松山弘平騎手が少年時代に通っていた阪神競馬場の乗馬センターの恩師・斉藤正行さんとの対談 [第3回]。松山少年が憧れていた先輩の話や、斉藤さんから見た松山騎手の長所を語っていただきました。
(取材・文/大薮喬介)
憧れていた先輩に今でも感謝しています
斉藤 松山くんの言っている先輩というのは、吉澤くんのことだね。
松山 そうです。現在は、競馬学校の教官をなさっているんですよね。当時は吉澤さんもジョッキーを目指していて、すごく努力されていたのを覚えています。
斉藤 そうだったね。
松山 その姿を見ていたので、自分も頑張れたんだと思います。ただ、吉澤さんが競馬学校に受からなかったときは、すごくショックで…。僕もジョッキーになるのは無理なんじゃないかって、ずっと思っていました。だから合格したときは、正直驚きましたよ。それぐらい自信を持っていませんでしたから。
斉藤 松山くんは二度目の試験で受かったんだよね。よくあきらめなかったな。
松山 はい。『自分にはもうこれしかない!』と思っていましたから。だから、吉澤さんと同じ高校に行くことにしたんです。先生もご存じだと思うのですが、その高校は授業が午後からで、先輩が毎日午前中に乗馬センターに通っているのを見ていましたからね。それに乗馬センターを紹介してくれたのも吉澤さんだったんですよ。だから、僕は斉藤先生と同じくらい、吉澤さんにも感謝しているんです。
斉藤 その気持ちを持っていれば、この先も安心だね。君の合格を聞いたとき、本当によかったと思ったんだが、実はさっきの話にも出てきたように「無理なんじゃないか」とか「自信を持てない」と思ってしまう、その優しすぎる性格で大丈夫だろうか、と少しだけ思ってしまったんだ。
松山 そうだったんですか。
斉藤 でも、デビューの週にいきなり2勝するし、今の活躍ぶりを見ると、それも杞憂に終わったけどね(笑)。
松山 デビュー戦は、いい馬を用意していただいたからですし、今の僕もまだまだです。
斉藤 いやいや、いい馬を用意してもらえる人間性が君にあるからだよ。ジョッキーは強い気持ちも大事だけど、人間性も大事だと私は思うんだ。いくら技術があっても、騎乗する機会をもらえないと、それも発揮できないからね。
松山 ありがとうございます。斉藤先生がトレセンにいるので、これからも間違ったことはできませんね(笑)。こちらに移動されたのは、確か4年前でしたよね?
斉藤 そうだね。トレセンに関しては、君のほうが先輩だ(笑)。ジョッキーになってからも、阪神開催になれば乗馬センターまで来てくれたし、トレセンに勤務するようになってからも、ちょくちょく顔を出してくれるから、本当にうれしいよ。大人になって頼もしくなったけど、その優しさは変わってないね。
斉藤正行さん「(松山くんは)大人になって頼もしくなったけど、その優しさは変わってないね」
松山 乗馬に限らず、斉藤先生には人として、たくさんのことを教えていただいたので、ご挨拶をするのは当たり前じゃないですか!
斉藤 照れるなぁ(笑)。
松山 何度も言いますけど、怒られてばかりでしたけどね(笑)。本当にあのときの先生は怖かったなぁ。
斉藤 それはそうだよ。犬や猫と接するのとは違って、乗馬は少しの油断が大きなケガにつながるんだから。そこをしっかりとわからせないといけないんだ。松山くんだって、あの頃に馬との接し方を覚えたから、ジョッキーになっても危険を回避できているんだと思うよ。
松山 あの時はわからなかったけど、今振り返ると、僕のために叱ってくれていたんだな、と理解できます。もし、斉藤先生に怒られていなければ、競馬学校も耐えられなかったかもしれませんから。でも、今は会いにくれば「頑張れよ」って優しく言ってくれますもんね。いやぁ、本当に丸くなりましたね、先生(笑)。
【次回のキシュトーークは!?】
松山騎手と恩師・斉藤さんとの対談も次回で最終回。現在のジョッキー・松山弘平を恩師はどう評価しているのでしょうか? そして、どのようなジョッキーになってほしいと望むのでしょうか? 乞うご期待!