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第5回 早起きは3万円の得だった……の巻

  • 2013年02月11日(月) 18時00分
netkeiba.comの調教欄を使った必勝法を独学で構築し、それを武器に2回目のノックに挑むことになったオオヤブ(牡36)。お約束の遅刻もせずに時間通りに待ち合わせの場所に現れたオオヤブの顔は、今日の勝利への自信と確信に溢れている。しかし、このさわやかで希望溢れる朝の様相は競馬場に入って一変! オオヤブはノックの底なし沼に飲み込まれていくことになる――。
◆オオヤブがひねり出した張り子の調教必勝術
 調教VTRを見ると(パドックなんかもそうだが)、いつも「スッゲエ!」「ヤッベエ!」といった、貧相なボキャブラリーのせいでギャル男並のどーでもいいコメントしか出てこないオオヤブ。「あの馬、スッゲエやる気ありそうじゅぁぁぁ〜ん!」なんて言いながら、調教抜群と個人的に判断して大金を突っ込んだ馬が2ケタ着順だった、なんてことも日常茶飯事である。

 オオヤブの調教を見る目それ自体、まるで「魚眼レンズ」のように歪んでいることは重々承知している。というか、この男に調教で「特A」評価を下された馬の陣営には同情してしまう。こいつの魚眼レンズは、時に「メデューサの目」のように、馬の走りを石化(硬直)させるかのごとく、本番での逆噴射を誘発するからだ(こいつのせいじゃないんだけどさ)。

カレーなる脳みそのオオヤブ

カレーなる脳みそのオオヤブ

 そのオオヤブがnetkeiba.comの調教欄をどう使いこなしてくれるというのだろうか? 自分の目で調教を見て、各馬の調子の良し悪しを判断するわけではなく、あくまでも「他人のふんどし(調教欄)」を利用するかたちなのは安心だ。ただ、医学部志望の自称インテリだったにもかかわらず、「加齢臭」を「カレー臭」だとつい最近までマジで理解していたオオヤブだけに、調教欄への「メスの入れ方」には一抹以上の不安が残る。「調教必勝法のさわりだけ言っときますが……」なんて、船橋法典の駅前でエラそうに概要を説明していたオオヤブだが、その必勝法自体に問題があるようなら、今日のノックを早々に中止にしなければnetkeiba.comの沽券に関わってくる。そんなわけで、もっと詳しく必勝法を聞き出そうとしたら、競馬場へ向かう道すがら向こうの方から得意満面で話し始めた。

『僕が追い切りを見て判断してもいいんでしょうけど、そこはnetkeiba.com、調教欄の最終追い切りの評価は現場のプロのフィルターを通してますから信頼できるはず。というか、まずはここを信頼することが大前提。その評価はA〜Dの4段階になってますから、ここでまずふるいにかけます。C・D評価の馬は、ヒモとして残すケースもあったりするけれども基本的には消し。さらにA・B評価の馬の中から前走で同じコースで追い切っていた馬を残して、この中から軸馬を選びます』

『最終的にA評価の馬が軸になるかたちがベストですが、出走馬にA評価の馬がいない場合もあるので、その場合はB評価の馬から軸を選びます。また、たとえA評価の馬がいたとしても、あえてB評価の馬を軸にすることもあります。残ったA・B評価の馬は全頭、前走時・好走時の最終追い切り時計と比較していますから、たとえA評価の馬でも今回の最終追い切り時計が、前走時や好走時より下だと思えば、B評価の馬を上位にとることもあります。ここの時計比較が僕のセンスになりますね。アッハハハァ!』

自信満々の競馬場入り

自信満々の競馬場入り

 まともに時間も守れないヤツが「時計」を語るとは片腹痛いわ! でも、オオヤブ先生! その「カレーなる脳みそ」でそれなりに考えたようですが、たとえば未勝利戦とかで一度も好走したことない馬だけがA・B評価だったら比較しようがないんですけど。それとA・B評価の中で、前回と今回の最終追い切りのコースが違っている馬は比較できないんで完全に消しなんでしょーか? 調教がいいなら消せないと思いまーす! どーなんでしょうか?

