「マイルのチャンピオンは崩れない」。しばらく使われることのなかったフレーズだが、やっぱり金言は生きていた。1984年、安田記念がGIになり、マイルCSが創設された。今年で32回目を迎えたマイルCSを圧倒的な内容で制したのは、今春の安田記念を勝った
モーリス(父スクリーンヒーロー)。過去、安田記念とマイルCSの両GIを制したのは、
▼ニホンピロウイナー(父スティールハート)
1984年、1985年
▽ニッポーテイオー(父リィフォー)
1987年
▽オグリキャップ(父ダンシングキャップ)
1989年
▼ノースフライト(父トニービン)
1994年
▽トロットサンダー(父ダイナコスモス)
1995年
▼タイキシャトル(父Devil's Bag)
1997年、1998年
▼エアジハード(父サクラユタカオー)
1999年
▽アグネスデジタル(父Crafty Prospector)
2000年
▼ダイワメジャー(父サンデーサイレンス)
2006年、2007年
▼モーリス(父スクリーンヒーロー)
2015年
※▼…同一年に安田記念、マイルCSを制覇
今回のモーリスは、史上10頭目になり、同一年の制覇は6頭目となった。
おそらく、今年の最大のポイントは、春の安田記念で彗星のようにマイル路線のエースとなった「モーリスを信用できるのか?」だったと思われるが、モーリスは、過去、その春の安田記念以来のローテーションでマイルCSに挑戦した馬は【0-0-0-7】だったのに、見事、史上初めて約半年ぶりの実戦で、過去の名馬とならぶ大記録を達成したのである。
中〜長距離戦ならともかく、ことマイル戦ではその馬の基本能力を信じよ、というのが「マイルのチャンピオンは崩れない」の金言の意味するところだが、安田記念以来のぶっつけローテーションで勝った馬はいなかった。堀調教師の管理馬で、なおかつR.ムーア騎手が乗ってきてさえ、モーリスが4番人気にとどまったのは仕方がないところがある。
しかし、「背腰に張りが出て、歩様に硬さが出てしまった」ことで、予定していた毎日王冠に出走できなかったモーリスは、懸命の立て直しに成功。立て直しながら、ローテーションの狂いを、逆にフレッシュな状態に仕上げ直す方向にまで発展させたから、すごい。美浦の堀宣行調教師の卓越した仕上げの手法は知られるが、こういう苦しい状況を乗り越えた堀厩舎スタッフの仕上げは見事というしかない。
モーリスは、不安なく見事に仕上がっていただけではなかった。これまで直前輸送のレースでは馬体重減、落ち着きを欠いてしまうこと、スムーズな折り合いに心配があるなど、レースキャリアが浅いだけにさまざまな不安もあったが、このローテーションで死角を出すどころか、これまでで「一番強い」レースをみせた。モーリス自身も4歳の秋、大きく成長していたのである。まるでマイル戦のお手本のようなレースだった。
4歳モーリスは、血統図の中に登場する「スクリーンヒーロー、グラスワンダー、ダイナアクトレス、メジロモントレー、メジロボサツ…」などのいいところだけを受けついだような現代のチャンピオンの1頭とされる。カーネギーもやっと凱旋門賞馬のプライドを示した。また、近年は種牡馬スクリーンヒーローと同じように、種牡馬(繁殖牝馬)になってさらに評価が上がる馬がふえている気がする。これは素晴らしいことだ。
種牡馬スクリーンヒーローの評価は、このあと香港マイル(過去、エイシンプレストン、ハットトリックが勝った)にムーア騎乗で挑戦する予定となったこのモーリス、有馬記念を予定するゴールドアクターなどによってますます高まるだろう。土曜日(21日)の錦秋ステークスのレース検討に出てきたプロトコル(父スクリーンヒーロー)は、その血統図に現代の活躍馬らしく、ノーザンダンサーの「S5×S5×M3×M5」の強いクロスと、ヘイルトゥリーズンの「S5×S5×M3」のクロスがあるとしたが、モーリスの場合、ヘイルトゥリーズンはスクリーンヒーローの持つ「S5×S5」だけだが、ノーザンダンサーはやっぱり「S5×S5×M4×M5」である。
いま、ほとんどの馬にノーザンダンサー、ヘイルトゥリーズン、ミスタープロスペクターのクロスの生じる時代であり、これにはなんの不思議もないが、血統にうるさいファンは、このコーナーの隣にある「データベース」コ―ナーで、1940〜60年代の世界のさまざまな名馬の5代血統表を検索してみることを勧めたい。
10年から30年くらい前は、特定の馬の「クロス」は、意図的な配合以外、あまり多くなかった時代がつづいたが、日本と同様、世界の生産頭数が減少カーブに転じた10年くらい前から「ノーザンダンサーの2、3本クロス」など当たり前になっている。歴史は戻っている。サラブレッドの世界は、わたしたちの世界と同じように回転しているのである。
また、今年も2着にとどまった
フィエロ(父ディープインパクト)は、藤原英調教師、M.デムーロ騎手がそろって、同じように「勝った馬が強かった」とコメントするしかなかった。残念な2着は、納得の2着か。能力を出し切っている。「マイルのトップクラスの力量馬は崩れない」。
イスラボニータ(父フジキセキ)は、天皇賞・秋につづき、また3着だった。前後半「47秒1-45秒7」=1分32秒8。レースのバランスは明らかなスロー。レース上がりが「11秒1-11秒5-11秒2」=33秒8なので、勝ったモーリス(上がり33秒1)は極端にいうと3ハロン連続して「11秒0」の高速ラップを記録したに近いが、後手を踏み、インに突っ込んだからとはいえ最速の上がり33秒0を記録して負けたイスラボニータも、ほとんど同様の高い能力を示している。
「ひょっとして、内の奇数枠だから…」、小さな死角が現実となってしまったが、GIに「たら…」も「れば…」もない。来年5歳の安田記念でモーリスと再対決である。
1番人気から、5番人気に支持された馬が「1〜5着」独占。上位は時計以上にハイレベルのマイル戦だった。とくに3歳牝馬
アルビアーノ(父Harlan's Holiday)の来季は楽しみである。