今回のゲストは乗馬経験ゼロという状態で競馬学校に入学した新人・富田暁騎手です
今回のゲストは、新人・富田暁騎手です。高校を中退し、乗馬経験ゼロという状態で競馬学校に入学。学校生時代は、乗馬経験者である同期たちに押されながらも、今では同期トップタイの3勝をマークし、注目度が高まっています。第1回目となる今回は、ここまでの3勝を振り返りながら、富田騎手のスタンスに迫ります!
(取材・文/森カオル)
「おめでとう」を言える心境ではなかったけど
──4月22日の初勝利から、約1カ月で同期トップタイの3勝。ここにきて、週を追うごとに存在感が増している印象です。
富田 ありがとうございます!
──さっそく、ここまでの3勝を振り返っていきたいと思っているのですが、記念すべき初勝利となったのがユキノタイガ。強気な競馬が光りました。
富田 3回目の騎乗だったんですが、最初に乗ったときは少し仕掛けが早かったかなと思い(7着)、2戦目は後ろから行ってみたんですけど、結果的に馬の持ち味を生かせずに終わってしまって(6着)。先行力があるのはわかったので、3戦目は追い出しのタイミングに気を付けながら、積極的な競馬をしようと思っていました。
積極的な競馬で記念すべき初勝利を挙げたユキノタイガ騎乗の富田暁騎手(C)netkeiba
──確かに、ゲートを積極的に出して行き、最後は馬場の真ん中からグイグイ伸びてくるという力強い勝利でしたね。
富田 ゲートはたまたま噛み合ったんですけど、直線は必死になりすぎて、フォームがもう…(苦笑)。反省ばっかりです。あのレースは、なんというのかフッと力が抜けた感じで、自分の思った通りに乗れたというか、いい形で運べたんですよね。それまでは、なかなか勝てないことで僕自身が焦っていたので。
──同じ栗東所属の川又騎手の初勝利(3月11日)が早かったですものね。
富田 そうなんですよね。だから余計に焦りが出てしまって。実は、川又が初勝利を挙げたレースは、僕もけっこう自信があったレースで(スズカコーズライン3番人気4着)。
──ああ、川又騎手もそんなお話をされていました。「富田くんが勝つと思っていた」と。
富田 レース前、ふたりでそんな話をしていたんです。「ちょっと俺が先に(初勝利を)もらうわ」なんて偉そうなことを言ってたんですけど、終わってみれば「お前かい!」みたいな(笑)。まぁ川又の馬も人気だったんですけどね。
──それでも、向正面で富田騎手に「おめでとう」と言ってもらえたことが嬉しかったみたいですよ。
富田 すごく悔しかったんですけどね…。なんで「おめでとう」と言えたのか、自分でもよくわからないです。とてもそんな心境ではなかったので(苦笑)。ただ、ここは言うべきだという思いがどこかにあって。
──これぞスポーツマンシップですね。続いては、2勝目のチェリーボンボン(5月13日・京都1R・3歳未勝利)ですが、この馬も前走(3着)で好位からの競馬を試みて、それを次走で結果につなげたレースでしたね。
富田 はい。福島で最初に乗ったときはゲートであおってしまって、後ろからの競馬になってしまったんです。ただ、大外から6着まできてくれたので、ああ、こんな脚があるんだなということがわかって。2戦目は、中間で十分にゲート練習をして、レースでもいいポジションを取れて3着にきてくれたので、チャンスは近いなと感じていました。
──で、3戦目は好位から4角先頭の競馬で。
富田 ちょっと仕掛けが早すぎたかなとも思ったんですが、馬場も悪かったので思い切っていくことにしました。女の子なので、なるべく調教もやりすぎないようになど、厩務員さんとしっかりコミュニケーションを取りながら勝てたレースだったので、すごくうれしかったです。
──3勝目のテイエムジョウネツは、アッと驚く13番人気での勝利でした。このレースも、後方から道中で一気に好位に取り付く強気な競馬でしたね。
富田 京都は走ることがわかっていたので、坂を利用しました。でも、ゲートを出た瞬間、周りが速くて自分は早々に引いてしまったので、内心焦っていたんです。「これは怒られるな…」と思いながら乗っていたんですけど(苦笑)、ペースダウンしたちょうどいいタイミングで前に取り付けたので。手応えも良かったし、うまくいきました。
──この勝利も、その前2走の反省を踏まえた価値ある1勝だったのでは?
富田 ん〜、僕にとってはそうですが、初めて乗ったレースでは1コーナーで引っ掛かり、2戦目は内で詰まってあまり追えなかったので、馬に申し訳ないというか、反省点ばかりです。それに、その前のレースで1番人気で負けてしまって、気持ち的に若干沈んでいたなかでのレースでした。
──ああ、5R・3歳500万のスズカコーズライン(7着)ですね。デビュー以来、初めての1番人気で。
富田 そうなんです。ちょっと気負ってしまって、それが馬に伝わってしまいました。テイエムジョウネツはその直後のレースだったので、正直、気持ちを切り替えるのが難しかったです。ただ、以前に騎乗されていた四位さんや竹之下さんのレースを見て、こういう形が一番この馬に合うんじゃないかと思っていたので、とにかくこの馬の競馬をしようと思っていました。1400mでも走っていた馬ですが、ゲートがあまり速くないので、1800mならという思いもありましたね。
──ここまでの3勝は、偶然にも3頭ともコンビを組んで3戦目の勝利で。ご自身としては当然、初戦から勝ちたかったと思いますが、レースぶりやコメントを拝見していると、手応えや反省点を含め、前走、前々走で得たものをきちんと結果に結びつけた、そんな印象を受けました。決して「あ、勝っちゃった」というレースではないなと。
富田 毎回勝てるのが一番ですが、1回1回、きちんとその馬を感じて乗ろうということは、最初からかなり意識しているつもりです。もちろん、まだ全然できていないんですが、少しずつでもその馬の特徴を掴もうと、僕なりに必死です。
少しずつでもその馬の特徴を掴もうと、僕なりに必死です
(次回へつづく)