『(人さし指を左右に移動させながら)チッチッチッチ。問題ありましぇーん! 未勝利戦のように該当馬無しの場合は無理してそのレースを買う必要はなし。前走との比較ができないA・B評価の馬は、イキです、イキ! とりあえずヒモで買ってください』

前者の「買わない」というのは、馬券狂のオオヤブにしては意外かつ賢明な判断だと思うが、後者の「ヒモ残し」はたぶんテキトーだな。もはやこいつの脳みその活動限界を超えたと見た!

◆いきなり一発勝負かそれとも安全策か! 悩みに悩んだ末!?
 さて、朝っぱらからレッドブルを注入したオオヤブの熱弁を聞かされつつ、中山競馬場に到着。で、1Rの3歳未勝利戦からいきなりノックすんのぉ?

『僕、今かなり悩んでいます。1Rはおそらく堅いんですよ。でも、前走2着で今回追い切りがA評価の8.エジルですが、僕の視点でいえば前走の追い切りの方が今回よりやや良かった気がするんです。同じ南Wでの追い切りで時計はいいんですが今回は乗り役が乗ってますからね。まあ軸にしてもいいっちゃいいんですよ。でもこれを軸にするならお隣の9.トゥールモンドがすごく魅力なんですよねえ。9.トゥールモンドは追い切りがB評価ですが、前走3着時よりも追い切り時計がかなり上向いています。でも前走3着って僕の決めた好走基準(2着)より下だからなあ。いきなりここで例外を認めるのもどうかって気がするし。ほぼこの組み合わせでイケそうなんですが』

 どうやら、軸がもうひとつハッキリとしないくせに大きく張りたい買いたい気持ちがあるようだ。だが、馬券を買う段になるとその踏ん切りがどうしてもつかない。

『それとですね。このレース、追い切りパターンを変えてきた馬が多数いるんですよ。つまり、8.エジルや9.トゥールモンドはいいんですが、その他の馬が調教の比較がほとんどできないんで、その2頭で堅いとは思いますが、鉄板というには材料が足りなくて』

オオヤブ1レースからノックへ!

オオヤブ1レースからノックへ!

 いきなり1Rから悩みまくっているオオヤブの頭の中では、「これで堅いはず。買っちゃえ、買っちゃえよ!」という悪魔と、「不確定の部分が多いよ。ここはまだ1Rだし、様子見、様子見」という天使のせめぎ合いがずっと続いている。武蔵野線内では眠気もあって正常な判断がままならず、「1Rは堅そうなんで3万円全部ぶち込んでみようかしら、テヘ!」と考えてもいたようだが、結局オオヤブが下した決断はこうだ。

『9.トゥールモンドの単勝とこの馬を軸にした馬連で行きます。相手本線はもちろん8.エジル、その他は、前走5着時よりも追い切り内容が良かった2.ベルモントリヴァー、3走前に4着に好走した時の追い切りパターンに戻した3.ノッキングオン、あと電車の中で無性に気になった12.ヒシパシフィック。単勝は1000円。馬連は本線の8.エジルには500円。2.ベルモントリヴァーには300円、残りには100円ずつの計2000円で勝負します。本当は8-9の馬連に最低1万円くらいは入れたかったけど、勝負はこれから、これから』

 無性に気になったから、という最後の1点だけは理屈がわからんが、とにかく本来のこいつらしくない安全策をとってきた。悲しいかなこれがサラリーマンの性なのか、どうやら今回の100本ノックに出かける前、玄関先で嫁に「今日はすきやきにするけど肉高いから、その分はちくわぶでカサマシしとくからね」とキビシ〜イ激励を受けてきたらしい。ん? すきやきの具にち、ちくわぶ?

