重賞勝ち馬ビービーバーレル 中舘師の大胆なチャレンジに大注目だ/トレセン発秘話
◆中舘師「過去に固執せずすべてを変えてみる」
アパパネの初子として注目を集めたモクレレが、先週東京でようやくデビューを果たした。いい格好で回ってきた割に伸び切れず6着(2番人気)。それでも頑固な気性で坂路主体を余儀なくされた過程を思えば、素質の一端は見せた形だ。
「ビッシリできなかったからまあ仕方ない。それでも返し馬から競馬までの経過は、これまでのどの稽古よりスムーズだった。これで競馬が分かってくれば、馬も変わってくるんじゃないか。プロディガルサンと同じで、まだ緩くて素質だけで走っている段階。焦らず進めていけばいいよ」
国枝栄調教師の言葉を借りれば、時期が来るまで待つのも調教。実際、東京新聞杯でプロディガルサン(2着)が記録した上がり3ハロンは驚異の32秒0。トモの緩さを課題とした3歳時を思えば、確かな成長がその数字に刻まれている。一流トレーナーには風林火山の精神が求められるのかもしれない。モクレレもトラック調教を本格的に始めた時が本当のスタートだろう。
さて、今週東京にも調教パターンを鮮明に変えた馬がスタンバイする。日曜(12日)の古馬オープン・バレンタインS(ダ1400メートル)に出走予定のビービーバーレルだ。こちらはモクレレと真逆。トラック一本やりの調教に中間から突如、坂路追いを加えてきた。気になる真意を中舘英二調教師に聞くと…。
「これまでチップの動き自体に何ら不満はない。むしろホレボレするほど。ただ、実戦にまるでつながらない。エンジンがかからず終わった前走(ポルックスS12着)を見て悟ったんだ。これは思い切った変革が必要だって」
いわゆる一本道の坂路は、サラブレッドの前進気勢を促す“自然のブリンカー”。距離カテゴリーから言えば、長距離より短距離型に好んで用いられる調教コースだ。9ハロン前後の距離を主戦場としてきた同馬にとって、すなわち今回はモデルチェンジを求めた変革でもある。
「中距離で先行力を生かしてきたが、もともとが短距離系の血統。中間から付きっきりで手綱を取ってきた松岡には、前に行かない競馬をリクエスト。今回は過去に固執せずすべてを変えてみるよ。そのへんがうまくかみ合えばだね」
モクレレに対する国枝師が“林”や“山”なら、ビービーバーレルに対する中舘師の姿勢は“風”や“火”のごとし。最終的な印の序列は追い切り後に決めるつもりだが、重賞V馬に対するこの大胆なチャレンジには大いに注目している。(美浦の宴会野郎・山村隆司)