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おかげさまで500回

  • 2021年04月29日(木) 12時00分
 10年前の7月に始まったこの連載が、今回、めでたく500回目を迎えた。

 35年ほどの執筆生活で、連載がこんなに長くつづいたのは、紙媒体も含めて初めてのことだ。貴重な時間を割いて本稿を読んでくれるみなさんのおかげである。本当にありがとうございます。

 確定申告を始めたのは1986年なので、物書きデビューはその年ということになる。競馬学校騎手課程第2期生の横山典弘騎手らがデビューした年だ。競馬を始めたのは翌87年。日本中央競馬会がCI戦略で「JRA」という呼称を用いるようになった年であり、武豊騎手がデビューした年でもある。

 デビューといえば、先週の日曜日、西谷凜騎手がデビュー初勝利をマークした。これで今年JRAからデビューした新人騎手全員が勝ち鞍を挙げたことになる。

 今年の新人騎手は、先週の競馬が終了した時点で、古川奈穂騎手が6勝、小沢大仁騎手と角田大和騎手、永野猛蔵騎手が5勝を挙げているなど、活躍が目立つ。そうしたフレッシュな話題がある一方で、この春はクラシックな母系から出た馬たちが結果を出している。それは同時に、往年の名馬たちにあらためて光をあてることにもつながっている。

 3週前の本稿に書いたように、レイパパレは小岩井の牝系のフロリースカツプ(1907年輸入)の血を引いている。桜花賞を勝ったソダシは、白毛一族の祖となったシラユキヒメが1996年生まれなので、「クラシック」というには新しいが、金子真人オーナーが大切につないできた血脈だ。皐月賞を制したエフフォーリアは、3代母ケイティーズの5番仔に名牝ヒシアマゾンがいる。エフフォーリアから見ると大叔母にあたる。

 先週のフローラステークスを勝ったクールキャットも、小岩井の牝系(11代母が1907年輸入のアストニシメント)から出た馬だ。3代母メジロツシマの仔に函館記念を勝ったメジロマーシャス、甥にメジロマックイーンがいる「メジロ血統」なのである。

 そして、マイラーズカップを勝ったケイデンスコールの5代母ロイヤルサッシュは、社台グループが1973年に輸入した馬だ。近親にサッカーボーイやステイゴールド、ショウナンパンドラらの名前が見える。

 さらに、香港チャンピオンズデーのクイーンエリザベス2世カップを制したラヴズオンリーユーの3代母ミエスクは、ニアルコス・ファミリーが誇る世界的名牝で、大種牡馬キングマンボもその産駒だ。

 この流れがつづくとしたら、今週の天皇賞・春は、昭和の初めにイギリスから輸入された牝馬セレタの血を引くディープボンドが勝つのだろうか。この牝系からは、古くは天皇賞馬クリペロやクリヒデ(ディープボンドの5代母)、比較的新しいところでは宝塚記念を勝ったカツアール、高松宮記念などを制したローレルゲレイロなどが出ている。

 さて。実は、以前から、連載500回を達成したときは、それにちなみ、競馬で「500」に関するデータを紹介したいと思っていた。ぱっと思い浮かんだのは、高橋英夫氏(1919-2013)が初めて達成した、「騎手としても調教師としてもJRA通算500勝以上」というデータである。高橋氏は、騎手として561勝(国営競馬以前を含めると936勝)、調教師として520勝している。

 この記録、2人目以降の達成者は何人いるのだろう。データベースで一発検索できるといいのだが、そうしたデータが整理されているのはだいたい1980年代以降だ。それより前の成績は、資料を突き合わせて調べるしかない。

 まずは、現役調教師から探していこう。最初に見つけたのは、安田隆行調教師だ。騎手として680勝し、調教師として先週終了時で865勝を挙げている(JRA通算の数字、以下同)。加用正調教師も達成している。騎手として559勝し、調教師としては先週終了時で593勝。現役調教師ではこの2人だけだ。

 騎手として1400勝をマークした松永幹夫調教師も達成していそうなイメージがあったが、調教師としては、先週終了時で395勝。先週終了時で884勝の音無秀孝調教師は騎手として84勝。先週終了時で581勝の佐々木晶三調教師は騎手として136勝。騎手として1527勝を挙げた南井克巳調教師は先週終了時で414勝なので、ここ数年のペースで勝ちつづければ定年前に達成できそうだ。

 では、引退調教師を見ていきたい。2006年に調教師を引退した北橋修二氏が、騎手として587勝、調教師として512勝で、達成している。2011年に調教師を引退した高橋成忠氏も、騎手として750勝、調教師として524勝と、達成している。2018年に調教師を引退した小島太氏は、騎手として1024勝したが、調教師としては476勝。そして、岩元市三氏は、騎手として578勝、調教師として497勝。2人とも、あと少しだった。今年調教師を引退した西浦勝一氏も騎手として635勝、調教師として458勝と、惜しかった。

 2010年に調教師を引退した中野渡清一氏は、騎手として566勝しているが、調教師としては195勝。日本にモンキー乗りをひろめた保田隆芳氏は、騎手として880勝(国営競馬以前も含めると1295勝)しているが、調教師としては334勝だった。その保田氏が管理したトウショウボーイなどで騎手として1163勝した武邦彦氏も、調教師としては375勝。「ミスター競馬」野平祐二氏は、騎手として1188勝(国営競馬以前も含めると1339勝)、調教師として402勝。

 騎手としても調教師としてもJRA通算500勝以上をマークしたのは、高橋英夫氏、北橋修二氏、高橋成忠氏、安田隆行調教師、加用正調教師の5人であることがわかった(通算500勝以上している騎手の一覧表から調教師になった人をピックアップし、その勝利数を見ていくという手作業で調べたので、見落としがあった場合はご容赦を)。

 馬に乗って500勝。馬を管理して500勝。すごい数字である。私も、連載500回に満足せず、600回、700回を目指して頑張りたい。

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作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊競馬ブック、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。netkeiba.com初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ノン・サラブレッド』。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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