藤岡佑介騎手をゲストに迎えてのご指名対談第3回。この対談が収録されたのは高松宮記念の直前。バレンチノの話から、松山騎手がおもむろに本番へのプレッシャーを語り始めました。すでに結果が出ているレースではありますが、今回はあえて、大一番を目前に控えた松山騎手のリアルな心境と、佑介騎手がスーパーホーネットで経験したGI秘話をお届けします。
■バレンチノこそがモチベーション! 佑介「一度や二度、失敗してもいい」
──川須くんにしても松山くんにしても、今が一番、迷う時期なんでしょうね。
佑介 一度や二度、失敗しても僕はいいと思ってる。失敗しなかったのは、浜中くらいかな。彼は彼なりにいろいろあったんだろうけど、いろんな意味で突き抜けてますからね(笑)。
──とにかくGIを勝ちたかったから、中央へシフトすることについて、迷いはなかったそうですよ。そういう強固なモチベーションがひとつあることは、すごく大事なことなのかもしれませんね。
佑介 もうそれだけで十分だと思います。浜中のようなタイプのほうが珍しいとは思いますけど、結果的にトップに立ったわけだから、それくらいじゃないとダメなのかもしれませんね。
松山 ん〜、そっかぁ…。
佑介 でも、さっきも言ったけど、モチベーションという意味では、バレンチノがいるでしょ。この間の競馬(シルクロードS)では、前哨戦ということで加用先生は「今回は太いけど、次(高松宮記念)に向けていい競馬をしてくれれば」みたいなコメントを出されていたけど、弘平ちゃんは「僕としては負けられない一戦なので、絶対に結果を出してみせます!」みたいなコメントをしていて。“コイツ、若いなぁ”とか思いながら、新聞を読んでたんだよ(笑)。でも、勝ったもんね。大したもんだなぁと思った。そういう気持ちって大事だし、あの馬に関しては本当に自信があるんだなって。
松山 そうですね。走ると思ってますから。それに、あそこで負けているようでは、本番では通用しないだろうなっていう思いもあったんです。こんなところで負けるわけにはいかない!って。
佑介 すごいな。大人になってくるにつれ「今回はちょっと太いから…」とか、予防線を張っちゃったりするんだよ(笑)。でも今話していて、スーパーホーネットの4歳の秋を思い出したよ。春は安田記念で惨敗(18番人気11着)したんだけど、秋は絶対にやれるっていう自信があってね。ポートアイランドS(2番人気1着)に乗るために北海道から帰ってきたとき、周りからは「何しに帰ってきたの? 乗る馬いるの?」とか言われてさ。心の中で“今に見とけよ”とか思って。だから弘平ちゃんも、そういう感じなのかなって、
松山 そうですね。あの馬に関しては、それくらい自信があるかもしれません。今まで条件戦だろうと何だろうと、バレンチノが出るところはどこにでも行ってましたし。
佑介 僕もホーネットとはすごく長い間コンビを組ませてもらったけど、弘平ちゃんとバレンチノも長いよな。僕があれこれいうより、バレンチノがいろいろ教えてくれるでしょ? 僕も、前哨戦の戦い方だったり、GIに向けてどうすればいいのかとか、ホーネットにいろいろ考えさせられた。とにかく今は、一生懸命やればいいんだよ。
松山 でも、正直不安です。今週(高松宮記念)…。
佑介 不安なの? うまく乗れるかどうかっていうこと?
松山 いえ、うまく言えないんですけど…。もしですよ、万が一勝ったとしたら、僕がこんなにあっさりとGIを勝ってしまっていいものなのかなって…。GIはそんなに甘いもんじゃないだろうから、そう簡単には勝たせてもらえない。だから逆に不安になるというか。
佑介 ああ、だから今回は勝てないんじゃないかって不安になるっていうことね。でも、バレンチノは、勝っちゃっていいのかなっていう馬じゃないでしょう。十分に勝てる力のある馬なんだから。周りもそれはわかってるよ。いっぽうで、ロードカナロアは、勝って当たり前だと思われている馬なんだから。弘平ちゃんは、ある意味、楽な立場だと思うけどな。
松山 楽しみは楽しみなんですけど、1カ月くらい前から、当日が早くきてほしいような、永遠にこないでほしいような…。今は早く終わってくれっていう気持ちのほうが強いかも。
佑介 そうなの? もっと楽しみにしているのかと思ったよ。勝てば大金星だし、かといって、実力的にまぐれとも思われない。絶対に負けられないのは相手であって、弘平ちゃんは自分の馬に集中すればいいんだよ。
松山 そうですね。勝ったらめっちゃ調子に乗っちゃうかも(笑)。来週、佑介さんとすれ違ったとき、“鼻”が当たっちゃうかもしれませんよ(笑)。
佑介 そうしたら、その鼻をポッキリと折ってやるよ(笑)。でも、今の弘平ちゃんの気持ちって、すごくわかるよ。こういうときの心境って、あとあとまですごく心に残るものだから、感じたままに過ごしたほうがいいよ。僕もホーネットの4歳秋のマイルCSときは(4番人気2着)、GIを勝ったこともないのに、すごく高揚しちゃってさ。馬もものすごく調子が良くて、“これ、絶対に勝つやん!”とか思ったりして。まぁ結果は、ダイワメジャーにあっさり負けたんだけどね(笑)。レース前はあんなに自信があったのに、あのレースだけは、どこまでいっても(着順は)変わらなかったと思う。で、次の年に安田記念で1番人気になったときは、朝から“早く終わってくれ。こんなプレッシャー耐えられへん…”ってなってしまった(笑)。
──以前、「あの日の僕はおかしかった」っておっしゃってましたよね。
佑介「“やってやるぞ!”の強い気持ちで・・・」
佑介 人生のなかで、一番自分が変だった日でした。精神状態が、朝からもうおかしくて(笑)。GIの1番人気って、どうしても負けちゃいけないって考えてしまいますからね。
松山 逆にバレンチノは、いつも2番人気とか3番人気で、僕が人気を下げているのかもしれないと思って、なんか申し訳ないです…。
佑介 とにかく、人気的にもメンバー的にも、今回は腹をくくって乗れるんじゃない? “やってやるぞ!”って強い気持ちでさ。
松山 はい! あとは枠順が重要ですね。向うが内枠を引いて、僕が真ん中くらいを引けば、逆転できるチャンスが生まれるんじゃないかなぁって。
佑介 ロードはスタートも上手いから、本来は付け入る隙はないんだけどね。自分の枠順より、相手の枠順が気になるだろ?
松山 そうですね。逆に、僕が内枠を引いて、向こうが真ん中くらいだったら、もう絶望的なんですけど(笑)。
※当日は、ロードカナロア6枠11番、ドリームバレンチノ6枠12番。松山騎手は2着に負けはしたものの、馬の力を出し切っての好騎乗でした!
【次回のキシュトーーク! は?】
これまで騎手会の細かい仕事なども、自身が中心になってこなしてきた佑介騎手。そんな佑介騎手に、後輩たちは心身ともに頼りっきりだそうです。しかし、佑介騎手は約1年間フランスへ。次回は、その決断の裏にあった葛藤や、フランス遠征の目的など、松山騎手が佑介騎手の“今”に迫ります!