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一番牧草、最盛期

  • 2016年06月29日(水) 18時00分
一番牧草

一番牧草の集草作業中


天候が安定した27日あたりから一斉にトラクターが稼働し始めた



 今年の日高は6月の天候があまり良くならず、とりわけ中旬以降にややぐずついてきたことから一番牧草の収穫作業がやや遅れ気味になっている。

 例年に比べると雨が多く、晴天の日が少ないために、なかなか本格的に着手できないまま、いつしか下旬を迎えた。ようやく天候が安定した27日あたりから、一斉にトラクターが稼働し始め、今がピークである。

 牧草収穫作業は、乾草の場合、刈り取りから梱包、収納するまで4日間かかる。基本的には全て機械による作業だ。刈り取りから始まり、3日目まではひたすら反転、集草を繰り返す。丁寧な牧場は、3日目に一度「仮巻き」(紐を巻かない状態のロールにすること)をして一晩寝かせ、翌日に再び、圃場一杯に牧草を広げ、棒状に機械で寄せて、ロールべーラーで丸めて行く。それを厩舎の二階か倉庫まで運び、収納する。ここまでが一連の作業である。

 ただし、一度に手がけられる面積は限界があり、家族経営の牧場の場合には、せいぜい2〜3ヘクタール程度だ。良い天候が当分続くことがあらかじめ分かっているのならば、どんどん刈り進むことが可能だが、しばしば天候は急変してしまう。刈り取ってから、最低でも3日目の「仮巻き」までは、晴れているか、最悪でも曇りで経過することが絶対条件で、そこまで漕ぎつければ、仮に4日目に雨が降ったとしても、数日間程度ならば品質を落とさずに済む。3日目までの段階で、八分程度は乾いているからだ。

 ところが、週間天気予報を何度もチェックして、刈り取りに着手するにもかかわらず、予報が日々変化するようなことも少なくない。数日間は晴れる予報であったものが、いきなり翌日から傘マークが並び出す、というような場合もしばしばある。そうなると、乾草で収穫することは半分諦めなければならない。生乾きの牧草をロールに巻いてラッピングし、発酵させたサイレージ飼料にでもするしかなくなる。牛の飼料ならばそれで良いが、馬の場合はやはり乾草がベストであり、この時期は晴天が何より求められる。

 牧草の収穫のためには、最低でも、トラクターが1台に、刈り取りのためのディスクモア、反転のためのテッター、集草のためのロータリーレーキ、ロール状に梱包するロールベーラーの4種の付属作業機が必要になる。これらはすべて、トラクターに装着するか牽引して使用する機械であり、新品で揃えるとなると大変な金額になってしまう。

一番牧草

集草するロータリーレーキ



 今では家族経営の牧場であっても、トラクター本体とて1台では済まず、最低でも2〜3台は装備しているのが標準だ。作業効率を優先させるために、複数のトラクターにそれぞれ反転、集草などの用途に応じた作業機を装着したままにしておき、できるだけ脱着の手間をかけないようにする。作業機の脱着に時間を取られるとそれだけ作業が遅れてしまうからで、人手の足りない牧場ほどその傾向が強い。

一番牧草

反転させるテッター(4連)



 また、トラクターも年々大型化してきており、それに伴って、作業機も年々大型化している。同じ面積の牧草を手がけても、小型の機械と大型の機械とでは効率がまるで違ってくるからである。

 ところで、生産者の間では、しばしば牧草を自家生産すべきか否かについて議論になることがある。一定面積を放牧地にせず採草地だけに使うのはもったいない、絶対に放牧地として使用すべきで、牧草はより品質の良い輸入物を購入して馬に与えるべき、という考え方がある。第一、牧草を自家生産するための諸機械一式に費やす資金があるのなら、その分を牧草購入費に回した方が安上がりなのではないか、と主張する人がいる。

 だが、日高の、とりわけある程度以上の年配者であればあるほど、牧草の自家生産にこだわる傾向が強い。採草地が牧場に隣接していない場合には、放牧地として使用することができないため、自然と牧草収穫のための採草地にせざるを得ないし、施肥から始まり、牧草収穫のための長年培ってきたノウハウが身についているので、牧草は自家生産するのがベストだと考えているのだ。

 トラクターでの作業も自在にできて、圃場の隅々まで形状や土質などが頭に入っているのだから、年配者は概して牧草作業が概して嫌いではない、と感じる。何より、牧草作業は、確実に手応えを感じられる仕事であり、ある種の「達成感」を得られる部分が大きい。

一番牧草

集草した牧草(畝状になっている)



 見た目ではっきりと作業の進捗状況が把握でき、且つ、梱包と収納の時には、「収穫の喜び」を感じることができる。

 来月には1歳市場が控えており、何とかそれまでに片付けておきたいと考え、日高の生産牧は、今フル回転で一番牧草に取りかかっている。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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