JRAは「顕彰馬」の文化的価値を高める努力を!/トレセン発秘話
◆違和感がある今年の顕彰馬投票の「特典」
昼間から堂々と飲酒できる花見に勝るとは言わないが、宴会野郎にとって春の楽しみのひとつがJRA顕彰馬の投票である。
名馬の殿堂入りに当たるこの制度は84年に確立され、選出法が記者(競馬報道に携わり10年以上経過した者)投票に変わったのは10年前から。1人2頭の連記で総票の4分の3以上を得なければ不可という厳しい選定基準があり、スタートしてからの10年でも選出馬はわずか4頭。狭き門であるがゆえ、自分が推した馬が選ばれるか否かのドキドキ感は、年末のJRA賞の投票をはるかにしのぐと言える。
ところが…。今年に限れば、1人4頭まで連記可能と投票用紙に記されていた。説明書きによると、JRA60周年記念事業の一環とのこと。過去に微差で涙をのんだ落選馬の救済キャンペーン? いずれにせよ、この“特典”に違和感を覚えたのは事実。顕彰馬は「抹消から1年以上20年未満」という選出ルールがあり、5冠牝馬アパパネなどは今年から対象となった一頭だが…。いきなり“2倍枠”をもらった幸運のはずの国枝栄調教師の言葉に、宴会野郎が感じた違和感の正体は潜んでいた。
「殿堂入りってどれだけファンに認知されているんだ? 投票する記者も過去に選ばれた29頭すべての馬名を挙げられるのかい? 競馬博物館に足を運ばなきゃ分からないようでは、あまり意味がないだろう」
思わず黙り込んでしまった。改めて考えさせられたのは顕彰馬の文化的価値。それが記号的扱いにとどまるなら、表彰増加は混乱を招くだけの結果につながりかねない。
「顕彰馬がレース名として永続的にたたえられるというなら、大いに魅力を感じるのだが」とも国枝師は語った。実際、延べ29頭の顕彰馬でレース名として残るのは、セントライト、シンザンの2頭のみ(共同通信杯の副題にトキノミノルの名はあるが)。おそらくクモハタ、クリフジと聞いてもピンと来ないファンが大半だろう。
今年、フランスで国際賞を受けた「日本の競馬」。その伝統、文化を幅広く知らしめるためにも、顕彰馬はとっておきのアイテムになり得る。その知名度、文化的価値をいっそう高める努力をJRAには期待したい。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)