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満開の桜の下で桜花賞を

  • 2022年03月31日(木) 12時00分
 都内の仕事場から見える川沿いの桜並木が満開になった。川の両岸にビルがあって日陰になる時間が長い。光を求めるためか、わずかな陽を撥ねる川面に向かって枝先を下げ、しだれ桜のようになっている姿が何とも風情がある。

 今週末、阪神競馬場で行われるのは、桜花賞ではなく大阪杯である。

 ネットで兵庫県の桜満開予想日を調べたら、4月1日となっている。4月10日の桜花賞まで花がもってくれるだろうか。

 桜の開花と満開の時期は早まっており、2年前の記事ではあるが、ウェザーニュースの「早まる桜の開花 気候変動が影響か」という記事の「早まる開花 入学式の桜が卒業式に」という小見出しには頷いてしまった。

 ただでさえ、この世に生まれてくるプロセスから、競走馬としてレースに出るための日々のプランまで人間の都合で決められているサラブレッドに関して、こんなことを言うのは気が引けるのだが、桜花賞のスケジュールを1週早めてはどうだろう。

 桜花賞というレース自体は、創設当初から桜に合わせていたわけではない。1939年の第1回から第6回までは「中山四歳牝馬特別」というレース名で、5月や6月に行われたこともあった。1947年に「桜花賞」となってからも、1950年までは5月上旬に行われ、その後、施行時期が早められ、桜の時期に近づけられた。

 それでも今は「桜の女王」という言葉が定着しているし、華やかながら儚げな桜花賞馬の居住まいは、まさにソメイヨシノの美しさである。

 GIをひとつ動かすとなると、トライアルも動かさなければならない。さらに、同じ3歳の皐月賞をどうするかなど、さまざまな問題も出てくるが、風物詩として、よりぴったり来るようにするのも悪くないと思う。

 これだけ四季のはっきりした国の競馬なのだから、季節の花に合わせて、その名を冠したレースの施行時期を変えてはどうかという考えは、大多数の賛同を得られるかどうかはともかく、こういう声があっても不思議ではない、と思ってもらえるはずだ。日本人として、ごく普通の感覚だと思う。

 先日、ハリウッドで行われたアカデミー賞の授賞式で、主演男優賞を獲得した俳優が、脱毛症に悩む妻をからかう発言をした司会者に平手打ちしたことがニュースになった。

 その後、俳優は、司会者に対してSNSで謝罪した。

 アカデミー賞主催団体が、(現時点では)俳優だけを非難し、その妻を公の場で侮辱した司会者に対しては注意も何もしていないことに、私は驚いた。司会者から、俳優とその妻に対する謝罪もないようだ。

 武士道のない国では、そうした受け止め方が普通なのだろうか。ちょっと恐ろしい。

 「君辱臣死(くんじょくしんし)」は中国の故事から来た言葉で、妻は「君」ではないが、主君を侮辱された家臣たちが敵を討って切腹した「赤穂浪士」の討ち入りに共感を覚える日本人は多いと思う。

 あの時代とは異なる現代で、暴力はもちろんよくない。それでも、大切な人を公衆の面前で侮辱された俳優が手を上げた気持ちは理解できる。暴力を振るったことに対する報いは甘んじて受けなければならない。同様に、言葉の暴力を振るった司会者にも何らかの制裁が下されるべきだと私は思ってしまう。

 あの司会者は、非常にタチの悪い言葉の暴力を振るった。人の病気をあざ笑うのは最低だ。彼をお咎めなしとすることを許容する国の人たちと付き合うときは、私たちとは善悪に対する考え方が異なることを念頭に置くべきだろう。

 さて、先週の金曜日、プロ野球が3年ぶりに入場制限なしで開幕した。今週の火曜日に埼玉スタジアムで行われたサッカーワールドカップ最終予選のベトナム戦も入場制限がなく、4万4600人が来場した。

 スタジアムに大勢の観客が入り、大きな拍手でプレーヤーを讃えるシーンは、やはりいいものだ。

 競馬場では今も入場制限が行われている。最高でも6000人ほどだが、それでも、無観客のときよりずいぶん賑やかでいい。

 丸田恭介騎手のGI初制覇を、満員の競馬場で見ることができていたら、もっと感動的だっただろう。

 いつの間にか第7波に突入してしまったのか、また陽性者が増えている。同じようなことばかり言っているが、3年目に突入して我慢をつづけながら、一日も早い収束を待ちたい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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