大勝負しておけば…

大勝負しておけば…

 レースはスタート後に2.ベルモントリヴァーが果敢にハナへ。2番手に8.エジル、そのやや後ろに9.トゥールモンドが付けるオオヤブの馬券的には絶好の展開。直線に入ると2.ベルモントリヴァーが早々に脱落して8.エジルと9.トゥールモンドのマッチレース。最後は8.エジルが9.トゥールモンドを振り切って勝利。

 見事、オオヤブの予想通りの8-9決着で、馬連は390円、払い戻しは1,950円。枠連は400円だから、枠連を買っていれば完全にトントンだっただけに、50円のマイナスでもショックはかなりデカい。

『せめて、せめてこの目に1万円、いや5,000円でも入れていれば……。子どもに牛……、いや、これから楽な勝負ができたものを』

 競馬ファンに「たら・れば」はつきものだが、朝から希望に燃えてルンルンだったオオヤブだけに、1Rから味わったこの落下傘的悪夢に茫然自失の体。なかなか気持ちを切り替えられないオオヤブは、

『※○▲◎@※$%&#……僕のせいじゃない、僕のせいじゃない』

と、ブツブツブツブツ謎の黒魔術めいた呪文を唱える始末。

いつものオオヤブモードに…

いつものオオヤブモードに…

 こうして、この1Rの結果を受けて、ラリホーに続いて「バーサク」を覚えたオオヤブは、2Rで追い切りA評価、好走実績(2着以内)のある馬が出走馬にいないのにもかかわらず馬券を買ってしまう。しかし、軸にした馬は掲示板がやっとの5着で、相手は全頭掲示板にも乗れずに2,800円のマイナス。しかも2Rを外したことでさらにバーサクがかかってしまい、3Rですべてを取り返そうと馬連500円流しで挑んだものの、軸馬が見せ場なしの9着でドボン。3,000円のマイナスを追加して、ここまで負債は5,850円と、初回よりずっと落ちていくペースが早い。

 しかもこの後、よせばいいのに障害にまで手を出したオオヤブは、なんと軸馬を1着に固定した3連単で完全復活を狙ったが、軸馬がレース直前に馬体検査となり、「ちっ、今日のすきやきは牛じゃなくて豚だ!」とやさぐれる。

 結局出走取消になってしまったものの、このおかげでオオヤブはバーサク状態から解放されることになった。ちょっと冷静になったオオヤブは一言。

『これじゃカレーが食えないでしょーがっ!』

 うんうん、だいぶ正気に戻っているじゃないの!

現在の馬券的中数 4本
ゴールまで残り 96本

次回のオオヤブ

次回のオオヤブ

【次回予告】
勝負どころを間違って冷静さを欠いていた午前中の自分を反省し、午後の勝負に挑むものの、生来の粘着性気質が災いしてか、ずっと1Rを引きずりっぱなしのオオヤブ。

そしてメインレースを前にしてあの禁じ手がついに発動された! でもホントにいいのかこれで!?


【馬券100本ノックのルール】
・netkeiba.comのコンテンツを使って馬券を的中させれば『1本』。馬券の種類は問わない。
・万馬券であれば1本プラス、10万馬券ならば10本プラス。
・100本に到着するまで本企画は終わらない(不人気で連載終了の可能性は僅かにあり)。
・馬券を購入できるのは月に1日。どのレースを買ってもいいが、重賞は必ず買う。
・購入資金はオオヤブのお小遣い3万円以内。足りなくなったら・・・・・・

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【主役:オオヤブ】 妻子持ちの36歳。一応、雑誌・書籍の編集業に携わっている。若かりし頃にイギリス留学経験もあり、ニューマーケットで馬券の研さんを積んだ、なんてことはまったくない3度のメシより競馬好き。ギャンブル全般に造詣が深いと本人は思っているが、周囲の見方は単なる「下手の横好き」。

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