来春のダービーへ向けた戦いの火蓋は切られている/トレセン発秘話
◆新種牡馬の父の宣伝役に
記者の“宴会野郎”の呼称、実は先週をもって返上する気でいた。ひそかに予定していた新異名は“放蕩野郎”。まあ、あくまで本命にしたプロディガルサンが日本ダービーを制した場合であったから、10着という結果で夢のまた夢に消えたのは言うまでもない。さらに、当方の予想に乗って馬券を買ってくれた読者にも、今は平身低頭でわびるしかない。
それでも単勝万券(104倍)の馬を本命にするダービーは、おそらくこれが最初で最後。一瞬でも直線で夢を見せてくれた同馬と田辺裕信のコンビには感謝の念がいまだ強い。何せ競馬は完璧だったからだ。
「そうですよね。スタートを決めて位置を取りに行って、道中バッチリ折り合いもついた。ひっかかった青葉賞とは一転、こちらが稽古で描いた内容通りの走りでした。最後は、やっぱり距離…なのかもしれませんね。でも競馬は胸に染みました」
ようやく喧騒が収まりかけたレース終了後の検量室前、国枝厩舎の椎本英男助手と最初に交わした会話である。当日は(8)枠カラーに合わせてピンクのシルクハットを持参し、パドックで馬を引いた彼の表情も万感の思いがあふれていた。デビューからわずか1年。その限られた時間で、できたこと、できなかったこと…。そんなホースマンの喜び、興奮、無念が幾重にも交錯するがゆえ、ダービーは「競馬の祭典」たり得るのだろう。
さて、今週から中央競馬は再び新たな一歩を踏み出す。2歳新馬戦のスタートである。中でも注目は13年にイスラボニータ、昨年はロードクエストを出した3回東京開幕週の芝1600メートル戦(5日)だ。
「そうか、勝てば重賞タイトルが見える新馬戦なのか。よし、ウチは確率2倍だからな」
国枝栄調教師がこう言って送り出すのは、クロフネ産駒アンティノウスと、アイルハヴアナザー産駒マイネルズイーガー(ともに牡)。入厩こそ前者のほうが早かったが、後者はビッグレッドファームでビシビシと鍛えられた下地が強力だ。「ゲートもすぐに合格したし、前にスッと行けそうなタイプ。雰囲気はいいし、新種牡馬の父の宣伝役になってくれたら」とトレーナー。すでに来春のダービーへ向けた戦いの火ぶたは切られている。(美浦の宴会野郎・山村隆司)