▲“アルしゃん”ことアルナシームの素顔をたっぷりお届けします!(c)netkeiba
不定期連載「クセ馬図鑑─愛すべき強者たち─」。このコラムでは、時にクスッと笑えるような、可愛くてどこか憎めない競走馬の個性にフィーチャーします。
第10回はこの夏、中京記念を勝って待望の重賞初制覇を果たしたアルナシーム。早くからその素質に高い期待が寄せられながらも、折り合いやゲートなど乗り越えるべき課題が多くある馬でした。
そんなアルナシームと少しずつ信頼関係を築いたのは担当の五十嵐公司調教助手。SNSに載る可愛い顔とは対照的な性格の馬ながら、最近では「パドックではルンルンで引き手がいらないくらい」という仲にまでなりました。さらに、レースでコンビを組む横山典弘騎手の存在も大きかったといいます。
担当する五十嵐調教助手(橋口慎介厩舎)、さらにSNSで「アルしゃん」の発信をするスポーツ報知・山下優記者がファン代表として参加。アルしゃん愛、止まりません。
(取材・構成=大恵陽子)
「関わらせてもらったから、こんなに嬉しいことはない」横山典弘騎手の喜び
──中京記念で重賞初制覇おめでとうございました。しっかり差し切りましたね。
五十嵐 ありがとうございます。いまでも鮮明に思い出すことができて、あの時の感情が甦ってきます。ノリさん(横山典弘騎手)がめちゃくちゃ喜んで、「最高だー!」と言ってくださいました。小倉競馬場でのGIIIでしたけど、GIを勝ったのかな? というくらいスタンドも盛り上がっていて、ノリさんが勝つとファンも嬉しいのかなって改めて感じました。
──今日はアルナシームの番記者といっても過言でないスポーツ報知・山下記者もいます。中京記念は見ていてどうでしたか?
山下 ファンが多い馬で、僕もその一人です。そういう馬が重賞を勝てることってなかなかないこと。僕も当日は小倉競馬場に行っていて、いいモノを見せてもらったなって感動しました。
五十嵐 本当に良かったですよね。ただね、僕もノリさんも中京記念はたまたま勝てたって思っているんです。まだ折り合いに危なっかしい面があって、向正面ではグーッとハミを噛んでいました。いま、どんどん力をつけてきているから、あの速いペースでもそういう面を見せていたのかなと思います。かといって、マイルのペースでついていけなかった時もあったので、どの距離に一番適性があるのか僕たちもまだ掴みきれていません。
1800mが競馬をしやすいと言ってくれるジョッキーも多いんですけど、ノリさんは「いまどんどん良くなって変化してきているよ。これまでのアルナシームを忘れて、どんどん挑戦していこうよ」とおっしゃっています。だから、クロス鼻革を取って、ハミも一番緩い物に変えましたし、次走は1600mの富士Sに向かうことになりました。
▲レース後には横山典弘騎手の力強いガッツポーズ!(c)netkeiba
──横山騎手と何度も話し合って、より良い形を模索していっているんですね。
五十嵐 橋口調教師はノリさんや僕の話を色々と聞いてくれましたし、デビューの頃から期待の高かったアルナシームを大事に育てていました。ノリさんからは毎日のように「アルナシーム、どうだ?」と聞かれたり、追い切り内容について調教師に相談したりしていたようです。
朝もいつもスタンドでアルナシームのことを待っていて、「お、今日は機嫌が良さそうだな。俺が触れるくらいだからな」って。だから、中京記念を勝った後は「色々と関わらせてもらったから、こんな嬉しいことはない」と喜んでくれました。
山下 中京記念の4コーナーでスーッと上がっていった瞬間、五十嵐調教助手やノリさんがアルナシームと築いてきた信頼関係がこの末脚を引き出したんだな、と思いました。やってきたことが実になった瞬間だったと思います。
五十嵐 馬がすごいですよね。調教では行きたいのを抑えられて、レースでも気分良く走らせてもらえなくて、ここまでずっと自分を押し殺して我慢していました。嫌なことばっかりだったと思います。
──とはいえ、気の向くままに走らせていては弊害もあるわけで。
五十嵐 調教師が常々言っているのは「馬が故障するのが一番ダメ」と。馬主から大切な馬を預かっている以上、そうですよね。スピードをコントロールしてある程度制御しないと、脚元に大きな負担がかかってしまいます。特にこの子の場合は常に全速力で走っちゃうのでどうしても我慢させなきゃいけなくて、他の馬よりも精神的な負担が大きかったんじゃないかなと思います。
アルナシームを管理する橋口慎介調教師のインタビューはこちら▼
【橋口慎介調教師】スプリングSへ向け好気配! アルナシームの“今回の鍵”は… 見えていない隙に…元気なアルナシームにある小細工
──ここまでの話を聞いていて、アルナシームは走る気持ちがとても強いのかな、という印象です。改めて性格について教えてください。