騎手になって初めて知った父の器「俺もそうなりたいなって」

──この話題は『太論』でも取り上げましたが、小牧さん、スクーリングで福島の障害を飛んだんですよね。

太　飛んだねぇ。ホンマに飛んだで。

加矢太　あれほど「飛ばんでええ！」って言ったのに…(苦笑)。

太　だって、(一緒にスクーリングをしていた)草野(太郎騎手)くんが飛ぶって言うから。それにね、気持ちのいい朝やったんやわ。2頭で馬場にいて、天気がよくて、清々しくて。だから調子に乗ったんやろうね、俺が(笑)。

──スクーリング自体は、加矢太さんがお願いしたんですよね？

加矢太　そうです。僕はほかの競馬場にいたんですけど、福島でスクーリングをしてくれる人がいなくて。それで草野太郎さんと親父に頼んだんです。どちらも僕が作った馬で、草野さんに乗ってもらった馬は絶対に飛ばしておいてほしい馬で、親父に乗ってもらった馬は、バンケットだけやってくれたら飛ばさなくてもよかったのに。草野さんともあとで話したんですけど、親父が飛ぶと言い出したときは、さすがに気が気じゃなかったって。

太　一緒に合わせて飛んでくれたからね、彼は。


加矢太　この話って、僕もいろんなところで話すし、親父もいろんなところで話すし、草野さんもいろんなところで話すし、厩務員さんもいろんなところで話すし…。もうトレセンのみーんなが知っている状態で。(小牧さんがスクーリングした馬を管理する)谷先生もおもしろがっちゃって(笑)。

太　笹田(和秀調教師)さんにも、「お前、飛んだんか!?」って言われたわ。

加矢太　一時はトレセン内でプチゴシップみたいになってたよ。でも、その話を通して感じたのは、どの人と喋っても、親父は誰からも憎まれず、みんなが親父に対して好意的であること。一緒に生活している頃はわからなかったけど、先輩でも後輩でも気軽に親父のことをイジれるのは、それだけ親父が器の大きい人間なのかなって思った。俺もそうなりたいなって。

──馬術をやっていた頃の加矢太さんは、ある意味、小牧さんとは逆で、周りから見ると近寄り難い存在だったそうですね。

加矢太　はい。すごく尖っていたというか、尖っているべきだと思っていました。だから、イジられた経験なんて一度もなかったですよ。むしろ、イジられたら負けやと思っていたくらい。周囲に対して刺々しい態度を取っていたし、感じ悪かったですよ、当時の僕は。それがいまや、すっかりイジられキャラに…(苦笑)。でも、ジョッキーになって親父を見ていたら、親父の生き方のほうが人としてカッコいいなと思うようになりました。

太　俺だって、今とは違う時代があったんやで。お前は小さかったから何も覚えていないと思うけど、園田時代は、本来の性格を殺していたから。曾和先生に「意地悪になれ！」って言われてねぇ。人の乗り馬を取って、ずーっと勝っていってたから。つらかったなぁ。

　でも、そうやってきたからこそ、ずっとトップでいられた。新人の子が乗っている馬でも、「あの馬、走りそうやな」と思ったら、すぐにその馬の調教師に連絡して、次からは自分が乗れるようにしたり、JRAで使う予定の馬も、みんなが行きたいのをわかっていて「僕に乗せてください」言うてね。嫌ですやん、そういうの。

──のし上がっていくために、それを嫌だと思わず、むしろ当たり前だと思ってできる人もいるんでしょうね。

太　そうやね。でも、俺は性格的につらかった。いっつもつらかった。だからもう、仕事は仕事として割り切って、何を言われようが構わないと腹を括ってやってた。その代わり、一歩外に出たら、みんなを飲みに連れて行ってね。ようお金を使ったわ。


──加矢太さんが馬術をやっていた頃、ピリピリしていて近寄り難い存在だったというのは、小牧さんも知っていたんですか？

太　いや、わからんかったな。

加矢太　顔は今よりだいぶきつかったと思うよ。頬もコケてたし。

太　我が息子ながら、カッコいいなと思ってたよ。男前やなぁって。

加矢太　最近はちょっとポチャってきたけど…。

太　それはしょうがないよ。親父がぽっちゃりジョッキーなんやから(笑)。

加矢太　最近ね、浮腫んだ顔のまま朝トレセンに行くと、先輩たちに「おはようございますッ！」って頭を下げられるんやけど…。

──アハハハ！

加矢太　あ、わかりました？ そのあとの「な〜んだ、お前か。小牧さんかと思った」までがセットです(笑)。僕もけっこうお酒を飲むから、朝はめっちゃ浮腫んでるんですよねぇ。


──小牧さんは、こうやって加矢太さんが楽しくイジられているのをご存じですか？

太　まぁ仲良くやってるなぁとは思ってるけど。

加矢太　もうね、揉みくちゃよ(笑)。平沢健治さんに「僕、なんでこんなにイジられるんですかね？」って真面目に聞いたら、「お父さんがいい人だからじゃない？」って言われた(笑)。こんなはずじゃなかったのになぁ。もっと凛としたキャラでいこうと思っていたのに、いつの間にかすっかり…。

──もう手遅れです(笑)。

加矢太　ですね(笑)。正直、イジられキャラも悪くないなぁと思ってます。あんなに刺々しかった自分がこんなに変わるなんて、今でも信じられないですけどね。