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【ジャパンC】世界のトップジョッキーの卓越した騎乗

  • 2022年11月28日(月) 18時00分

勝ったヴェラアズールから4着までを独占


重賞レース回顧

ジャパンCを勝利したヴェラアズール(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 1番人気から5番人気までの日本馬が、上位5着まで独占の結果だった。改めて地元の日本馬有利を示したと同時に、勝ったヴェラアズール(R.ムーア)、2着シャフリヤール(C.デムーロ)、3着ヴェルトライゼンデ(D.レーン)、4着デアリングタクト(T.マーカンド)。世界のトップジョッキーの卓越の騎乗が印象的だった。

 レース全体の流れは、ユニコーンライオン(父No Nay Neverノーネイネヴァー)がマイペースに持ち込んだ結果、前後半の1200m「1分13秒3−1分10秒4」=2分23秒7。予測されたペースより落ち着いたスローになった。

 有力馬の実質の勝負は、上がり45秒9-34秒2(11秒7-11秒4-11秒3-11秒5)となった後半4ハロンからの、スパートのタイミングと、コース取りだった。

 中団のイン追走から非常に苦しい位置になったのは、勝ったR.ムーア騎手のヴェラアズール(父エイシンフラッシュ)だった。どの馬も失速する展開ではないので、直線に向き一度は外へ行きかけたが、スペースを探せないとみるや、すぐに内に切り替え、追い出しを待たされても少しも慌てる動きはなかった。

 先に抜け出しかけたダノンベルーガ(父ハーツクライ)の横にスペースが生じると、狭い馬群に突っ込み、最後は猛然と抜け出している。直線は外に出す形で2連勝してきたヴェラアズールの一段と鋭さを増した爆発力もすばらしかったが、今回は「さすが、ムーア」の手綱さばきだった。父エイシンフラッシュの日本ダービー制覇も、天皇賞(秋)の勝ち方も東京での馬群の内を切り裂いての強烈な切れだった。

 種牡馬エイシンフラッシュ(その父キングズベスト)の評価は下がりかけていたが、3世代目の産駒から待望のGI馬出現。減っていた交配数も増えることだろう。

 2着シャフリヤール(父ディープインパクト)は、5着止まりだった天皇賞(秋)を使って今回は気配一変。馬体重は減っていたがギリギリではなく、あまり大柄ではない馬体をひと回り大きく見せていた。前方のダノンベルーガが4コーナー手前から一気のスパート態勢に入ったのを見ながら、一歩待ってスパート。そのダノンベルーガを捕らえることには成功したが、内から伸びたヴェラアズールに最高に乗られてしまった。

 鞍上のC.デムーロ騎手は内側への斜行を不注意騎乗とされ、19日にも同様の不注意騎乗があったばかりなので、開催4日間の騎乗停止処分を課せられた。並びかけたダノンベルーガはすでに差していたので、内にもたれるシャフリヤールを矯正できなかったのは確かにペナルティーに相当するだろう。勝てる勢いのゴール寸前なので追いまくったが、これはどこの国でも制裁の対象になったと思える。ちょっと残念。

 3着ヴェルトライゼンデ(父ドリームジャーニー)は、D.レーン騎手2度目の騎乗。好位のインをキープし、直線は狭くなるシーンもあったが、インから一旦は先頭に立つほどの勢いだった。秘める切れ味をフルに発揮している。レーン騎手が「上位の2頭は強かった」と振り返るように、持ち味は一瞬の切れ。おそらく2000m級がベストなのだろう。

 4着デアリングタクト(父エピファネイア)は、勝ったヴェラアズールの直後で終始もまれる展開。馬群が交錯するように固まった直線、この牝馬がもっとも厳しいレースを強いられている。さらにゴール寸前にも不利がありながらわずか0秒2差。上がり33秒7は、1−2着馬と並んで最速タイだった。エピファネイア産駒の早い時期の完成説が飛び交ったりしたが、無敗で三冠達成の牝馬に過酷なレースを強いる騎乗はしにくい松山弘平騎手(当然のこと)からの、今回だけと思える鞍上チェンジは、デアリングタクトの持つ素晴らしい能力、まったく衰えなどないことを証明した点で正解だった。

 4コーナー手前からもっとも早めにスパートをかける形になったダノンベルーガは、レースの流れを考えれば、決して早仕掛けとはいえないだろう。大きな不利を受けたのは確かだが、ダノンベルーガの伸びは止まっていた印象がある。まだ今回が6戦目、もっとも戦歴の浅い3歳馬。まだこれから成長してくれるはずだが、日本ダービー4着のゴール前、前回の天皇賞(秋)のゴール寸前のすごい勢い、そして今回の坂上を振り返ると、死角とされた通り、距離ベストは1800-2000m級ではないかと思えた。

 海外勢では、グランドグローリーは昨年の走破時計を1秒2も短縮しての善戦なので、タフな能力発揮を絶賛したい。3歳馬3頭は「7、9、15」着だが、慣れない多頭数レースも、高速馬場も厳しかった。3頭ともにこれからの成長株であり、今回の異なる国での貴重な経験を生かしてくれるだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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