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第51回札幌2歳ステークス

  • 2016年09月07日(水) 18時00分
第51回札幌2歳ステークス

第51回札幌2歳ステークスを優勝したトラスト関係者の口取り風景


今回は実力を出せる体制が整っていたということ

 9月3日(土)、開幕最終週となるこの日、札幌競馬場で「第51回札幌2歳ステークス」が行なわれた。今年は13頭がエントリーし、人気を集めたのは、まず7月10日函館の新馬戦を強い勝ち方で制したタガノアシュラの2.0倍。続いて札幌の1800m芝の新馬戦でデビュー勝ちしたディープインパクト産駒のディープウォーリアが6.6倍で続き、3番人気インヴィクタ、4番人気コリエドール、5番人気トラストが10倍以下で、後はいずれも10倍以上であった。

 この前のレースである「札幌スポニチ賞」で武豊騎手はイッテツに騎乗し4番人気ながら見事に勝利を収め、これで海外と地方を含めた通算勝利数を3999勝として、中央競馬所属の騎手では前人未到の4000勝に王手がかかったばかり。そんなこともあって、1番人気のタガノアシュラに騎乗する武豊騎手にはひときわ大きな声援が飛んでいた。

第51回札幌2歳ステークス

「札幌スポニチ賞」で通算3999勝を挙げた武豊騎手


 ただ、いずれもまだデビューしたての2歳馬だから、抜けた存在がおらず、やや混戦ムードではあった。そんな中で、異色の存在感を示していたのが、川崎競馬から□地馬として遠征してきたトラストだ。ビッグレッドファームを創設し、類稀な相馬眼の持ち主として知られる岡田繁幸氏が、コスモバルク同様に、地方競馬から中央に送り出してきた期待馬で、すでに一度、「クローバー賞」(8月21日、札幌)を使い、芝コースを経験させている。しかし、後述するように、この時には輸送による体重減と札幌到着の翌日に芝コースに入れて追い切るというハードスケジュールが祟ったのか、ブラックオニキスの2着に敗れてしまった。そのせいか、この札幌2歳ステークスでの人気は5番手で、やや評価を下げていた。

 しかし、そんなレース前の評価を覆し、いざゲートが開くとトラストはすぐに最内の経済コースを果敢に先行して、終始先頭を譲らずついにそのままゴール板を駆け抜けてしまった。圧勝であった。2着にはクローバー賞でトラストを退けた10番人気のブラックオニキスが入り、3着は7番人気アドマイヤウイナーと、三連単は実に50万円を超える高配当となった。

第51回札幌2歳ステークス

札幌2歳ステークスのゴール前


 トラストは父スクリーンヒーロー、母グローリサンディ(その父エイシンサンディ)という血統の牡・芦毛で、もともと岡田氏の期待馬として注目を集めていた素質馬である。

 前走「クローバー賞」では、初輸送、初芝コース、右回り(川崎は左回り)と、初物づくしに加えてタイトなスケジュールとなり、不利なレースを余儀なくされたわけだが、今回は実力を出せる体制が整っていたということになるだろう。川崎の河津裕昭厩舎所属、柴田大知騎手のコンビは、昨年の1月19日「京成杯」に優勝した岡田繁幸氏所有馬プレイアンドリアルと同じである。また地方所属馬として札幌2歳Sを勝利したのは13年ぶり、モエレエスポワール以来の優勝であった。生産者は新冠・(有)中本牧場。

第51回札幌2歳ステークス

札幌2歳ステークスの表彰式


 レース後、岡田繁幸氏は報道陣に囲まれ、質問攻めに遭っていたが、その時に、以前より氏の語っていたトラストによる英国ダービー挑戦の計画が、いとも簡単に変更される事態になり、俄然周囲にいた取材者が色めき立った。

第51回札幌2歳ステークス

レース後、報道陣に囲まれる岡田繁幸氏


 すでに各種報道にあるように、氏の口から飛び出したのは、トラスト以上の期待馬とも言うべき「秘密兵器」の存在であった。コスモスと名前のつけられた(おそらく岡田氏がとっておきの期待馬に命名するべく大切に温めていた馬名であろう)フリオーソ産駒の牡馬で、英国ダービーを目指したいというのであった。

 未だデビュー前で、来月中旬にトラストと同じく川崎の河津裕昭厩舎に所属し、川崎競馬から使い出す計画だという。「うち(ビッグレッドファーム)の坂路で重賞を勝っている古馬を問題にしないくらいの走りを見せています。すごい馬ですよ」と氏の思い入れの大きさが窺える台詞がポンポン出てきた。

 そのために、急きょ、トラストは今後、栗東・中村均厩舎に転厩させ、中央所属馬として出走することになるらしい。

 それにしても、氏の絶賛するコスモスなる馬はいったいどんな馬なのだろうか。昨年のオータムセールにて氏が540万円(税込)で落札したフリオーソ産駒というだけしか今のところ分からないのだが、久々に“岡田節”がさく裂したことから察すると、相当な逸材なのは間違いなさそうだ。

 ただひとつ残念なのは、コスモスの母カーラはその後出産していないらしいこと。すでに「用途変更」されているらしいという説もあり、もしそれが本当ならば何とも惜しい話ではある。

 ところでこの日、最終レース後の札幌競馬場に、トラストの父スクリーンヒーローが姿を現し、ファンにお披露目された。何たる符号なのか、さながら父親が息子の応援にやって来たようなもので、こんなところからスクリーンヒーロー繋がりの馬券を的中させた人がいるかも知れない。ともあれ、当初はレベルがそれほど高くないと目されていたクローバー賞の1、2着馬が入れ替わったという結果に終わったのであった。
第51回札幌2歳ステークス

最終レース後にパドックに登場したスクリーンヒーロー

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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