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【エリザベス女王杯】4歳の秋、馬体にはたくましさと鋭利が加わっていた

  • 2019年11月11日(月) 18時00分

満点のデキをフルに爆発させたC.スミヨン渾身の騎乗


 頂点のGIを制するには大きなプラスが重なることが必要とされるが、4歳ラッキーライラック(父オルフェーヴル)はまさに最高の身体つきだった。4歳の秋、迫力の518キロの馬体にはたくましさと鋭利が加わっていた。それで落ち着いている。

 もうひとつは、満点のデキをフルに爆発させたC.スミヨンの渾身の騎乗だったことはいうまでもない。勝利騎手インタビューで、問われるまでもなく「オルフェーヴルの産駒でGIを勝つことができた。彼の凱旋門賞は勝てなかったが、その無念を晴らした気がする」と振り返ったスミヨンには、久しぶりの日本で、オルフェーヴル産駒の有力馬へのGI騎乗を依頼されたうれしさが秘められていた。

 C.スミヨンは2010年の天皇賞(秋)をブエナビスタで快勝しながら、直後のジャパンCで(1位入線)2着降着の苦い過去がある。オルフェーヴルの、最初2012年の凱旋門賞2着も負け方が痛恨だった。久しぶりに短期免許で来日した今回も、先週3日の京都の新馬で斜行5万円、同日のみやこSの進路の取り方で8万円(計13万円)の制裁を受けるなど、スミヨンにはもうひとつ幸運がなく、いつも厳しい目が向けられているような空気がある。

 ラッキーライラックがこの距離2200mで、自身初の上がり32秒台(32秒8)の切れを爆発させたのは驚きだった。スミヨン騎手も「もう少し前に行く予定」だったが、慌てることなく7-8番手あたりのインをキープした。すぐ前方に人気のクロノジェネシス(父バゴ)がいて、ラヴズオンリーユー(父ディープインパクト)も射程内に見える位置だった。馬群の密集はない。ペースを別にしてすぐ前に有力馬のいる展開は、挑戦者には有利だった。

 イン強襲はたまたまだったかもしれないが、心身ともに完成に近づいた4歳秋のラッキーライラックにとって、猛烈な後半の爆発力こそ、父オルフェーヴル譲りの真価なのだろう。交配数の減っていた父オルフェーヴルの評価は再上昇する。

重賞レース回顧

爆発的な切れ味でインを強襲して勝利したラッキーライラック


 ラッキーライラックの3代母ステラマドリッド(父Alydar)は1990年代に輸入され、巨大なファミリー(アエロリット、ミッキーアイルなど)の日本での牝祖として大成功している。ステラマドリッドの母My Julietの半妹ビューパーダンスはもっと早く1980年代に輸入され、ハーツクライなどが代表する大きなファミリーを発展させている。

 しかし、成功する可能性のきわめて高い牝系の、新しい活躍馬を見逃す手はない。ステラマドリッド(1987)の孫の世代にあたるライラックスアンドレース(2008、父Flower Alley)を2010年代になってさらに輸入し、ラッキーライラックの出現に結びつけた社台グループの飽くなき意欲には驚くしかない。

 またまた2着に残った6歳クロコスミアは、最初にクビ差2着の2017年の前半1000m通過が「62秒0」、2018年の2着の1000m通過が「61秒4」、そして今年の自身の前半1000m通過が「62秒8」なので、前2年以上に楽なマイペースだったのは事実だが、藤岡佑介騎手(クロコスミア)の判断は超抜だった。

 緩い流れのつづいた前半1200mを過ぎると、後半1000mは「12秒3-11秒6-11秒5-11秒4→」。どんどん自分からピッチを上げている。最後の1ハロンこそ勝ち馬に交わされて「11秒9」になったが、クロコスミア自身の後半1000mは「58秒7-46秒4-34秒8-11秒9」だった。粘り込んだのではない。

 だから、猛追してきたラヴズオンリーユーにも、センテリュオ(父ディープインパクト)にも、クロノジェネシスにも交わされなかった。勝ったラッキーライラックがただ1頭だけ驚異的な末脚(上がり32秒8)で爆発したので差されたが、その中身は前2年以上の惜敗だった。今年はさすがにマークがきつくなるので苦しいかと思えたが、テン乗りで、途中から果敢にスパートした藤岡佑介騎手の騎乗は素晴らしい。

 1番人気のラヴズオンリーユーは、乗れているときのM.デムーロならもっと早めにスパートした気もするが、緩急のペース変化に慣れていないキャリア4戦の3歳馬の弱み(死角)が大きかったのだろう。ゴール寸前は思い直したように脚を使ったが、3コーナー過ぎからの追撃にスムーズさを欠いた印象があった。力負けではない。

 クロノジェネシスはまさに極限のこれ以上は望めない仕上がりに映った。そこで前回の秋華賞とそっくり同じようなレース運びになったが、3歳同士の前回と異なり、この上がりの速い流れなのでライバルはだれもバテてくれなかった。

 7着スカーレットカラー(父ヴィクトワールピサ)は、東京(直前に入厩済み)の前回と違って、当日輸送なのにプラス14キロ。馬体充実の素晴らしい状態ともいえるが、激走のあとだけに中間の調整がむずかしく、ちょっと余裕残りの印象もあった。

 スローペースが連続しているので、今年は早めに動く馬が出現して不思議ない展開と考え、伏兵ウラヌスチャーム(父ルーラーシップ)の差しに期待したが、完全に読み違い。クロコスミアの巧みなペースをみてあきらめた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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