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【マイルCS】短距離界を制圧した圧倒的な強さ

  • 2020年11月23日(月) 18時00分

歴史的名牝の時代は来季も続く


 断然の支持を受けた4歳牝馬グランアレグリア(父ディープインパクト)が、好位から抜け出して快勝。安田記念、スプリンターズSに次いで、マイルチャンピオンSも制覇。GI3連勝を達成すると同時に、3歳春の桜花賞と合わせGI競走4勝となった。

重賞レース回顧

牝馬では史上2頭目の快挙を達成したグランアレグリア


 マイルのGI「安田記念、マイルチャンピオンS」の双方制覇は史上12頭目。牝馬でこの大記録を成し遂げたのは、1994年に両レースを勝ったノースフライトに次いで史上2頭目の快挙になる。また、「スプリンターズS、マイルチャンピオンS」制覇は、タイキシャトル、デュランダルに次いで史上3頭目。さらに、今年の牝馬陣はすでに牡馬牝馬混合GIを史上最多の6勝しているが、その大記録を7勝にまで伸ばした。

 3歳牝馬レシステンシア(父ダイワメジャー)が先手を取ったレース全体のペースは前半「34秒9→46秒9」、1000m通過58秒5。後半「45秒1→33秒5」=1分32秒0。予測されたよりかなり緩い流れになり、1、2着馬は先団にいて上がり「33秒台前半」でフィニッシュした同士。きびしいマイル戦らしい一転二転の攻防はなかったように映ったが、実際はどうだったのだろう。順当な結果に「なんとなく物足りない」という声がなくもなかったが、これでこの秋シーズンのGIは1番人気馬の「5連勝」の流れだけに仕方がない。こと馬券に関しては、難解な結末を歓迎したい記者席はいつにも増して静かだった。

 グランアレグリアに隙はなかった。好スタートを切り、落ち着いた流れになった時点で早くも絶好の好位追走。スピード能力に勝り、ディープインパクト産駒らしい切れ味を持つグランアレグリアの必勝パターンに最初から入っている。待って、慎重に、最後のスパートをかける地点で、早めにスパートしたアドマイヤマーズ(父ダイワメジャー)、インディチャンプ(父ステイゴールド)に前に出られるような場面があったが、ルメール(グランアレグリア)は少しもあわてるシーンはなくその外に回り、ハロン「10秒8」が刻まれたもっとも高速になった地点で、余裕十分に2頭を見つつ進路を変え、最後の1ハロンで一気に差し切っている。

 記録に残る上がり3ハロンは33秒2。この数字は最速ではないが、こういう鋭さ勝負でモノをいうのは交わしにかかった20-30mの距離で爆発する切れ。上がり3ハロンは2着のインディチャンプも同じ33秒2の数字になるが、交わしたのは文字通り「瞬発力」だった。絶対スピードの差である。

 グランアレグリアはまだ4歳。ここが10戦目。持ち味は違うとはいえ、アーモンドアイが1分56秒2で4歳秋に天皇賞(秋)を楽勝したのも、奇しくも10戦目だった。歴史的名牝の時代は、グランアレグリアによってまた来季も続くことになった。

 昨2019年、「安田記念、マイルチャンピオンS」制覇を達成しているインディチャンプは、さすがの2着だった。ここまで休養明けに良績はなかったが、もう5歳の秋。来季の活躍が約束されているわけではない。陣営の仕上げは見事だった。

 レース運びもグランアレグリアと同様、隙なし。道中はライバルを射程に入れて進み、4コーナーを回ってグランアレグリアを封じるようにスパートして先頭に立ったレース運びは文句なしだった。最後に勝ち馬の切れに屈したのは、力の差というより、上昇中の4歳馬と、1歳上のチャンピオンの勢いの差だったかもしれない。

 安田記念、スワンSと連続してやや物足りなかったアドマイヤマーズも、今回はGI3勝馬らしいスピード能力を発揮してみせた。好位追走から有力馬の中ではもっとも早めにスパートして一旦先頭に立ったのは、予測以上に流れが落ち着いてしまったレースの流れを考えると、差されはしたが最高のレース運びだっただろう。懸命に粘って自身の上がり3ハロンは33秒6。スローの2歳戦や3歳戦を別にすると、自身の最高のフィニッシュであり、粘り強い持続スピードを最大の長所とする馬の多いダイワメジャー産駒にとって、前後半「46秒9-45秒1」。レース上がりが33秒5-11秒7にもなったマイル戦は歓迎ではない。少しでもライバルの爆発力を削ぐように動いたのは当然だった。

 このことを考えると、いかにもダイワメジャーの代表産駒らしい粘り強いスピードが持ち味のレシステンシアは、ちょっと慎重すぎたか。まだ3歳。可能性を模索し、戦法に幅を持たせようとしている時期だけに仕方がないが、前半のペースは「46秒9-58秒5→」。他馬が楽々と追走できる流れにしたのは、自身にとって不利だった。この楽なペースで行って、自身の後半は34秒3。超スローに落として失敗したチューリップ賞の34秒2と同じであり、まだ成長の途上なので結論が出たわけではないが、自身はバテていなくとも、楽に追走できる相手は後半もっと切れる。自身のファンタジーS、阪神JFや、メジャーエンブレム、カレンブラックヒル...のような強気な先行策のほうが合うと思えた。

 2番人気のサリオス(父ハーツクライ)は、17番枠は現在の阪神コースではそう大きな不利ではないと思えるが、緩い流れは分かっていて、ライバルが楽に好位にいるのを見ながら、途中まで位置を上げずに我慢する作戦に出た。レース運びに幅を増そうという展望もあったのだろう。実際、上がり最速の33秒1を記録しているが、このスローだから前方にいた1着、2着馬の上がりも互角の33秒2。一段と素晴らしい体つきになっていただけに、もう少し前につけても良かったか...という悔いは残ったかもしれない。狙っていたGIだけにもったいない印象も残った。でも、多頭数のレースは全馬が能力を出し切れるものでもない。迫力のサリオスはまだ3歳。これから広がる未来に大きく期待したい。

 ここが引退レースとされたスカーレットカラー(父ヴィクトワールピサ)は、空いた内に突っ込み、映像の角度にもよるが一瞬「届くかも...」と思わせる見せ場を作った。今後はUSAで繁殖入りするとされる。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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