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身を捨ててこそ

  • 2015年05月21日(木) 12時00分


結果を超越した感動

 史上に残る大波乱、ここまで荒れるとかえって爽快だ。その立役者は、好スタートを切ってペースを落とさず逃げた江田照騎手のミナレットだ。最低人気馬が「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」とばかり、速いペースを作って先を行く。これを7、8馬身離れた2番手につけたのが12番人気で吉田豊騎手のケイアイエレガント。これだけ離れていれば逃げているのと同じで完全にこの馬のパターンに。後続の人気馬は、いくら離れていてもちょっと速いからと動かない。ヴィクトリアマイルは異様などよめきの中、直線を迎えていた。

「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」は、その意味から剣の極意とされ、「皮を斬らせて肉を斬り、肉を斬らせて骨を断つ」と言うようになってきた。相手に勝つためには、こちらが身を捨てた心境にならなければ勝機を見出すことはできない。この教えは、剣のみではなく何かにつけて言われてきた。競馬では、かつて野平祐二さんが、騎乗の極意のひとつとして語っておられた。それでも実力を無視してまでは語れないのが競馬だから、そうやったからと言って、必らず勝てるというわけではない。最大限に自分の立場を生かし切ったミナレット、情況を有利に導いたケイアイエレガントに対し、戸崎圭太騎手のストレイトガールの勝利をどう解釈したらいいのか。この初コンビは、5番手にいて機を窺うには絶好の位置にいた。先行勢を見つつ後ろの有力勢の脚色を読む。来るのを待つという様子だったが、2番手ケイアイが先頭に立ったところでこれに標的を切り換え、瞬発力で差し切ったのだった。波乱の決着にはなったが、勝ちタイムがレースレコードタイ。逃げた馬も差した馬も、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」を実践したのだ。

 力を出し切る、その前提にある心境、覚悟があったかどうか。ここを重視したい。ゲートに入ればどの馬にも等しくチャンスがある。最初から駄目と思うのではなく、「身を捨ててこそ」の気概を持って戦ってくれたら、結果を超越した感動を覚えるものだ。こういう大一番は、見る者に勇気を与えてくれる。万が一でもチャンスはあるんだぞと。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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