちタイム平均は「1分32秒15」であり、その前後半バランスは息を入れにくい高速の「45秒63-46秒52」だが、さすがの安田記念も頭数が減ると、流れが落ち着き、前傾バランスにはならない可能性も少し生じるのである。
もうひとつ。人気の中心馬スワーヴリチャードが、まったく初めての1600m出走になること。東京のマイル戦だけに総合力で対応してくれるはずだが、前回の後半がスプリンター並みの高速だったこと(1000m56秒台)は根拠にならない、それは自身の前半1000mが62秒台のスローで、助走でスピードに乗ってからのタイム。
スタートの速くないスワーヴリチャードがあまり離れずに1000m通過59秒0くらいで余裕をもって行けるかどうかは(それだと上がり32秒5で伸びれば、昨年の勝ちタイム1分31秒5になる)、正直、だれにもわからない。実力と底力で圧する総合スピード能力での快勝もあると同時に、やっぱり、いきなりは1600mのGI向きではなかった、となる結果もある。魅力的だからこそ、同時に危ない。
例年並みに、1分31秒5〜32秒0の勝ち時計を想定して強気になれるのは、昨年、2歳未勝利戦以来、約3年半ぶりだった1600mを1分31秒6(上がり33秒7)で、「クビ、クビ」差の3着しているレッドファルクス。坂を上がって、勝ったサトノアラジンでさえ脚さばきが少々怪しくなった高速決着のなか、大外から猛然と伸びた。スプリンターズS2連勝の短距離型とは信じられず、マイルでもまだ物足りないのか、と錯覚するような猛追だった。
今回騎乗する田辺騎手が「この馬、スプリンターとは信じられない」と驚いたといわれる。そういう、不思議なスピード型なのは、今春の3400mのダイヤモンドSを2着した5歳牡馬リッジマンの父も、スプリンター型を多く送るはずの種牡馬スウェプトオーヴァーボード(父エンドスウィープ、祖父フォーティナイナー)だからである。
大きく距離適性の幅を広げつつ発展するフォーティナイナー(父ミスタープロスペクター)の父系は、対するノーザンダンサーのダンチヒ系と同じで、気がついたらダートも芝も、時おり長距離さえ平気な産駒も送ることによって、どんどん枝を伸ばしていくのである。
追い込み一手タイプに信頼性が乏しいのは承知。だが、負けているとはいえここ2戦も上がりは最速。レッドファルクスの昨年の再現(1分31秒6)に期待したい。レッドファルクスは、スウェプトオーヴァーボード(17年、20歳で死亡)の数少ない後継種牡馬候補でもある。