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師走の牝馬決戦

  • 2004年12月13日(月) 19時06分
クイーン賞(12月15日船橋 3歳上牝馬 別定 交流G3 1800m)

◎ジーナフォンテン  (56・張田)
○プルザトリガー   (54・内田博)
▲グラッブユアハート (55・安藤勝)
△レマーズガール   (56・武豊)
△トーセンジョウオー (54・蛯名)
△ハイフレンドトーレ (54・村上忍)
△ホウザングラマー  (54・的場文)

 一見地方びいきの予想になったが、記者本人とすると特にヒイキのつもりもない。ジーナフォンテンは、やはり南関東の水が合うこと。アタリのいい張田騎手が乗ってナンボであること。JRA・4頭、無論それなりに強力だが、例えばレマーズガールはここにきておよそ器の限界が見えてきたし、好敵手グラッブユアハートも線が細く、安藤勝己騎手、常にその腕頼りという面がある。3歳トーセンジョウオー、クリスタルヴィオレでは、当然オークス勝ちの前者上位だが、現状で古馬粉砕、突き抜けるだけの迫力はイメージしにくい。

 ジーナフォンテン。今季JRA移籍の経緯は不明だが、結果として失敗だった。チグハグな折り合いで持ち味半減。それでも前走古巣の川崎スパーキングレディーCでは見せ場があり、中間牧場でリフレッシュを図った後、船橋へ再転入した。「担当厩務員さんに手が戻ったわけですからね。馬がリラックスして、仕上がりは文句ない」(熊坂調教師)。昨年G2エンプレス杯制覇は、相手がネームヴァリューだけに価値がある。前半うまくセーブして3〜4コーナー一気のまくり。年齢こそ6歳だが、地方デビュー馬(上山)としてはキャリア27戦、衰え云々の状況とも思えない。

 プルザトリガーは重賞2連勝。驚異の上がり馬と言ってよく、とりわけ前走TCKディスタフ、出遅れを直線だけで差し切った瞬発力には息をのんだ。条件馬時代が長く、どうしても本命をつけづらいタイプだが、今回ホームの利に加え、斤量差も味方する。JRA馬は、上昇度、鞍上の乗りやすさなど、総合的にみて、グラッブ、レマーズ、トーセンの順とした。一角崩しは岩手・ハイフレンドトーレ。前走大井は出遅れて6着ながら、プルザトリガーとほぼ同じ上がり38秒6をマークした。左回り盛岡で良積があるだけに、もつれて怖い。

     ☆     ☆     ☆

 1週遅れになるが、阪神「ワールドスーパージョッキーシリーズ」のこと。大井・内田博幸騎手は、対象3レースを、8、1、5着。最終戦「GブーツT」騎乗馬取り消しの不運で第3位に終わったが、実質優勝に近い(計算上は9着以内で第1位)健闘だった。土、日曜日、他のレースも含めると15戦3勝、2着2回。「最後まであきらめない、自分のスタイルを見てもらえてよかった。またここに来れるよう頑張ります」。取って返した翌日大井競馬で1勝を積み上げ、04年、計362勝(12月9日現在)。南関東リーディングJもほぼ確定的になった。

 内田博幸のどこが巧いか。南関東で毎日接している記者など、かえって見えにくくなってしまうのだが、このシリーズで逆に改めてわかった気がする。ギリギリまで我慢すること。追い出しのタイミングが絶妙なこと。例えば土曜日の「GホイップT」、ヘヴンリーロマンス(4番人気)の差し切り。中団よりやや後ろで折り合い、3コーナー外々を馬の行く気に合わせてスパートした。だからいい脚が長く続く。“静”から“動”へ。その呼吸が素晴らしい。彼が南関東で乗るとき、走らない馬を何とか動かす、正直そんなケースの方が多いだろう。しかし今回のような晴れ舞台、反応のいい馬に跨り、高速の芝コースで一転脚をタメる技術を要求される。それができる。安藤勝己を筆頭に、小牧太、岩田康成、むろん石崎隆之。地方トップJは豊富な経験が何より強みだ。

 内田博幸は、これでJRA通算15勝。「年間20勝・2年以上」のJRA規定(一次試験免除)は微妙だが、本人のコメント「まず大井(南関東)No.1になってから…」である以上、真意と夢が掴みづらい。恐らく様々な気遣い、そして遠慮もあるのだろう。ここ数年ひととき沸騰を感じさせ、しかし何人かのJRA移籍で逆に立ち消えてしまったジョッキーの「全国免許」。理不尽というしかない。腕に自身がある騎手が、なぜそのステッキをごく自然に、思いのまま振るえないか。これはプロスポーツの原点ともいうべきことだ。

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 「12月10日・大井競馬開催中止」は、やはり寝耳に水の出来事だった。競走馬のカイバに混ぜる“ミネラル塩”に、禁止薬物であるカフェイン、及びテオブロミンが含まれていたということ。記者自身、専門知識もなく、聞いた当座は驚いたが、一夜明けると、このミネラル塩は他南関東3場、さらにJRA美浦でも使用されていると報道された。公営競技の性質上、慎重になるのは仕方ない。しかし感覚的にはうんざりする。ミネラル塩の効力がはたしてどれほどのものなのか。いずれにせよ、競馬が“社会面”に載るときは、だいたい冷たい視点で扱われ、そればかりか妙な誤解を世間に与える。

 「大井競馬から波及」「JRA馬は薬物検査すべてシロ」。翌土曜日、某スポーツ紙の見出しには、しばしア然、そして何ともやるせない気持ちになった。大井競馬サイドは事実が判明、時間の余裕(生体検査)がなかったため、やむなく開催中止に踏み切った。対してJRAは発覚後1日猶予が与えられ、結果無事というだけの話だろう。ごく普通のファンが見出しだけ読んだとする。JRAはシロ、地方はクロ…。苦渋の決断(英断)をしたはずの大井が、逆にイメージダウンになってしまう。「やっぱり草(地方競馬)はイイカゲンだ…」などと。

 当日予定されていたコスモバルクのお披露目、田部調教師の挨拶も中止になった。馬自身には余計な仕事が減ったわけだが、記者も含めファンにとってはやはり残念しごくだった。そのバルク、万全を期すとのことで、急きょ尿採取などの生体検査。「すっきりした気持ちで臨みたいから」と田部調教師。“ゲン直し”をしたい気持ちはわかる。

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日刊競馬地方版デスク、スカイパーフェクТV解説者、「ハロン」などで活躍。 恥を恐れぬ勇気、偶然を愛する心…を予想のモットーにする。

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