セレクトセールの当歳展示風景
別世界、異空間ともいうべき「夢の舞台」だったセレクトセール
英国のEU離脱問題や円高、株価下落など、経済の動向がやや不透明になってきたことなどから、景気に陰りが見えてくるのではないかともささやかれていたセレクトセールだったが、いやはやここだけは別世界、異空間ともいうべき「夢の舞台」であった。
セレクトセールの会場風景
結果はすでに数多くのメディアに取り上げられているのでここで繰り返すのは止めておくが、2日間で税抜き150億円にほぼ届くところまで数字を伸ばし(正確には149億4210万円)、セレクトセールだけはまったくの不況知らずであった。これで、欠場になった牡のディープインパクト当歳1頭でも上場されていたら、確実に150億円は突破していただろう。売却率だけは前年を下回ったものの(83.8%→81.4%)それ以外の数字はことごとく従来の記録を塗り替えた。
もちろんこのセールの主役は、ディープインパクト産駒であった。初日の1歳では20頭が上場され、全馬が完売。ディープ産駒だけで22億8900万円を売り上げ、平均価格も1億1445万円を記録した。2日目の当歳でも勢いはまったく衰えず、15頭中13頭が落札されて、計18億7500万円、平均価格は1歳を大きく上回る1億4423万円余となった。ディープ産駒は2日間で33頭が合わせて41億6400万円を稼ぎ出したことになる。
当然、初日、2日目ともに、最高落札価格馬はディープインパクト産駒から出た。初日の1歳は107番「オーサムフェザーの2015」(牡鹿毛)の2億6000万円が最高価格。2日目は328番「イルーシヴウェーヴの2016」(牡鹿毛)、389番「マルペンサの2016」(牡鹿毛)がともに2億8000万円で最高価格であった。
「オーサムフェザーの2015」セリ場面
「オーサムフェザーの2015」の立ち姿
「イルーシヴウェーヴの2016」落札場面
「イルーシヴウェーヴの2016」の立ち姿
オーサムフェザーは2008年米国産馬で、米2歳牝馬チャンピオンとしてGI・2勝を含め10勝を挙げた名牝である。またイルーシヴウェーヴは仏1000ギニー馬、マルペンサはアルゼンチンのGI馬で周知のごとくサトノダイヤモンドの母である。
「マルペンサの2016」落札場面
「マルペンサの2016」の立ち姿
こうした世界的な名血馬にディープインパクトが配合されていると価格が高騰するのは当然だが、まずこれらの繁殖牝馬は日高ではほとんどお目にかかれないレベルで、その意味でもひじょうに興味深いセールではあった。
結局、ディープ産駒を中心に、初日、2日目合わせて億を超える落札馬(税抜である)が、計23頭も出たため、取材陣もてんてこまいであった。ディープ産駒に引きずられるようにそれ以外の種牡馬産駒の中からも高額馬が出た。例えば、ホエールキャプチャにオルフェーヴルの牡馬(当歳)が1億7000万円まで競り上がったり、アドマイヤテレサにジャスタウェイの牡馬(当歳)が1億4000万円と、これはという上場馬は一気に億の大台を超える落札価格になった。
「アドマイヤテレサの2016」の立ち姿
「ホエールキャプチャの2016」落札場面
「ホエールキャプチャの2016」の立ち姿
ここに2日間いると、完全に金銭感覚が狂ってしまう。初日の1歳が終わってから、日高のとある生産者と話したが、「驚いたというか、参ったね。初日だけで81億円だよ。しかも税抜きで。消費税も合わせたら、87億8100万円だってさ。日高で年間通じて開催されるセリの全部の合計が去年は84億円だったんだけど、それをわずか1日で超えちゃったんだから呆れるよね」と言うのであった。
日高ではトレーニングセールに始まり、オータムセールまで、4市場に2393頭が上場されて1576頭が落札され、総額84億1320万円を売り上げて、バブル期以来の好成績に湧いたのであった。それを1日だけで、217頭の売り上げだけで超えてしまったのだから確かに恐れ入る。
ただ、件の生産者はあくまでも前向きだ。「やはりここに来ると刺激を受ける。良い馬が生まれたら俺もここに連れてきて高く売ってみたいと思うから」とも言っていた。若い世代の生産者であれば、これくらいの気概が欲しい。
セレクトセールで1歳馬は土曜日から入厩して翌日の展示に備えていたという。日高から遠征する場合には、1歳馬だと少なくとも2泊3日で出張しなければならず、小規模経営の牧場にとってはかなりのハードルになるが、そのハンデを乗り越えて上場する一定数の日高の牧場がいるのは私たちの希望と言って良い。
当歳展示終了後の一斉引き揚げ場面
さて、来週は舞台を日高に移し、新ひだか町静内の北海道市場を会場にセレクションセールが開催される。果たしてどんな結果となるか注目したいと思う。