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「予想の楽しさを印で伝える“日本一大きなトラックマン”」<第36回>峯村正利

  • 2019年08月05日(月) 18時00分
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上山から荒尾、そして現在に至る峯村正利さん。廃場を2度も経験してきただけに、“競馬がある有難み”を痛いほど感じている。


峯村正利氏は、数多くの予想家を抱える『ウマい馬券』のなかでも異色の存在だ。トラックマンとして仕事を始めた上山競馬場、そして荒尾競馬場で地方競馬の廃止を目の当たりにし、現在は岩手競馬において編集長とトラックマンという2足の草鞋を履きながら、日夜奮闘している。そんな峯村氏の素顔に迫ると同時に、予想に対する想いを聞いた。

“好き”だから苦労を感じない



“気は優しくて、力持ち”。

 岩手競馬の専門紙「ケイシュウ」で編集長を務める峯村正利さんには、そんなフレーズがよく似合う。

「この巨体ですから場内でも目立ちますし、お客さんから声をかけられることもしばしば。『これ、食べて』と差し入れをもらうこともあります。イベントなどでもいただくのは食べ物が多く、結局、そういうキャラなんでしょうね。中学、高校で3つの相撲部屋からスカウトが来たぐらいですから」(笑)

 そういって豪快に笑い飛ばす姿を見ていると、誰もが親近感のわく人柄だということは一目でわかる。“日本一大きなトラックマン”という肩書きの通り、豪放磊落な性格の一方で、その仕事ぶりは繊細かつ慎重だ。

「通常のトラックマンの業務以外にも、編集長としての仕事もあります。自分で原稿を書くことは苦ではないのですが、どうも人の原稿に朱を入れるのが苦手でして」

 他の記者たちが集めてきた記事の編集、校正に加え、馬柱のひとつひとつを、自らしらみつぶしに確認していく。岩手競馬は通常、土、日、月の3日間開催だが、ひと開催分の作業だけで、校閲用の青ペンが1本なくなってしまうそうだ。そうした根気の要る作業は通常、校閲が行うが、その労力もいとわないのは、やはり“競馬が好き”だからこそ。

「昔はそれが普通でしたからね。攻め馬の時計をとって、厩舎に話を聞きに行って、編集も自分で行う。他社や他の記者に比べたら大変かもしれませんが、その流れは今も変わりません。校正もやって、今は新聞ができあがってから梱包までやりますからね」

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格付けが出てから、新聞制作に必要な要素がビッシリと書き込まれた馬柱。




時計は信じない



 専門紙の編集長でありながら、自らトラックマンとしての業務も行う峯村さん。その予想スタイルの基本は、毎週水曜にチェックする調教にある。

「昔と違って、最近は追い切りというほどのタイムを出すことはなかなかなくなりました。岩手競馬の場合、連闘する馬も少なくありませんし。追い切り時計がいいから、馬の状態もいいかといったら、そうではないこともあります。通ってきたコースもあれば、反応の良しあしもありますし、集中して走っていないときもあり、一概に時計だけで判断はできません。

 内容も一部の厩舎を除いて、昔ながらの長めをじっくり乗るスタイルがメインですので、追い切りではダグを踏む感じやちょっとした仕草、変化を見ることに重点を置いています。歩様、前週との変化、気合い乗りなどを見極めます。

『今日はこの馬、小さく見えるな』といった、馬一頭一頭について自分が持っているその馬に関する動き、感覚との擦り合わせがメイン。そのあとの厩舎取材で、調教師さんや厩務員さんにちょっとした変化や自分が見て感じたことを確認します」

 岩手競馬の場合、盛岡以外に水沢にも競馬場があり、しかも盛岡には芝コースもある。そのため、考慮しなければならない予想ファクターは、他の地方競馬に比べて格段に多い。

「水沢の調教にまで足を運ぶことはありませんが、馬場や馬の状態などは他の記者を通じて情報を受け取っています。ただ水沢の馬は調教が見られないぶん、どうしても予想の軸は成績に頼らざるを得ません。主に見るのは前走の内容、力関係の比較、展開などですね」

 当然、競馬場によってコース形態が異なり、盛岡へのコース替わりで走る馬も出てくるため、基本的にレースは3回見るようにしている。

「まずは勝った馬を中心に見て、2回目はレース自体を全体的に俯瞰で見たり、人気馬を中心に。3回目は印を打った馬を中心に見ます。走破時計はある程度の参考程度で、信用していません。時計というのはあくまで結果であって、間違いのない数字ですけど、馬場や枠順、展開で変わります。でも、馬の状態というは自分の目で見ていますし、その目で見た事実を一番の判断材料としています。

 ですから、盛岡所属の馬で人気でも自分だけ無印だったり、逆に人気がなくても自分だけポツンと印がついている場合もあります。思っていること全部を書けるわけではないので、そこは印から察してほしいですね」(笑)

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レース中は他社の記者と分業しながら、道中のラップタイプを計測しているという峯村さん。




予想は“生きがい”、そして自分への活力



 そんな峯村さんにとっての“予想”とは———。

「“生きがい”。自分への活力ですかね。上山でこの仕事を始めて、ずっと競馬一筋でやってきました。趣味がそのまま仕事になったような感じですから、つらいと思ったこともありませんし、予想しているときは楽しいです。だって、テレビとかで競馬を見ていても怒られないんですよ? 普通はあり得ませんよ」(笑)

 と、相好を崩した峯村さん。「走るまでは何を言っても正解。でも、結果が出たら当たった人が正解」と、あたかも“予想の哲学者”のような達観した振る舞いは長年、競馬を生業としてきたキャリアからにじみ出てくる自信の裏付けなのだろう。

「全レース当てたいと思って印をつけていますし、結果が出るまでの、何とも言えない高揚感がたまりませんね。結果が出て、満足もできるし、しかも自分だけではなく、お客さんにも喜んでもらえる。たまにお金が増える…こともある(笑)。こんなやりがいのある仕事はありませんよ」

 そう話す“日本一大きな専門紙編集長”の背中は、大谷翔平や菊池雄星らメジャーリーガーを輩出してきた岩手の象徴ともいえる秀峰・岩手山よりも頼もしく、その印は今日も私たちに“予想することの楽しさ”を教えてくれている。

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レースの合間には、他社の記者と代わる代わるレース展望およびパドック解説なども行っている。




峯村正利は『ウマい馬券』で予想を公開中!

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