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ディープ産駒は通算4回目の札幌記念制覇 欧州血統の集積が洋芝巧者を形作った

  • 2023年08月21日(月) 18時00分

血統で振り返る札幌記念


【Pick Up】プログノーシス:1着

 後方から徐々にポジションを上げ、直線で楽々と突き抜けて4馬身差で楽勝しました。ディープインパクト産駒は通算4回目の札幌記念制覇です。

 母ヴェルダは繁殖牝馬として優れた能力を備えており、日本に輸入される前、イギリスの2歳GI(芝6ハロン)を勝ったヴォルダを産んでいます。プログノーシスはその半弟。ディープインパクト産駒の一流馬は、母がアメリカ血統にルーツを持つ馬が多く、とくにノーザンファーム生産馬はその傾向が強めです。一方、社台ファームは昔から欧州志向であり、ヨーロッパ血統を抱えた母から誕生した馬が目立ちます。先日死亡した菊花賞馬アスクビクターモアもそうでした。

 母ヴェルダはイギリス産馬で、母の父オブザーヴァトリー、2代母の父マークオブエスティームは、いずれもクイーンエリザベス2世S(英G1・芝8ハロン)の勝ち馬。前者はほかにイスパーン賞(仏G1・芝1850m)を、後者は英2000ギニー(G1・芝8ハロン)を制しています。こうしたヨーロッパ血統の集積が、雨上がりの札幌の洋芝(馬場発表:稍重)を苦にしない性能を形作ったといえるでしょう。

 今回の上がり3ハロンは36秒0でしたが、高速馬場であれば33秒前後の決め手を繰り出せる馬。天皇賞(秋)に無事駒を進めてほしいものです。

血統で振り返る北九州記念


【Pick Up】ママコチャ:2着

 1番人気が鬼門のレースですが、今年もママコチャが2着と勝てませんでした。ただ、馬にとっては今後に向けて視界が広がった一戦といえるのではないでしょうか。

 ソダシ(桜花賞、阪神JF、ヴィクトリアマイルなど重賞6勝)の全妹にあたる良血で、今回は初めての1200m戦。なおかつ、55.5kgのハンデは見込まれました。それを跳ね返しての2着ですから価値があります。

 近親にメイケイエール(重賞6勝)、ハヤヤッコ(函館記念)、ユキチャン(ダート重賞3勝)などがいる良血で、前走の安土城S(L)は芝1400m1分19秒0のJRAレコードタイの好時計で勝ちました。全姉ソダシは1600〜2000mの範囲で重賞を勝っていますが、ママコチャは本質的に短距離型なのでしょう、1200mの重賞でいきなり連対を果たしました。もともとクロフネ牝馬は、カレンチャン、スリープレスナイトなど、スプリント路線で大物が目立ちます。

 優れた血統背景と、層が薄めの現在のスプリント路線を考えると、重賞を勝つのは時間の問題ではないでしょうか。

知っておきたい! 血統表でよく見る名馬


【ダンジグ】

 アメリカで走り、2歳から3歳にかけてダートの短距離戦ばかり3戦全勝。2着馬との平均着差は「7馬身強」でした。重賞を勝つどころか出ることもなく脚部不安で競走生活を終えましたが、種牡馬としては初年度から大成功を収め、またたく間にノーザンダンサー系のニュースターと見なされるようになりました。

 父と同じく小柄でガッチリとした馬体で、抜群のスピードと前向きな気性を伝えます。あらゆる馬場をこなす万能性もセールスポイントで、休み明けを苦にしません。1990年代の世界最強スプリンターといわれたデイジュールの父ですが、父系はデインヒルとグリーンデザートを通じて発展しており、とくにオーストラリアとヨーロッパで活発に勢力を広げています。

 日本では長らくダート向きの小系統にすぎませんでしたが、海外で大発展していることから、このところ種牡馬だけでなくこの血を抱えた繁殖牝馬も多数輸入され、急速に存在感を増しています。

血統に関する疑問にズバリ回答!


「なぜケガのしやすさも遺伝するの?」

 生物はあらゆる特徴を父母から受け継ぎます。これを遺伝といいます。馬場適性、距離適性、脚質、気性だけでなく、体質もそのカテゴリーに入ります。

 統計を取ったわけではありませんが、マルゼンスキー、リアルシャダイ、アグネスタキオンなどは、産駒の故障が多いという実感がありました。ファンもそうした目線でこれらの産駒を眺めていたと思います。

 無事是名馬(ぶじこれめいば)、という菊池寛の名言(怪我なく走れる馬こそ名馬であるという意)を引くまでもなく、いくら能力が高くとも、故障をしてしまっては大舞台で活躍することはできません。骨折しやすいとか、腱を痛めやすいとか、細かく見れば違いはあると思いますが、いずれにしてもそうした部分を正常に保つ力が、他の種牡馬より少し弱かったのだろうと思います。

 能力が低くて故障しやすい種牡馬は、すぐに淘汰されてしまいます。上記の種牡馬は、能力が高かったからこそ、そうした欠点を語られたという面があります。リアルシャダイとアグネスタキオンはリーディングサイアー、マルゼンスキーは最高2位の名種牡馬で、現代の多くの活躍馬に含まれています。

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netkeibaでもおなじみの血統評論家・栗山求氏が血統の面白さを初心者にもわかりやすくレクチャー。前週の振り返りや、週末行われるレースの血統的推し馬、豆知識などを通して解説していきます。 関連サイト:栗山求の血統BLOG

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