武藤雅騎手が技術を学んだ乗馬クラブで得たものとは?
前回のコラムで「父の厩舎で早く勝ちたい」と宣言していた武藤騎手。先週末の19日(土)、有言実行でやってくれました! 武藤厩舎の管理馬ノーブルバルカンで新潟の新馬戦を勝利。11番人気での快勝でした。今週はそんな武藤騎手のデビュー前の話に遡ります。全日本高等学校馬術選手権大会・準優勝という経歴を持つ武藤騎手。乗馬の技術を身につけたのは、小牧太騎手の長男・加矢太さんも所属してる乗馬クラブ。厳しいと評判のクラブで得たものとは?
(取材・文/森カオル)
高校に行った1年は、技術的にも人間的にも成長できた大事な時間
──デビュー前のお話をうかがっていきたいんですが、中学1年生のときに乗馬を始められたそうですね。
武藤 はい。それまではずっとサッカー選手になりたくて、本当にサッカーに夢中だったので、ジョッキーになりたいという気持ちは全然なかったんです。自分でやってみたいと思って乗馬を始めたんですが、それでも最初はジョッキーになりたいという気持ちはあまりなくて。
──それが何かをきっかけに変わっていったと。
武藤 きっかけは、父の仕事に付いていくようになったことですね。サッカーをやっていた頃は、父の仕事をまったく見ていなかったので。乗馬を始めてから、トレセンや競馬場に連れて行ってもらうようになって、初めて競馬がどういうものかを知りました。そうやっていろいろ知っていくうちに、馬に乗ることの楽しさも徐々にわかってきて。
──厳しいと評判の北総乗馬クラブのご出身ですよね。
武藤 はい。父を通じて、競馬学校の教官が紹介してくださったんですが、それはもう厳しかったです(苦笑)。
──二度のオリンピック出場経験をお持ちの林忠義さんがやっていらっしゃる乗馬クラブで、現在、馬術の世界でご活躍の小牧太騎手のご長男・加矢太さんも、そこに所属していらっしゃるんですよね。
武藤 そうです。僕は、オリンピック選手の方がいるクラブだなんてまったく知らずに入って、あとから「すごいところにきちゃったな」って気づいた感じです(笑)。乗馬の大会でいろいろなところに行きましたが、林忠義さんはどこに行っても選手たちの憧れの的で。自分はすごい人に教えてもらっているんだなと、試合のたびに実感しましたね。
──武藤騎手も、全日本高等学校馬術選手権大会で準優勝という輝かしい経歴をお持ちですよね。
武藤 すごくいい思い出ですね。競馬学校の試験に落ちてしまったことで高校に行ったんですが、技術的にも人間的にも成長できた1年だったと思っています。乗馬の大会を通じていろんな出会いがあり、視野が広がりました。今振り返ってみても、自分にとってあの1年は大事な時間でしたね。
自分にとってあの1年は大事な時間でしたね
──そのまま馬術の世界に行こうというお気持ちはなかったんですか?
武藤 それはなかったです。乗馬が好きなのは今でも変わらないんですけど、やっぱり父の姿を見て、馬に乗るようになって、自分はジョッキーになるべくして生まれてきたのかなって思うようになったんです。どんな有名人でも、10万人の前でパフォーマンスをする機会ってなかなかないじゃないですか。でも、競馬は違う。自分もいつか、あの大歓声のなかでGIを勝ちたいという気持ちがどんどん強くなっていったので、騎手になりたいという気持ちは揺るぎませんでした。
──ちなみに、今でもときどき北総乗馬クラブに乗りに行っているとか。
武藤 はい。時間を見つけては、馬に乗りに行ってます。馬に乗ることが好きなのはもちろんですが、あそこに行くと、なんか原点に戻れるというか。僕にとっては、そういう場所なんです。
──これからの長いジョッキー生活を考えても、初心に帰れる場所があるというのはすごくいいですね。二度目の試験に合格されて、第33期生として競馬学校に入学。競馬学校時代は楽しい時間でしたか? 苦しい時間でしたか?
武藤 僕にとっては楽しい時間でした。同期も本当に仲が良くて、1年の頃からバカばっかりやってました(笑)。本当に楽しかったです。
同期も本当に仲が良くて、1年の頃からバカばっかりやってました(笑)(写真は新人騎手ムチ贈呈式でのもの 撮影:佐々木 祥恵)
──北総効果か、成績は相当に良かったそうですね。
武藤 乗馬の技術に関しては、それこそ北総で叩き込まれていましたからね。でも、走路での騎乗となると、また1からのスタート。同期は本当に優秀だったので、負けていられないという気持ちを持ちながら、最後まで切磋琢磨できたと思います。
──以前、富田騎手にもこのコーナーに出ていただいたんですが、「本当にみんなレベルが高くて、すごく悔しかった」とおっしゃっていました。
武藤 暁は乗馬初心者でしたからね。でも、本当に根性があって、すごいなと思ってずっと見ていました。自分が初心者で競馬学校に入ったら、経験のある同期に対して、あんなに食らい付いていけなかったと思います。最後はホント、追い越されるくらいの勢いでしたからね。暁は本当にすごいです。
(次回へつづく)