10月9日、大井「東京盃」。ハタノアドニスがイメージをはるかに超える強さで勝った。
スタート、二の脚、いつになく平凡でひやりとしたが、インからサウスヴィグラスが先手をとると、その3番手で意外なほどスムーズに折り合った。短距離戦としては出入りの少ない淡々とした流れ。間にソルティビッドをはさみ先頭と終始3~4馬身あっただろうか。4コーナー、快調に飛ばすサウスヴィグラスは首をグイと下げしびれるような手応え。しかし直線中ほど、エンジンかかったアドニスの伸び脚は文字通りケタが違った。馬場の真ん中、それこそ矢のように突き抜け、一瞬のうちに逆に相手を4馬身ちぎっている。
予想が当たった、馬券が当たった、個人的にむろんそれは嬉しいが、そんな快哉よりも驚きの方が数段大きい。この馬にこういうレースができたのか…。アドニス本命は、あくまで先手を取る、そういう前提でつけている。改めて競馬はつくづくわからない。
東京盃(サラ3歳以上 別定 統一G2 1190m良)
(1)ハタノアドニス (56・内田博) 1分10秒6
(2)サウスヴィグラス (56・柴田善) 4
(3)エスプリシーズ (56・森下) 1.1/2
(4)ノボトゥルー (58・武豊) 3/4
(5)ノボジャック (58・蛯名) 1.1/2
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(6)シャドウランサー (56・戸崎)
(12)シルクブラボー (54・後藤)
単490円 馬複360円
馬単920円 3連複4160円 3連単15290円
「前々走(水沢・栗駒賞)は2番手から抜け出す競馬。今日もそれをイメージして乗った」と内田博騎手。なるほど終わってそれを聞けば納得だが、正直当時とは相手が違う。統一G6連勝サウスヴィグラス、G1馬ノボジャック、ノボトゥルー。アドニスはJRA時の戦歴も含め、まだそこまでの強さを示していない。進化する快速馬-いつもながら、というより一戦ごとに思い知らされる言葉。
高橋三郎調教師は、今回アドニスをあえて船橋競馬場まで輸送し、長めから追い切りをかけた。「太くなる体質なので、そこを考えて。乗り運動も毎日気温の上がる昼過ぎから時間をかけた」。真のホースマンというべきだろう。その情熱と努力がアドニスをスプリンターの頂点まで導いた。11月3日「JBCスプリント」は、再びホームコースの同条件。名実ともに“受けて立つ”役割りとなった。
乾燥して時計のかかる馬場。そこで1分10秒6(タイレコード)はきわめて速く、サウスヴィグラスも凡走ではない。2キロ増、気持ち余裕残しと考えれば、次走はむろん接戦の期待が浮かぶ。
エスプリシーズはスタートで致命的な出遅れ。ゴール際馬群を割って3着なら合格点以上がつく。「以前から短距離は走ると思っていた。まともに出ていれば勝ち負けじゃなかったの」(森下騎手)。精神面の頼りなさは相変わらずだが、今後へ向けて自身の資質、適性は十分探れた。
ノボトゥルーはやはりベストに1~2F短く、直線前が壁になったのも痛かった。ノボジャックはズブさが出ている近況で、他より重い58キロでは今日の4着がひとまず妥当な線だろう。シルクブラボーは久々、初コースで終いバッタリ。それでも前半の軽快な行きっぷり、はち切れるような好馬体など、ダート適性は感じられた。転入3戦目シャドウランサーが健闘。JRA5勝の6歳馬。南関東レベルの短~マイル路線ならもうひと花の計算が立つ。
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前日の8日、大井では2歳馬による「ゴールドジュニアー」が行われた。準重賞ながら、続く「ハイセイコー記念」、「鎌倉記念」、さらに「全日本2歳優駿」へつながる重要なステップレース。川崎、船橋、現時点のエリート候補、大半が顔をそろえた。
ゴールドジュニアー(サラ2歳 別定 1390m良)
(1)ベルモントサファリ (53・内田博) 1分28秒3
(2)エーピーライデン (55・石崎隆) 頭
(3)テンクラウド (53・坂井) 2.1/2
(4)シルクビート (53・的場文) 首
(5)ヒノモトフジ (53・真島) 3/4
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(10)ゼレンカ (54・佐藤隆)
(14)スウィープダンス (53・酒井)
(15)オーシャネット (53・野崎)
単1550円 馬複670円 馬単2940円
3連複2930円 3連単22500円
ベルモントサファリの逃げ切り。父シャンハイ、母の父ハギノカムイオー、5年前半兄ベルモントウッズがやはりこのレースを勝っている。重心が低く胸前の厚い典型的なスプリンター体型で、テンのダッシュ、加速力は素晴らしい。新馬戦を1分0秒4の好タイムで勝ち、以後オープン[2-2-1-0]着。来春クラシックとなると微妙だが、もう一つ先を見据えれば、さらにスピードを磨いて統一G短距離路線の夢もある。
1番人気エーピーライデンが強いレースをした。スタートで後手を踏み道中馬混みの中で厳しい流れ。行き脚がついた3~4コーナーでも前を再三カットされた。直線大外から強烈に伸びた瞬発力は、かつての京浜盃・トーシンブリザードとイメージがダブる。ワカオライデン×ジェイドロバリー、確かに血統背景は早熟だが、柔らかでスケールの大きい馬体と凄みのある走法。現時点で「全日本2歳優駿」の有力馬と考えたい。
ただし1分28秒3、時計からみてレース全体のレベルは疑問で、3着テンクラウド以下、評価は先送りになるだろう。注目の外国産馬ゼレンカは、エーピーライデンより一歩早めに動き直線失速。初コースを考慮しても完成度がまだまだ低い。川崎900mを勝ち、いきなりここ挑戦になったスウィープダンス(父エンドスウィープ)、オーシャネット(ビワシンセイキの半妹)も、今日のところは無抵抗の大敗だった。しばらく経験が必要か。