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「リステッドウィナー」という新語は定着するか

  • 2019年02月07日(木) 12時00分
 今、私たち競馬ファンは、「重賞勝ち馬」「重賞ウィナー」といった言葉を、深く考えず、日常的に使っている。「GI馬」「GIホース」などと同じように、そこを「境目」と捉えているからだ。つまり、重賞を勝つか勝たないか、GIを勝つか勝たないかが、その馬を評価するうえで大きな意味を持つ、と。それはもちろん正しいことだ。

「重賞勝ち馬」は、英語だと「グレードレースウィナー」となるわけだが、アメリカの厩舎関係者と話したり、現地のメディアを通じて情報に触れた印象では、「グレードレース」と同じように「ステークス」を「境目」として見ているように感じられる。彼らは「ステークスウィナー」という言葉を実によく使う。その頻度は「グレードレースウィナー」よりも多いくらいだ。

 そう、アメリカでは、「重賞を勝ったかどうか」以上に、「ステークスを勝ったかどうか」が「境目」として重要、もしくは、より一般的だと受け止められているのだ。

「ステークス」には重賞も含まれる。であるから、こうも言える。アメリカでは、ノングレードのステークスとGIIIとの格の違いは、日本のそれほど大きくない、と。

 ところが、日本の場合、これはもう番組上の都合なので仕方がないのだが、準オープンにも「ステークス」がある(というか、今春の番組表を見ると、準オープンのほとんどが「ステークス」だ)ので、「ステークスウィナー」という言葉が使われることは、まずない。日本では、「ステークス」は、ここで言う意味の「境目」とはみなされていないのだ。

 が、その一方で、日本には「オープン馬」という言葉がある。準オープンを勝つか、重賞で2着になるなど収得賞金を加算して「境目」の上に行ったことを示す言葉だ。

 そうした意味での新たな「境目」が、今年から加わった。

「リステッド競走」である。

「リステッド競走」は、オープン競走のなかで、重賞に次ぐ重要な競走として格付けされている。「リストに載せられる」という字義どおり、ここを勝てばセリ名簿にブラックタイプ(太字)で馬名が記載される。

 いわば「上位オープン」という位置づけになり、賞金も高くなるし、何より、前述したブラックタイプになることで、自身の母系の価値を高めるわけだから、生産者にとってはいいニュースだろう。

 今年、リステッド競走となったのは63レース。今年のオープン全体のレース数はまだ決まっていないのだが、昨年は113レースだったので、ほぼ半数がリステッドになった、ということだ。

 先週までに行われたリステッド競走は、1月6日のジュニアカップ、13日のニューイヤーステークス、14日の紅梅ステークス、淀短距離ステークス、19日の若駒ステークス、すばるステークス、26日のクロッカスステークス、白富士ステークス、2月2日のエルフィンステークスの9レース。

 そのうち、現時点で発表されている8レースの上位4頭の暫定レーティングの平均を、過去3年のレースレーティングの平均と比べると、次のようになる。カッコ内が過去3年平均である。

ジュニアカップ 99(101.58)
ニューイヤーステークス 101(104.83)
紅梅ステークス 99.75(101.67)
淀短距離ステークス 102.5(103.92)
若駒ステークス 103.5(103.08)
すばるステークス 97.25(99.67)
クロッカスステークス 101(102.92)
白富士ステークス 100.75(105.58)

 若駒ステークス以外はことごとく今年のほうが低くなっているが、それは、違う基準で算出した数字を比較する形になっているからだ。例えば、もし、今年の若駒ステークスを勝ったヴェロックスが皐月賞を勝ち、2着のサトノウィザードがNHKマイルカップを勝ったりすると、これら2頭の年間レーティングはポーンと跳ね上がる。そうして上がった年間レーティングを、現時点の暫定レーティングに置き換えて算出するファイナルレースレーティングが、2019年の若駒ステークスのレースレーティングとして記録に残る(過去3年の平均はそうして算出されている)。であるから、上に記した今年のリステッド競走の暫定平均値は、1年が終わるとだいたい上がっている、と考えていいようだ。

 今年の年間レーティングが決まって初めて、リステッド競走となったことにより、そのレースのレベルが上がったかどうかを判定することができるわけだ。が、それでも、「勝てばセリ名簿にブラックタイプで載る」という明確な利点があるというだけで、リステッド競走を勝つかどうかが「境目」になることは間違いない。

「重賞勝ち馬」と同じように、「リステッドウィナー」という言葉が普通に使われるようになるかどうかも、「境目」の定着度をはかる目安になるだろう。

 セレクトセールなどのセリの鑑定人が「本馬の母系からは7頭のリステッドウィナーが出ております」というふうに使われる日も、そう遠くないかもしれない。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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