◆「走る馬はみんなオレがボス」
例年この時期になると、必ずソワソワし始める関係者が美浦トレセンに出現する。1回小倉開催が直前に迫ってきたためだ。相沢キュウ舎の三尾一之助手など「実はボクは美浦アレルギー。小倉、北海道の出張が外せないんです」と言い切るほど。その“特異体質”の真偽はともかく、関係者にとって冬の小倉が夏の北海道と並ぶ人気スポットなのは確かだ。
ただ、そんな中で加藤和キュウ舎の加藤士津八助手が少々浮かぬ顔で自身の小倉行きを告げてきた。どちらかといえば出張好きのタイプ。一体どうしたかと聞いてみると…。
「実は滞在馬の中にかなり行儀の悪い馬がいるんです。馬場入り口でターンしたり、調教中にビタッと止まったり…。これまで馬場で落とされたことは数知れず。あまりに危ないので騎手に調教を頼むのが申し訳なく、ボクが行くことになったんですよ」
馬力という仕事率の単位があるように、馬のパワーは相当なもの。ゆえにそれを活用しようと、人は古くから馬とコミュニケーションを取る努力を重ねてきた。しかしいかに調教技術が進歩しようと、メンタルをコントロールしにくい暴れ馬はなお現存する。そのリスクを起源とするホースマンの危険性も何度か目の当たりにしているだけに…。結果の良否を問わず、まずはシヅヤの無事なる帰還を願いたい。
さて、今週のGIII東京新聞杯にも、実は“暴れ馬”もどきが出走する。香港マイル7着から仕切り直しを誓うダノンプラチナである。
「走る馬はみんなオレがボス、と思っているからねぇ。とにかく自分の思いを押し通そうとする我が強いんだ」
国枝栄調教師が語るように、デビュー当初から携わる人間に苦労をかけた馬である。坂路手前の壁に寄り付きテコでも動かなかった姿を、当方も何度か目撃している。
「今は徐々に言うことを聞くようにもなったけどね。実際その負けん気、エネルギーを実戦で出してくれさえすれば文句はないよ。ゴールドシップしかり、オルフェーヴルしかり。走ればみな個性派と呼ばれるんだから」
初の古馬GIタイトル奪取をもくろむ今年は、ダノンプラチナがニュー“個性派”を目指す元年でもある。まずはその第一歩に注目したい。(美浦の宴会野郎・山村隆司)