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ここで一句

  • 2014年09月27日(土) 12時00分


◆ロンシャンでの決戦へ向けて

 来週火曜日、9月30日午後8時54分放送予定(一部地域は異なる)のテレビ東京系「開運!なんでも鑑定団」で、最年少ダービージョッキー・前田長吉関連の品物が鑑定される。私は制作に関わったわけではないので詳細を知らないし、知っていたとしても放送前に言ってはいけないのだが、同番組の公式サイトの予告コーナーに、長吉の兄の孫である前田貞直さんの写真が載っている。

 何に、どのくらいの値がつけられるのだろうか。

 あの番組で、冗談みたいな安値になるか、びっくりするほどの高値になるかの分かれ目は「本物か偽物か」である。長吉関連の品物の場合、本物であることはハッキリしているので、あとはどれだけプレミアム度というか、歴史的価値が評価されるかだろう。

 いずれにしても楽しみだ。

 7月の終わり、新たに出てきた長吉直筆の手紙などを見せてもらうため八戸の貞直さんのお宅を訪ねた。そのおり、画家の久保田政子さんらとともに俳人の三ヶ森青雲(みかもり・せいうん)さんにお会いしたことも、このコラムに書いた。

 その夜ご馳走になったことに対する礼状と拙著を2冊、ひと月半ほども経った今月なかごろになって三ヶ森さんに送った。相馬野馬追取材のさい、お宅に泊めてもらった小高郷の蒔田保夫さんと、大山ヒルズのキッチンスタッフでもある中ノ郷の佐藤弘典さんの写真を焼いたDVDを送ったのも同じときだった。

 お礼は早いほうが絶対にいいのに、私はいつもこんな具合で、情けない。

 すると先日、三ヶ森さんが『四季 北奥羽百句百景』というA4版の著書を送ってくださった。版元は、2006年に長吉の遺骨が帰郷することをスクープした地元紙の「デーリー東北新聞社」。同紙に2年間連載したコラムを再編集して一冊にまとめ、09年に出版された。オールカラーで、見開きごとにひとつの俳句と写真が載っており、その背景を三ヶ森さんが解説している素敵な本である。

 書名のとおり、百の俳句が紹介されているのだが、著者である三ヶ森さんの句はそこにはない。

 全体を、連載時の順序とはまるで異なる「春夏秋冬」の季節ごとに分類しなおしただけでも大変な労力だったはずだ。さらに、見開きごとにその句の作者や舞台についての「メモ」がついており、巻末にはそれぞれの舞台がどこかひと目でわかる地図と、句や作者ごとの索引もある。

 目次を見た私がまずひらいたのは、「夏」に分類されている31番目の句、「寺山修司記念館」(三沢市)のページだった。

 そこに載っているのは寺山自身による次の句だ。

 目つむりていても吾を統ぶ五月の鷹

 これは寺山が21歳のときに上梓した『われに五月を』に収められており、高校生のときに詠んだ句だという。

 季節の分類は俳句歳時記をもとにした、とある。「五月」は春というイメージを持っていたのだが、夏の季語であるようだ。「鷹」は冬の季語らしいが、「五月」であることの意味をこれだけ強く打ち出した句を冬のカテゴリーに入れるわけにはいかなかったのは私にもわかる。

 同じく「夏」の句として、北奥羽地方の牧場を舞台としたものがふたつある。

 ひとつは五戸町の三浦牧場で詠まれた句だ。

 馬を打つ鞭花栗に触れにけり(河村静香)

 三浦牧場は1984、85年の最優秀ダートホース(優駿賞)に選出されたアンドレアモンや、86年のオークスで2着となり、87年のカブトヤマ記念を勝ったユウミロクなどの生産牧場である。

 もうひとつは八戸市のタイヘイ牧場を舞台としたもの。

 海霧(じり)の底草食む馬の深睫毛(阿部思水)

 タイヘイ牧場からは43年の天皇賞・春を勝ったグランドライト、46年のオークス馬ミツマサ、48年の皐月賞馬ヒデヒカリ、近いところでは00年と01年の最優秀障害馬ゴーカイなどが誕生している。

 このページの「メモ」は、競馬評論家の大川慶次郎氏に関することだ。父が37年に創設した牧場ということで、本文では慶次郎氏の記念碑についても言及されている。

 順序が逆になったが、先述した三浦牧場のページの「メモ」は「五戸町と馬産」で、「五戸町は古くから馬産地として知られ(略)世界的に珍しい白毛馬を4頭産出したことでも有名」とある。

 97年12月30日、大井競馬場で日本の白毛馬として初勝利を挙げたハクホウクン(父ハクタイユー、母ウインドアポロツサ)も五戸町のマルシチ牧場で生まれた。

 馬主のヤナギスポーツを経営する柳田清氏が、生まれてまもないこの馬の愛らしさにぞっこんになり、「君は白い宝物だよ」という意味でハクホウクン(白・宝・君)と名づけたという。

 白毛といえば、今、栗東・音無秀孝厩舎に入厩した2歳牝馬ブチコ(父キングカメハメハ、母シラユキヒメ)の、ダルメシアンのようなブチの姿が話題になっている。白地に茶色のマーブル柄で、耳もたてがみも色付きという、愛嬌タップリのルックスだ。

 白毛はどうやら流星や脚の白などの「白徴(はくちょう)」が全身にひろがったものと解釈していいようで、汚れが目立つだけではなく、皮膚もデリケートなので手入れが大変だという。この馬や、全姉のマーブルケーキが綺麗な姿で競馬場に現れるその裏には、丹念に手をかけたスタッフの汗があるわけだ。

 最後に、一句。

 仰ぎ見し凱旋の秋(とき)紅ゆれて

 ロンシャンでの決戦が、1週間後に迫ってきた。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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