12月1日、「浦和記念」。唯一の3歳馬モエレトレジャーが楽々と逃げ切った。素晴らしいスタート。ゲートが開いたほんの一瞬で2馬身ほどもリードを奪い、そのままマイペースに持ち込んでいく。軽快なピッチ、それでいて抑制の利いた逃げ。少なくとも今日に関して言えば、どちらが古馬か分からない。
1000m通過63.2秒の超スロー。一団で追う後続がむしろ折り合いを欠いてゴチャつき、結果3歳馬に翻弄された。3角手前、ようやく外に持ち出したカイトヒルウインド、次いでトーシンブリザード。コアレスハンターは早くも手応えが怪しい。直線入口、モエレトレジャーにカイトヒルウインドが並びかけ、いったん一騎打ちの態勢を作ったが、そこでトレジャーがもうひと伸び。2頭の差が瞬時に開き、勝負あった。カイトヒルウインドは連対確保が精いっぱいで、ブリザードにも交わし切る脚がない。
浦和記念(サラ3歳以上 別定 交流G2 2000m良)
▲(1)モエレトレジャー (54・金子) 2分07秒1
◎(2)カイトヒルウインド (56・蛯名) 4
△(3)トーシンブリザード (58・内田博) 首
○(4)ウツミジョーダン (56・小林俊) 1
(5)ストロングゲット (56・石崎隆) 3
…………………
△(6)コアレスハンター (56・御神本)
△(9)ダンツフレーム (58・的場文)
モエレトレジャーは重賞4勝目、それも交流重賞制覇だから、もう地味な穴馬タイプとは言えなくなった。なるほどJCダートとの兼ね合いでJRA勢は1頭だったが、その相手との真っ向勝負に勝っている。当日440キロ。数字上の変動はないにしろ、パドックから大きく見せ、返し馬なども躍動感にあふれていた。父はダンチヒ直仔トレジャーアイランド。しかし母系のノーザンテーストがよく出たタイプか。重心の沈む走法、実戦向きの勝負根性。あらゆる局面で我慢がきく。次走が暮れの東京大賞典か、明けて川崎記念か、様子を見つつということらしい。いずれにせよ、選択肢を高く大きく広げられる、その域まで馬自身が成長している。
カイトヒルウインドは、返し馬から首を上げ物見が激しく、かなりストレスが大きい競馬だった。前2走プリサイスマシーン、ヒシアトラスを完封だから、交流重賞の王道を進む能力はあり、今日はひとつ経験と納得したい。トーシンブリザードは58キロも不利だったが、「彼は昔の彼ならず…」、そんな印象が正直強い。かつてのイメージは“鬼脚”。息切れのカイトヒルウインドを交わせないあたり、残念ながら交流重賞で再浮上は難しい。逆に岩手ウツミジョーダンは前半モタつきながら終いしぶとく伸びてきた。父トロットサンダーはともかく、手脚のスラリと伸びた長距離体型。できれば東京大賞典に臨んでほしい。コアレスハンターはパドックから気合など物足りず、さすがに旬を過ぎたと判断する。ダンツフレームはパドック、返し馬とも抜群の気合をみせたが、それで終了。宝塚記念制覇のビッグネームも、どうやら中身が伴わない。ごく普通には、やはり“棘の道”となりそうだ。
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ジャパンC・2着と激走したコスモバルクが、翌11月29日、大井競馬場出張馬房へ入厩。有馬記念へ向け調整を進めている。12月13日、大井で1週前追い切り、16日に美浦トレセンへ移動の予定。「(大井に)着いたばかりなのに、もうカイバを4升も食い込んでいる。環境の変化に動じない。本当に凄い馬だ」。田部調教師は、“超馬”という言葉でバルクを讃えた。輸送、調整の便宜を図った今回の大井滞在。地方競馬全体でバルクを支えているともいえるだろう。いい結果を期待したい。
その有馬記念は五十嵐冬樹騎手に手綱が戻る。ルメール騎乗のジャパンC。“待機策”の指示を受け、確かに道中の折り合いなど今までになくスムーズだったが、こと負け方自体は、バルクの本質的な死角が出たものとやはり思う。皐月賞、菊花賞と同様、相手の切れ味に勝負の一瞬で遅れをとった。最後までバテない。根性を振り絞る。しかし結果は「負けて強し…」で終わってしまった。
「追うことに関してはむしろ五十嵐が上かもしれない。あとはレース運びでしょう」。そう岡田繁幸氏は語ったという。五十嵐騎手には、再び“細心かつ大胆”が要求される。あくまで個人的な見解だが、記者が思うバルクのベストレース。肉を斬らせて骨を断つ、そういう戦法。自ら逃げるか、あるいはまくりか、思い切ったロングスパートで相手に脚を使わせたい。かつてのミホノブルボンによく似たイメージ。「サプライズ」の04年。最後の最後で地方馬(所属馬)初のグランプリホース、その誕生なるかどうか。いよいよ背水の陣だ。
※コスモバルクは、12月10日(金)大井競馬5日目、最終レース終了後(16時20分)、皐月賞時18番のゼッケンをつけてパドックを周回、ファンにお披露目される。一緒に田部和則調教師のご挨拶もあるとのこと。