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【桜花賞】牝馬のクラシックに現れる時代をリードする流行血脈

  • 2022年04月11日(月) 18時00分

10着馬までわずか“0秒3”差の大接戦


重賞レース回顧

初重賞制覇を飾ったスターズオンアース(C)netkeiba.com


 挫折した馬が少なく、合計10頭の「重賞勝ち馬と、リステッドレース勝ち馬」の揃った今年の組み合わせは、比較の難しい大接戦が予想された。

 そのうえ、高速馬場なので1分32秒9の勝ち時計は速かったが、レースの流れは「前半34秒6-46秒8-(1000m通過58秒8)-後半46秒1-34秒1」。全体のバランスは大半の馬が対応できる前半の方が緩い流れになった。

 その結果、ほぼ一団で入線した上位馬には「ハナ、クビ、アタマ」の着差が8個も並び、10着馬までわずか「0秒3」差の大接戦だった。勝ったスターズオンアース(父ドゥラメンテ)は、これが初重賞制覇だった。

 小差だったとはいえ、クラシックで勝ち負けした馬と、善戦にとどまった馬には優劣をつけなければならないが、今年の桜花賞は、ほぼ同じような能力を持った馬が10指に余るほど存在しての結果だったかもしれない。

 よく「桜花賞のゴール前を見ていれば、オークスで勝ち負けする馬が見える」といわれる。実際、各馬のスケジュールは変化しているうえ、距離はまったく異なるが、過去10年のオークスで1-2着に快走した20頭のうち、6割の12頭までが桜花賞の出走馬によって占められている。関連は深い。今年の桜花賞でオークス候補が見えただろうか。「見えた」という頼もしいスタッフもいたが、ほとんどは無言だった。

 スターズオンアースは、馬自身も勝負強かったが、川田将雅騎手のビッグレースでの闘志が素晴らしかった。再三接触しながら、最後は両脇の馬のあいだをこじ開けるように伸び切った。これで崩れることなく通算【2-3-1-0】。

 父ドゥラメンテは2015年春の2冠馬であり、その祖母エアグルーヴは1996年のオークス馬。牝系ファミリーは、母の半妹ソウルスターリングは、桜花賞3着、オークスを1番人気で快勝。祖母スタセリタは仏オークス馬。絵に描いたようなクラシック一族であり、距離延長に死角はない。

 勝ったスターズオンアースは、父ドゥラメンテ(残したのは5世代)の2世代目の産駒。2着ウォーターナビレラは、父シルバーステート(その父ディープインパクト)の初年度産駒。3着ナムラクレアと5着ピンハイは、父ミッキーアイル(その父ディープインパクト)の送った2世代目の産駒。4着サークルオブライフは、父エピファネイアの3世代目の産駒だった。

 時代の流れを示すように、これからの種牡馬の世界を投影するかのような結果となったのも今年の桜花賞の大きな特徴だろう。時代をリードする流行血脈は、最初に牝馬のクラシックに現れるとされている。

 2着ウォーターナビレラは、巧みに先行馬有利の流れに乗り、ゴール寸前まで鞍上の武豊騎手の桜花賞6勝目か、と思わせる勢いある直線先頭だった。レース上がりは34秒1(11秒1-11秒5-11秒5)。この馬の上がりは34秒0なので少しも失速したわけではなく、勝ち馬の切れ味(33秒5)に屈した形だった。前が塞がったチューリップ賞5着を別にするなら【3-1-1-0】。4戦連続して上がり34秒台にとどまる切れ味の物足りなさと、マイラー型に近い体型は気になるが、これでGIを3着、2着。引き続きトップクラスは間違いない。

 3着ナムラクレアは、1番枠なので当然だが、この週も内枠有利の芝コンディションを意識し、終始インをキープする作戦。抜け出したウォーターナビレラを半馬身差まで追い詰めたが、最後は同じ脚いろ。ベストは短距離。1600mまではこなしたが、オークス向きかとなると心配が大きい。

 4着サークルオブライフは、早く動きすぎた印象のあるチューリップ賞3着を教訓に、控えて直線に賭ける作戦。勝負どころで外のナミュールを先に行かせている。直線は外から上がり最速の33秒3。まだ脚はあった。内有利の芝と、2分すると後半4ハロンの方が「0秒7」も速い展開が味方せず、結果的に慎重に乗りすぎた印象が残ってしまった。この点はM.デムーロ騎手も無念だろうが、敗因は外枠の不利ではなく、近年の桜花賞はかつてと異なり、後半の800mの方が速くなることが多いペース変化を読み切れていなかった。オークスの2400mが歓迎ではないのは近年、大半の馬が同じ。オークスでの逆転を目ざしたい。

 5着ピンハイは、もっとも小柄な406キロの馬体ながら、直線できびしい位置からよく伸びた。高倉稜騎手は最後の直線で外側に斜行して過怠金の対象になってしまった。たしかに危ない騎乗だったが、大接戦の直線勝負だったため、ペナルティーすれすれの斜行馬はほかにも複数いた。大きく反省するのは当然だが、そんなに落ち込むことはない。

 1番人気のナミュールは426キロ。心配された4キロ減。ただ、見た目に細いということはなく、気迫もあった。外枠とはいえ、勝負どころの4コーナー手前では勝ち馬とほとんど同じような位置。横山武史騎手は高松宮記念、大阪杯に続いて1番人気の支持に反したことになるが、レシステンシアは決して騎乗ミスではなく、エフフォーリアは明らかに当日の馬の体調が敗因。今回のナミュールも多くのファンや関係者が期待(予測)した通りのレース運びだった。高速馬場で1分33秒2は、自身のチューリップ賞とまったく同じ時計であり、上がり33秒7は前走以上だった。ただ、一戦ごとに馬体重の減っていた小柄なナミュールには、残念だが「上積み」がなかった。オークス挑戦の可能性は少ないと思える。

 素質に注目されたプレサージュリフト(父ハービンジャー)は、キャリアの浅さを感じさせない気配を見せていたが、前走は勝ち馬と同じクイーンCとはいえ、休みを挟んでまだ今回が3戦目。最近のトップホースは輸送など慣れているが、

直前輸送でのレースは初めて。スタートも良くなく、このペースにずっと後方だった。桜花賞も、日本ダービーもたしかに3戦目で勝った馬はいるが、非常に特異なケースであり、さすがにそこまでは甘くなかったということか。

 17日の「皐月賞」にも、必ずしも予定通りとはいえないキャリア2戦の注目馬がいる。素質上位はハッキリしている。ただ、日本ダービー制覇を最大目標に掲げるのも事実であり、その評価はあまりにも難しい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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