“タヤスツヨシの恐怖”から開放されたグレンツェント/トレセン発秘話
◆放牧を挟んでまたパワーアップ
以前、松山康久元調教師を取材させていただいた際、強く印象に残った言葉がある。
「あれはジェニュインが勝った皐月賞の後だった。タヤスツヨシ(2着)の鞍上・小島貞博がつかつか近づいてきてニカッと笑って言ったんだ。“先生、おめでとう。でもダービーは負けへんで”。レースを勝ったばかりだってのに、喜びも吹き飛んでゾッとしたねぇ」
実際、同年の日本ダービーはタヤスツヨシが1馬身半差で皐月賞馬に完勝。見事に世代の頂点に立ったわけだが、こうした関係者の予感、直感は得てして当たることが多い。お手馬の感触に加えて「(人気の)コレは負かせるかもしれないが、抜け出した後、このへんの伏兵に来られそうなのが嫌だな」と話す騎手がまれにいるが、実際に分析通りの逆転負けを食らう例を目撃することも多々。いわゆる“悪い予感ほどよく当たる”というヤツだ。
実は今週のGIIIユニコーンSにおいても、忘れられないシーンが過去にあった。それは前哨戦となった青竜S(東京ダ1600メートル)。ハナ差で優勝をもぎ取ったグレンツェントの加藤征弘調教師が、レース後の検量室前でこう漏らしたのだ。
「直線よくしのいでくれたねぇ。順調に使っている強みが今回はしっかり生きたね。もっとも2着馬は今回が放牧明けだからな…次は怖い存在になってくると思う」
そしてその2着馬が今回も登録のある2勝馬アルーアキャロル。当然出走すれば、狙わずにいられない一頭だったのだが…。火曜(14日)午後に事態が急転。トモの疲れが抜け切れず出走回避となったのだから、運命は分からない。そこで再度、加藤征調教師を直撃してみると…。
「この時期の若駒はコンスタントに使うと着実な体力強化を見せるもの。グレンツェントもそう。前走からの上積みがどうかと思ったが、放牧を挟んでまたパワーアップしてきた。さすがに昨年勝ったノンコノユメほどの脚力はまだないけど、面白みは出てきたね」
“タヤスツヨシの再来”を恐れる必要がなくなった今、関東最有力馬であるのは間違いあるまい。(美浦の宴会野郎・山村隆司)