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【秋華賞】予測以上に落ち着いた流れを生み出した馬場コンディション

  • 2021年10月18日(月) 18時00分

楽な流れの2番手を追走したソダシの敗因は一つではない


重賞レース回顧

アカイトリノムスメがGI初制覇(C)netkeiba.com


 ビッグレースで断然人気の先行型がいると、「流れが落ち着くことが多い」とされるが、レース全体のペースは前後半の1000mバランス「61秒2-60秒0」=2分01秒2。予測された以上に落ち着いた流れで、レース上がり「36秒5」もきわめて平凡だった。内回りの芝コンディションが関係したのだろう。

 今回6着だったステラリア(父キズナ)が勝ち、エイシンヒテン(父エイシンヒカリ)が小差2着した春4月の「忘れな草賞」内回り2000mの勝ち時計は、1分58秒0=「59秒3-58秒7」。勝ち馬の上がり34秒3だった。格段の馬場差が生じている。

 2番手につけた注目のソダシ(父クロフネ)の1000m通過は推定61秒6。楽なペースだった。コースが異なるとはいえ、同じように2番手追走になって、古馬のGI馬を封じた札幌記念2000mは推定60秒2だから、望外のスローに近い。先入れのゲートに向かう直前2人引きになり、いらだちを隠せない様子に不安を覚えたファンも、きわめて楽な流れの2番手追走になったソダシをみて、これなら失速はあり得ないと感じた。

 破綻の生じる展開ではないから、ソダシをマークして進んだアカイトリノムスメ(父ディープインパクト)、アンドヴァラナウト(父キングカメハメハ)が伸び、やや後方にいたファインルージュ(父キズナ)が脚を伸ばしたのは当然。楽なマイペースになったエイシンヒテンも寸前まで粘って4着。失速したのは人気のソダシだけだった。

 レース後、吉田隼人騎手は「イラついて競馬を嫌がっていた」。須貝調教師は「歯がぐらぐらして血が出ていた。ゲートにぶつけたのだと思う」と敗因を挙げている。小さな原因が影響する3歳牝馬には、写真撮影などの取材が集中したプレッシャーもあったかもしれない。また、札幌記念出走からのスケジュールは用意周到のローテーションと考えられ、「オークス→札幌記念→秋華賞」の日程には少しも無理はないのだが、若いソダシには大切な精神面の夏のオーバーホールがなかったのかもしれない。敗因は一つではない。

 2018年アーモンドアイ、2019年クロノジェネシス、2020年デアリングタクト、2021年アカイトリノムスメ。10月の秋華賞はもう4年も連続して、5月のオークスのあと立て直して直行した馬が勝ったことになる。近年の秋華賞の最大の特徴となった。

 ビッグレースの日程も、挑戦の流儀も異なるが、スノーフォール(JPN)、ラブ(IRE)、アダイヤー(IRE)、ハリケーンレーン(IRE)、ミシュリフ(IRE)…。日本でも注目を集めたタフだとされる欧州の人気馬も、今年はなぜか夏をすぎてみんなが負け続けている。

 快勝したアカイトリノムスメは、アパパネ産駒のディープインパクト全兄3頭(モクレレ、ジナンボー、ラインベック)より、牝馬だけにずっとシャープな体つき。ちょっとジリ脚のきらいもあった兄たちより、父の良さが前面に出ている。

 桜花賞4着(0秒2差)、オークス2着(0秒1差)、今回の快勝も0秒1差。母アパパネのGI勝ち5つはすべて「0秒0-0秒1差」なので、接戦向きの勝負強さはアパパネ譲りなのだろう。好位差しの正攻法で快勝したのだから、今後も崩れる危険は少ない。

 ただ、内回り、外回りの差が大きく関係したとはいえ、直前の3勝クラスの西宮S(1800m)は、前半1000m60秒5の緩いペースで流れながら1分46秒1(レース上がり34秒2)だった。勝ったのは上がり33秒3を記録したジェンティルドンナ産駒の3歳牝馬ジェラルディーナ(父モーリス)。

 秋華賞の1800m通過は1分48秒3。最後1ハロン12秒9で、2分01秒2(レース上がり36秒5)。午前中の2歳未勝利戦外回り1800mでさえ勝ち時計1分47秒8だったので、コーナーの異なる内回り、外回りの差があまりにも大きかったわけだが、ゴールの瞬間の再生を見ながら、接戦のGI秋華賞にしては「迫力一歩かなぁ」という感想を漏らす記者が複数いたのも事実。アカイトリノムスメ以下の上位組、さらには必ず復活してくれるはずのソダシには、このあと、今回の平凡な走破タイムが内回り、外回りのコースの差がもたらしたものであることを証明してもらおう。

 素晴らしい状態だったファインルージュは、外枠とあってちょっと前半の位置取りが後方になってしまったのが誤算だった。この流れなら紫苑Sのように上がり34秒台の切れを示して不思議ないが、やはり内回りの芝コンディションは、外回りのコーナーと大きく違っていたのだろう。この馬の上がり35秒5がメンバー中の最速だった。

 アンドヴァラナウトは、うまく内に突っ込んでの惜しい3着。パワフルなタイプではなくまだ非力に映るので、本物になるのはこれからと思える。

 脚部不安明けで体調もう一歩と判断され、オークス馬ながら5番人気にとどまったユーバーレーベン(父ゴールドシップ)は、チャカついていたのは休み明けとしても、動きにオークス時のバネが感じられなかった。状態が良ければタフな馬場は苦にしないタイプだけに、順調さを欠いたのは残念だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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