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痺れる強さ

  • 2005年04月25日(月) 13時27分
 “痺れる強さ”とでもいうのだろうか。皐月賞のディープインパクト。「走っているというより飛んでいる感じ」、そう武豊騎手は表現した。なるほど4コーナー、さあ行こうという左ステッキ。直線を向いた同馬は、それこそ空中を切り裂く勢いで伸びている。ただ1頭だけに与えられた最高速のグリーンベルト。差し切るとか、追い込むとか、そんな言葉とは一つ次元が違ってみえた。

 父サンデー、最後の傑作――とはむろんここでいうまでもない。卓越した切れとセンス。一戦ごとの成長力。ただこの馬への驚きは、それだけでもない気がする。440キロ台の馬体に潜む、説明のつかない生命力。とんでもない強さ、ものすごい強さというなら、昨今JRAには何頭もそんな馬が登場した。おおむね大型馬。古くはトウショウボーイ、そしてナリタブライアン、最近ならキングカメハメハ。しかしディープインパクトは印象が大きく違う。GOサインとともにレースができる。痛快を通り越した躍動感と瞬発力。無敗の皐月賞馬、ルドルフ、アグネスタキオンと比べても異質の強さだ。

 池江泰郎調教師のコメントが面白かった。小柄な馬体を聞かれ、「相撲取りやないんやから関係ないやろ」と答え、前走弥生賞、直線左手前を変えなかったことについては、「そら人間かて、荷物持って疲れたら持ち替える。馬(ディープインパクト)が疲れてへんのやろ…」、微笑を浮かべそう応じた。長い経験の中で、いよいよ本物に出会った充足感。馬に対する自信と信頼感が透けてみえた。ディープインパクト。金子真人オーナーは、つくづくいい名前をつけたと思う。

 もう一つ、人間の眼はごまかせない、そんなことも痛感した。金曜前売り1.0倍。いくらなんでも…と思えた単勝オッズが、当日午前いったん1.5倍まで上がり、しかし再び数字を下げた。過去のデータ。弥生賞を辛勝した(コンマ0秒差以内)馬は、過去ことごとく負けているという事実があり、例えばメジロライアン、イブキマイカグラ、エイシンチャンプ…、少なくとも過大な人気には推されていない。それが結局1.3倍。弥生賞、アドマイヤジャパンにつけた“首差の永遠”。たかが首差、されど首差というべきか。人間の眼はフシ穴のようでフシ穴でないこと。ディープインパクトは、ファンの印象と期待に全身を使って応えてみせた。

 「地方競馬日記」らしくない話で申しわけない。先週と今週、南関東は重賞レースがお休みで、皐月賞所感を書かせていただいた。ともあれ競走馬には生産の波とリズムが存在し、JRA=地方、名馬の出現が連動する。例えばミスターシービーの年にはサンオーイが登場し、シンボリルドルフの年にはロッキータイガーが対峙した。今年はもちろんシーチャリオット。5戦4勝、昨暮れ全日本2歳優駿で土がついたが、以後の充実からは歴史的名馬誕生の予感すらある。5月11日、大井「羽田盃」が何とも楽しみ。単オッズは1.1倍つくのかどうか。わかりやすい、わかりやすすぎるけれど、馬券を超えて痺れる競馬を今年は見たい。

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日刊競馬地方版デスク、スカイパーフェクТV解説者、「ハロン」などで活躍。 恥を恐れぬ勇気、偶然を愛する心…を予想のモットーにする。

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