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【ユニコーンS】ダート界の大物に育って不思議ないスマッシャー

  • 2021年06月21日(月) 18時00分

4戦連続して最速上がり、たまたまの末脚爆発ではない


重賞レース回顧

素質を開花させたスマッシャー(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 直前の「マーメイドS」を鮮やかに逃げ切ったのは、初重賞制覇となった藤懸貴志騎手(28)の10番人気だった伏兵シャムロックヒル(父キズナ)。波乱の続くマーメイドSらしく、2着も5番人気のクラヴェル。3着は6番人気のシャドウディーヴァ。軽ハンデ馬が快走する例年のパターン通りの決着だった。藤懸騎手はいろいろあったが、16番人気のハギノピリナで3着に快走したオークスでプライドを取り戻した。依頼される騎乗数も増えた。つれて勝ち鞍もアップしている。痛快な逃げ切りを決めたシャムロックヒルの初重賞制覇のインタビューは素晴らしかった。さらに応援するファンが増えるはずだ。

 ユニコーンSは、あまり波乱の生じないレースで、14年間も連続して人気上位の「1、2、3」番人気馬が勝ち続け、2ケタ人気の伏兵が連対したことは一度もないダート重賞。だが、今年は難しい組み合わせだった。青竜Sを1番人気で11着に沈んだラペルーズ(父ペルーサ)が再び1番人気になり、青竜Sを制したゲンパチフォルツァ(父ヘニーヒューズ)は、「もまれる形は歓迎ではない。外枠が望み」としていたら、なんと最内の1番枠。

 そのラペルーズがスタートで大きく右に斜行(外側に逃避して)しまった。いきなり大きな不利を受けた馬が複数出現。向こう正面でピンクカメハメハ(父リオンディーズ)が内ラチに激突して転倒するかわいそうなアクシデント(その後、急性心不全発症)もあり、この事故は他馬には影響は少なかったが、レース全体は前後半「45秒9-(1000m通過58秒0)-48秒5」=1分34秒4の厳しいペース。昨年、カフェファラオが記録したレースレコード1分34秒9を0秒5も更新。前半1000m通過58秒0は、ユートピアの勝った2003年の57秒9に次ぐ史上2位のハイペースだった。

 中団から猛然と伸びて差し切ったのは7番人気のスマッシャー(父マジェスティックウォリアー)。昨年夏の芝1800mの新馬で大敗(2秒2差)のあと、ダートの短距離に方向を変えた。ダート1400mには【2-2-1-0】の良績があったが、この距離の経験がなかったため評価は低かった。だが、初の東京ダート1600mを1分34秒4(自身は59秒0-35秒4)はすごい。走りやすい馬場、ハイペースが味方したとはいえ、これで4戦連続して最速上がり(タイも含む)だから、たまたまの末脚爆発ではない。

 2016年から日本で供用の父は、すでにベストウォーリアが2013年のユニコーンSを勝って頭角を現し、14-15年のJpnI南部杯を連覇している。祖母ロフティーエイム(父サンデーサイレンス)は2006年の福島牝馬S1着(7番人気)。2007年の函館記念2着(9番人気)など、芝で大駆けしたが、その半妹メーデイアはJBCクラシックJpnIなど交流のダート重賞を6勝もしている。血統背景はミスタープロスペクターの「4×4」。セクレタリアトの「4×5」。ダート界の大物に育って不思議ない。

 14番人気で2着したサヴァ(父アイルハヴアナザー)は、ここまで凡走と快走を繰り返してきたので評価は低かったが、隣の人気馬ルーチェドーロ(父マクフィ)よりずっと大きく、たくましく映る好馬体が光った。ハイペースを先行して勝ち負けに持ち込んだのはこの馬だけ。自身「58秒3-36秒2」=1分34秒5の中身は勝ち馬に見劣らない。

 4代母は大成功している輸入牝馬スカーレットインク。ヴァーミリアン、ソリタリーキング、サカラートなどが代表するダート巧者を送る一族でもあり、もともと好馬体と調教の動きに高い評価のあった馬。秘める才能に手応えを得た快走だった。

 3番人気のケイアイロベージ(父へニーヒューズ)は、レース前に落鉄して打ち替え。スタートでは自身も出負けしていたが、前出ラペルーズのスタート直後の斜行により、横に大きくはじかれる不利があった。後方追走から3着まで突っ込んで1分34秒7。直線は巧みにインをついて突っ込んだが、スムーズなレースだったら、1-2着馬と差がなかったかもしれない。まだ、今回が4戦目。2勝クラスはたちまち突破してトップグループに追いつくだろう。曾祖母は名マイラーのシンコウラブリイだが、ヘニーヒューズ産駒の中では距離適性の幅は広いと思える。

 追い込んで5着だったクリーンスレイト(父ディスクリートキャット)も、スタートでラペルーズに寄られる大きな不利が痛かった。そのため前半最後方追走になっては、この高速の馬場コンディションだけに差を詰めるのが精いっぱい。ケイアイロベージと同じで2勝クラスならたちまち勝機だろう。

 人気のラペルーズは、中団追走になったがスタートで自身がリズムを崩したうえ、他馬に大きな影響を与えているだけにルメール騎手も集中力を欠いたように見えた。父ペルーサは途中から出遅れ癖の矯正に時間がかかり、9歳まで現役だったが、最後は平凡な馬になっていた不運な馬だった。まだ、2歳以下の産駒が少数いるが、たった4年で種牡馬引退のニュースがあった。ラペルーズにはこの程度のつまずきにめげることなく、ぜひ、巻き返して欲しい。再上昇に期待したい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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