ベンテンコゾウを管理する菅原勲調教師
調教師として充実している菅原勲調教師
赤見:管理するベンテンコゾウが門別の二冠(北斗盃、北海優駿)を達成しました。どちらも強いレースでしたね。
菅原:思っていた以上にがんばってくれましたね。北斗盃はもしかしたら勝てるかなと思っていたんですけど、ダービー(北海優駿)は2000mなので、距離的に長いかなと思っていたんです。そうしたら、雨が降っていい形で馬場が軽くなって。その分が2000mを短くしてくれた感じですね。ベストはマイルくらいだと思っています。
道営2冠を達成したベンテンコゾウ(撮影:田中哲実)
赤見:サウスヴィグラス産駒ですもんね。でも2000mもこなして、長距離輸送も2回連続でしたが、それで結果を出すんですからすごい馬ですね。
菅原:実はけっこう輸送が悪くて、1頭で積んでいかないとダメなんですよ。何にもないと大人しいんですけど、他の馬が近くで暴れるとその馬以上に暴れるんです。調教はしやすいですけどね。引っ掛かるところもないですし、レースもしやすいと思いますよ。
赤見:今後はもちろん?
菅原:三冠目の王冠賞(7月27日)へ行きます。今順調に調教できていますし、勝てたらすごいですよね。ボーナスが始まってから、三冠獲った馬はまだいないそうなので。
赤見:ボーナス2000万円は大きいですよね!ただ、今までなら、『だったら道営に入れよう』という感じだったと思うんですけど、より広がりを感じます。
菅原:これは馬主さんの意向だったので。ダービーは地元にもありますけど、道営に若馬を連れて挑戦するってなかなかないですよね。逆はありますけど。やっぱり道営は強いですから、そこで結果を出すというのは嬉しいです。地元の方がどう考えているかはわからないですけど、オーナーが道営にもけっこう入れていて、道営でもダービーを獲ってみたいというのが一番の想いですね。岩手のダービーは勝っているので。
赤見:三冠の可能性は、大いにあり?
菅原:あると思います。今回は距離が1800mですし、課題があんまりない馬なんですよ。強いて言えば、ちょっとゲートの入りが良くないんですけど、前は中が悪かったんですよ。だから輸送とかも、閉じ込められるのが嫌だったみたいで。車に乗ってすぐは入れ込みが激しくて、厩務員さんは大変だと思います。落ち着いてしまえばいいんですけどね。
赤見:ラブバレットもいるし、こういう若馬もいるし、調教師としても充実してますね。
菅原:有り難いことに、とても楽しいですね。その中でもラブバレットの存在は大きいです。騎手時代たくさんいい馬に乗せてもらいましたけど、だからといって調教師でもすぐにいい馬をっていうわけではないじゃないですか。でも、調教師として初めて2歳を入れた馬がこの馬だったんですよ。調教師になって北海道へ見に行って、一番最初に「この馬がいい」と思ったのがラブバレットなんです。
赤見:さすがですね。
菅原:走るとは思いましたけど、まさかここまで走るとは思わなかったです(笑)。
赤見:何が良かったんですか?
菅原:目で訴えるんですよ。「俺を買え」って。
赤見:え〜!本当のこと言ってくださいよ!!
菅原:よく、そういうこというと、「何冗談言ってんの?」ってとられるけど、セリとか行ってもそういうのあるんですよ。勘で。ラブバレットは売れなくて、脚をケガして牧場にいたんです。その時は脚が腫れていたんですけど、ケガだから治りますから。
赤見:で、目で訴えてたんですか?
菅原:そうそう。「俺を買うとお買い得だよ」って。実際高くなかったし。それで、けっこう稼いでくれましたよね。3歳の夏に3か所くらい膝を骨折したんです。これは復帰は厳しいかなと思ったら、逆にその休養で体が成長してくれて。そこからはいろいろなところに遠征に行ったり、ダートグレードでもいいところを見せてくれたり。僕のことを信じて買ってくれたオーナーに感謝ですし、がんばってくれているラブバレットにも本当に感謝しています。
赤見:今後の予定というのは?
菅原:去年とだいたい同じローテーションを考えています。地元でクラスターまで使って。クラスターは2年連続3着にがんばってくれていますから、今年も期待しています。その後は浦和へ行く予定で、秋は笠松グランプリ3連覇が目標です。
今後はクラスターCを使う予定(写真は2016年6月1日・さきたま杯出走時、撮影:武田明彦)
赤見:ちなみに、ベンテンコゾウも菅原調教師が選んだんですか?
