7月13日、大井「ジャパンダートダービー」。単オッズ1.1倍、カネヒキリはそれにふさわしい強さだった。前走ユニコーンS同様、ふわっとしたスタート。しかしそこからの二の脚、加速力が何とも凄い。鞍上は馬にまかせた自然流。向正面早くも3番手、メイプルエイトの外に並んでいく。エンジン、排気量がまるで違う、最高級車の走りだろうか。アクセルを踏み込むまでもなく、直線入口で先頭に立ってしまった。ダート版ディープインパクト――走路が砂だけに鮮烈さは一歩譲るが、他馬と別次元の“Vロード”を駆け抜けた点で印象がダブってくる。2000m・2分04秒9。昨年カフェオリンポス04秒5だから時計的には水準程度。が、パフォーマンスの鮮やかさとすると、そんな数字はとるに足らない。「カネヒキリの怪物度を計る一戦」、記者は前週そう書いた。今は80%くらい脱帽という気分である。予測以上、思惑以上にその怪物度は高かった。
ジャパンダートダービー(サラ3歳 定量 交流GI 2000m良)
◎(1)カネヒキリ (56・武豊) 2分04秒9
○(2)メイプルエイト (56・張田) 4
△(3)ボンネビルレコード(56・的場文) 1・1/2
△(4)ブラウンコマンダー(56・左海) 頭
▲(5)ドンクール (56・熊沢) 鼻
…………………………
(6)プライドキム (56・池添)
(7)コンゴウリキシオー(56・藤田)
△(8)アグネスジェダイ (56・小牧太)
△(13)マズルブラスト (56・内田博)
単110円 馬複970円 馬単1060円
3連複14030円 3連単32340円
シーチャリオットの幻影。タラレバを断って書けば、直線あと1ハロン、カネヒキリの1馬身後ろに迫っていたイメージだろう。そこから追い比べで勝ったか負けたか。完成度の高い相手である。捕えきるのは正直骨だが、3着以下がさらにちぎれ、時計が大きく詰まったことは間違いない。いずれにせよ、濃密で緊張感あふれる名勝負が期待できた。繰り返すがもちろんタラレバ。ただ、カネヒキリはこのあと9月「ダービーグランプリ(盛岡)」が目標と明言され、チャリオットの始動(最速10月)は少し遅れる。3歳馬同士、2強対決は既に可能性が消えてしまった。今後は古馬を交えた「東京大賞典」が初顔合わせか。タイムパラドックス、アジュディミツオー…。確かに豪華だが、見どころ、焦点が分散する分、少し惜しい気がしないでもない。
メイプルエイトは健闘だった。当日2キロ増。押せ押せで使われながら、心身ともきわめてタフで逞しい。自身東京ダービーから時計を0.4秒詰め、直線差し返したレースぶりも合格点以上がつく。ドンクール、アグネスジェダイ、そのレベルならホームの利で何とかなること。まだまだ成長力を秘めるカコイーシーズ産駒。コンサートボーイ、エスプリシーズ、それに続けるだけの基礎体力はあるだろう。
先行したアグネスジェダイ、マズルブラストの失速は、1000m通過61.2秒のハイペース。しかもカネヒキリが早めに動く展開では仕方ない結果といえる。勝ちを意識して強気に乗ったドンクール、逆に自分の競馬で上位を狙ったボンネビルレコード、ブラウンコマンダー。このあたりも勝負のアヤというしかあるまい。ともあれ南関馬の2、3、4着。最後の最後、地方勢に少なからず勇気を与える材料にはなったと思う。あきらめないこと。チャレンジすること。できればこの3頭、岩手「ダービーグランプリ」で、アウェーの戦いをみてみたい。
☆ ☆ ☆
2歳馬情報。6月10日大井からスタート、4場所計19レースを消化(7月15日現在)した南関東2歳戦だが、頭数がそろわないこともあり、これはという馬はまだそう多くない。ひとまず完成度の高そうな3頭を紹介する。ただし、今週の船橋開催(21〜26日)で、ダーレー所属馬が3〜4頭ほどデビュー予定。評判馬が勝てば、そこから一気に佳境へ向かう。
▼ロイヤルスナイパー(牡、大井・三坂盛雄厩舎)
6月10日、05年南関東初の新馬を勝ち、続く2戦目オープンでV2を飾った。1000m・1分02秒4→02秒3。時計が詰まらなかったのは不満だが、おそらく相手なりということ。アジュディケーティング×ニホンピロウイナー、500キロを超すパワフルな馬体で走法もスピード感に満ちている。デビュー戦は4番手からひとまくり、2戦目は出たなりの逃げ切り。折り合いのつきそうなタイプで、レース運びに無理がない。めざすは一流マイラーだろう。
▼キングトルネード(牡、川崎・八木仁厩舎)
実質上の現2歳No.1。デビュー戦は900m・54秒3、2着を7馬身ちぎったものの、進路妨害(内斜行)で無念の失格。続く2戦目、1400m・1分29秒5、8馬身差でうっぷんを晴らした。時計的には一昨年ビービーバーニング、昨年エスプリフェザントと同レベル。カコイーシーズ×スイフトスワロー、南関クラシック血統で、490キロ台の馬体も骨太でしっかりみせる。パドックのイレ込みなど、気性面の成長が課題になるか。本質的には馬力型、パワー型で、かなり奥がありそうだ。
▼スプラッシュビート(牝、川崎高月賢一厩舎)
7月8日、900m・55秒1で新馬を勝った。時計的には水準程度で着差も1・1/2だから目立たないが、終始持ったまま自然流の先行抜け出し。いかにも瞬発力と競馬センスを感じさせる。タイキブリザード×ダンチヒ、母系にイーグルカフェ、ハセノガルチ。450キロ台ながら、パドックの馬体など力強く伸びやかで、数字以上に大きくみえた。牝馬としては間違いなく一級品の資質がある。