今月の『キシュトーーク!』は、月別成績、騎乗馬別成績、競馬場別成績、コース別成績などなど、あらゆるデータからジョッキーの深層心理に迫る新企画。題して「ジョッキーが語る“数字の裏側”」。第1回は国分恭介騎手です。ある月が好調な理由や、もっとも数多く勝利したアノ馬との貴重なエピソードを明かしてくれました。
(取材・文/不破由妃子)
■重賞まで勝たせてもらったのに、最後は……──今回は、恭介騎手にまつわるあらゆるデータから、恭介騎手の深層心理に迫っていこうという企画です。ご自身でも自覚していたこと、していなかったこと、または予想外のデータも出てくるかと思いますが、普段から勝率や連対率など、気にしてチェックすることはありますか?
恭介 ないですね。勝ち鞍の数は意識していますけど。
──ではさっそく、月別成績から。今年1月は5勝と好調でしたが、1年12か月のなかで、一番勝ち星を挙げている月はわかりますか?
恭介 ん〜、去年でいえば、4月か5月が好調だったような気がするんですが…、何月なんですか?
国分恭介騎手・月別成績
──18勝で10月がトップです。ただし、デビューした09年の3月7日から去年の年末までのデータで、初年度は3月デビューですから、1月と2月はほかの月より1年分少ないのですが、それでいて1月は17勝と2位ですから、実質1月がもっとも勝っている月といえるかもしれません。
恭介 へぇ〜、全然知らなかった(笑)。自分のことって意外とわからないものですね。4月と5月もいいほうじゃないですか?
──それがですねぇ、5月は16勝で6月と並んで3位タイなのですが、4月は6勝で最下位です…。
恭介 僕、テキトーですね(笑)。
──今年もそうですが、1月が好調な理由は、ご自分でわかりますか?
恭介 なぜでしょう(笑)。寒いのは好きじゃないですし…。あ、唯一競馬と競馬の間隔が空いているのが年末年始じゃないですか。だからゆっくり体のメンテナンスができるし、お正月はお正月でちょっとダラダラしたりして、気持ちが切り替えられる時期ではあります。毎年目標を立てるのも1月ですしね。もともと考えすぎてしまうほうなので、年末年始で心身ともにリセットできるのがいいのかもしれませんね。
──月によって成績にバラつきがあるように、恭介騎手に限らず、みなさん“リズム”というものがあると思うのですが、どういうきっかけでそのリズムが狂ったり、あるいは取り戻せたりするのですか?
恭介 取り戻す方法は、僕が知りたいくらいですけど(笑)。リズムが狂うきっかけは、いい馬に乗せていただいたときに、そのチャンスを生かせなかったときかなぁ。僕の場合は、それほど数多くチャンスが回ってくるわけではないので、そこをモノにしないとリズムに乗れないんですよね。だから、そういうことが重なると、その月は全然勝てなかったりだとか。
──気持ちを切り替えるのって、言葉で言うほど簡単ではないですものね。続いては、騎乗馬別成績です。ちょっとクイズみたいになってしまいますが、デビューから先週(2月16日終了時点)までで、恭介騎手が唯一4勝を挙げている馬というと?
国分恭介騎手・騎乗馬別成績ベスト10
恭介 (テイエム)オーロラですよね。競馬学校時代から乗っていた馬で、本当は僕のデビュー戦で騎乗する予定だったんです。でも、デビュー週はケガで乗れなくて、たしかそのときはミルコが乗って(4着)。そのあと芝1200mの未勝利戦で初めて乗せてもらって5着だったんですが、気のいい馬で、当時は完全に短距離馬でしたね。
──その年の夏の終わりに骨折してしまって。
恭介 そうですね。8か月ぶりの復帰戦でまた乗せてもらったんですが、中京の芝1200mで3馬身半もちぎって勝ってくれたんですよね。
──なにしろオーロラでは9戦4勝ですからね。名コンビでした。
恭介 たまたまです。それに、いいときに乗せていただきましたから。当時は今以上に“走る馬”の感覚なんてわかりませんでしたが、すごくフットワークが軽くて、マジメすぎるくらいマジメな馬で。かといってコントロールが利かないかというとちゃんと利くし、本当にいい馬でした。
──なにしろ、記念すべき重賞初勝利の馬ですからね(10年・府中牝馬S)。4番人気でしたが、恭介騎手にとって、改めてあの一戦はどんなレースでしたか?
恭介 レース前に助手さんから、「最低でも賞金を加算してくれ」って言われたんです。ああ、それくらい期待されている馬なんだなぁと思って、レースに向かった記憶があります。
──最低でも2着(苦笑)。助手さんのそのひと言はプレッシャーだったのでは?
恭介 そうですね。ただ、自分としても勝てる力のある馬だと思っていたので。不思議とそんなに緊張はしませんでしたよ。それ以前に、東京で乗ったことがなかったので、どこでどう追い出したらいいのかすら、まったくわからないような状態でしたから(笑)。たまたまスタートが良くて、無理に控えずハナに立って、そのままっていう感じでしたから。
──あの一戦で、“国分恭介”という名前が浸透しましたよね。思い入れのある馬だったと思いますが、残念ながら、その年の暮れの愛知杯で、レース中に故障してしまって(右第1指関節開放性脱臼で予後不良に)。
恭介 あれはへこみました。競馬だから仕方がないといってしまえばそれまでなんですが、重賞まで勝たせてもらったのに最後は…。あのとき、脚がブラブラになりながらも、転ばずに耐えてくれたんです。後続馬がぶつかってきたんですが、しっかり立っていてくれて。そのおかげで、僕はケガをしなかった。係りの人と厩務員さんがくるまで、ずっと僕が手綱を持っていたんですが、本当にかわいそうだった。
──仕方がないと頭では理解しつつも、そういう出来事はしんどいですよね。一生、忘れられないでしょうし。
恭介 はい。その日、ひとりで帰ったんですけど、新幹線のなかでずっと泣いてました。そのときは、“なんでオーロラが…”って、どうしても受け入れることができませんでしたね。
その日、ひとりで帰ったんですけど、新幹線のなかでずっと泣いてました
【次回のキシュトーーク! は?】
国分恭介騎手が語る“数字の裏側”第2回。馬番別成績、人気別成績、クラス・レース条件別成績などから、恭介騎手の傾向に迫るとともに、ひとつひとつの数字をさらに掘り下げ、深層心理に迫ります!