菅原:この子も選ばせてもらいました。何がいいって聞かれると困るんですけど、感覚なんですよ。だってね、みんながいいっていう馬は、血統もいいし体のバランスもいいわけでしょ。そうしたら高いんですよ。みんながいいっていう、1000万2000万円クラスの馬を賞金で回収するとなったら、地方ではなかなか難しいですから。ちょっと脚が曲がっていても、これなら走れる、持たせることができる、というのを見極めて安く買わないと。極端に曲がっていたら無理ですけど、欠点のある馬をいかに育てるかが問われていると思っています。
赤見:掘り出し物っていうわけですね。でもそういう馬を見つけて安く競り落とすのは相当難しいと思うんですけど。
菅原:ラッキーに買える時があるんですよ。たまたまみんながいなかったり、休憩してたり。僕は血統はあまり気にしてないです。そこ気にしていたら買えないですから。ラブバレットは父ノボジャックで派手な血統ではないですけど、ノボジャックの子はけっこう走ってるんですよね。血統より馬重視で選んでいますが、こればっかりは確実な正解がないんですよ。みんながいいって言っても走るとは限らないですから。
赤見:騎手としても一流で、調教師としても全国で活躍する馬を育てるとは…。改めて、すごい方ですね。
菅原:僕ですか?!いやいや、全然すごくはないですよ。騎手の時に、トウケイニセイやメイセイオペラといったすごい馬たちに乗せてもらって、運よく勝たせてもらって。本当にたくさんのことを教えてもらいました。その経験があるからこそ、調教師としてももっともっとがんばらなくちゃいけないと思っています。これまで乗せてもらった馬たちを超える馬を育てたいです。
赤見:メイセイオペラといえば、7月1日に水沢競馬場で記念碑除幕セレモニーが行われましたね。
菅原:嬉しかったですね。ファンの方々がお金を出し合ってできたものなので、すごく感謝しています。ファンの皆さんにも感謝してますし、メイセイオペラにも感謝しています。オペラは本当に愛されていたんだなって、改めて感じることができました。
赤見:菅原調教師にとってどんな馬ですか?
菅原:メイセイオペラと共に、自分も一緒に全国に名前を知ってもらえるようになったので。感謝しかないです。素直ですごく乗りやすい馬ですし。誰でも簡単に乗れると思いますよ。ペースが速くても遅くてもいいし、逃げてもいいし先行でもいいし。レースがしやすいんです。
その前にトウケイニセイという馬に、馬を信じて乗るということを教えてもらったんです。その後にメイセイオペラと出会ったので、大舞台でも冷静に乗れたと思います。
赤見:一番思い出深いレースを上げるとしたら?
菅原:嬉しかったのはやっぱりフェブラリーSですね。ただ、何が一番思い出深いって言ったら、一番最初の川崎記念です。4着に負けたんですけど、こんなに走る馬でも、それ以上に強い馬が全国にいるんだなということを感じました。アブクマポーロに並ぶ間もなく交わされた時には、もっともっと強くならなくちゃいけないと。そこからもう一段階強くなってくれたんです。
フェブラリーSの時にはかなり完成されていました。人気になってましたけど、緊張はしなかったです。馬の状態も良くて、楽しみの方が大きかったですね。先頭に立って、ゴール200mのところで「あ、勝てる」と思ったら急に緊張して(笑)。直線向くまでは手ごたえが良くて、「いい感じだな〜」と思っていたんですけど。「勝てる」って思ってから、そこから急にゴールが遠く感じました。
赤見:ゴールして、伝説の勲コールですよ。
菅原:まさかあんなコールが起こると思わなかったので、びっくりしましたし、すごく嬉しかったです。勝つことは想像していても、あんな風にコールが起こるなんて想像してないですから。本当に嬉しかったですね。
赤見:そして、18年の時を経て、水沢競馬場で勲コール再びでした!
菅原:メイセイオペラのグッズオークションの時の?それは、僕が隠れてたら呼ばれただけだから(笑)。でも、今でもあのフェブラリーSを見た人はそういう場面を覚えているし、ちょっと恥ずかしいけれど(笑)、嬉しかったです。
赤見:改めて、みんなで作った記念碑、いかがですか?
ファンの方々の力でできた記念碑
菅原:メイセイオペラの何かはあって欲しいと思っていたけれど、それを具体的に形にすることができなかったんです。それを井上オークスさんとかいろいろな人たちの協力で始まって、ファンの方々の力でできたので、結果的にでき方としては最高かなと。みなさんそれぞれの想いを持っていてくれたし、一番いいでき方だったんじゃないですかね。たくさんのファンのみなさんに感謝しています。本当にありがとうございました!