最初からわかっていたような終盤のスパート
アルゼンチン共和国杯を制したゼッフィーロ(撮影:下野雄規)
快勝したのは4歳牡馬ゼッフィーロ(父ディープインパクト)で間違いないが、一気に抜け出したのはJ.モレイラ(40)に見えてしまった。
前日、10鞍に騎乗して「6勝」したモレイラ騎手は、この日は8レースに乗って「5勝」。最終12Rこそ2番人気だったが、朝から11Rまで騎乗機会7戦連続1番人気だった。人気馬に騎乗が多いのは、勝てそうもない馬をモレイラに騎乗依頼するのは、はばかられるからだろう。土日の2日間で1番人気馬に14鞍騎乗して、その成績【10-2-0-2】。過剰人気馬があっての成績だからすごい。
レース全体のバランスは、前後半「1分12秒9-(5秒9)-1分11秒1」=2分29秒9のレースレコードタイ。後半に11秒台が連続したように決して速いペースでもなかった。ゼッフィーロ(モレイラ)はこの流れの中団のインにいた。ところが、3コーナー過ぎから少しも動かず、4コーナーを回る地点では後方3-4番手まで下がっている。勝つ気がないのかとさえ映った。選んだ直線のインは狭かったが、残り400m地点で1頭分だけ前が空く。モレイラ騎手はそれが最初からわかっていたような終盤のスパートだった。そこまでまったく動いていないからスタミナは温存されている。とくに長丁場ではムダな動きをまったくしないからマジックマンなのである。2500mのアルゼンチン共和国杯の出走は初めてだった。
これで最近10年、4歳馬の勝利は6頭目。さらには3歳馬が2勝。確実に世代交代が進んでいる。それを考えると7歳マイネルウィルトス(父スクリーンヒーロー)の2着は見事。これで東京の2500mは目黒記念と合わせ【0-3-0-0】となった。6歳夏から繋靱帯炎で丸一年も休んでいたと思えない馬体を誇っている。
同着の3着に突っ込んだ6歳ヒートオンビート(父キングカメハメハ)は、昨年に続いての3着で、これで距離2500mは【1-1-2-0】。今回はハンデ頭の59キロを背負ってだから価値があった。
3着同着だったもう1頭のチャックネイト(父ハーツクライ)は、今回が格上がり初戦で、かつ初重賞挑戦。5歳馬だが、のど鳴りの手術、去勢手術を克服して今回が14戦目。まだ掲示板を外したことがない。さらにパワーアップするはずだ
波乱の公算大と思われた今年のアルゼンチン共和国杯は、休み明けで外枠だったため本来の先行策が取れず、3番人気で13着にとどまったディアスティマ以外は、人気馬が上位を独占する結果になった。好タイムの決着だったからだろう。
それにしても、J.モレイラは特別なジョッキーだ。2018年の騎手通年免許試験で不合格となり、JRA入りが実現しなかった理由は、「あまりにも存在が大きすぎる(勝ちすぎる)ので、日本の騎手全体に及ぼす影響が大きい」という複雑な事情もあったといわれたが、やっぱり残念な判断だった。プロスポーツの世界は、大谷のメジャーリーグも、サッカーの欧州リーグも、ゴルフも、ラグビーも抜きん出た天才級を争奪して受け入れることによって成功し、未来につなげている。また、いま思うに、香港(中国)の向かっている方向を考えると、競馬こそ開催されているが、ブラジル出身のモレイラ騎手の家族は、これからはもう香港にとどまるべきではないと考えていたのかもしれない気がする。