9月23日、船橋「日本テレビ盃」。サカラートが圧倒的な瞬発力で重賞3連覇をやってのけた。逃げるナイキアディライトを、アジュディミツオー、カイトヒルウインド、3頭集団で追う形。1000m通過61秒0、深い馬場を考えるとけっして遅くもなかったが、とにかく道中の手応えが素晴らしい。4コーナー持ったままアディライトに並びかけ、一瞬のうちに突き抜けている。“弾ける”とは、昨今よく使われる“競馬語”になったが、今日のサカラートはまさしくそう。「いい馬に乗せてもらっています(乗り替わり3連勝)。スタートだけ気をつけてあとは馬なり。3コーナーあたりで勝てる感触がありました」(秋山騎手)。東海S、ブリーダーズGC、前2走長距離(2300m)で結果を出したが、元より1800m、1分48秒5、阪神レコード勝ちの記録がある。距離はオールマイティー。何より今季の充実度が半端ではない。
日本テレビ盃(サラ3歳以上 別定 交流GII 1800m良)
▲(1)サカラート (57・秋山) 1分51秒8
◎(2)ナイキアディライト (57・石崎隆) 4
○(3)アジュディミツオー (58・内田博) 2
△(4)スターキングマン (58・武豊) 3
△(5)カイトヒルウインド (56・横山典) 3
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△(6)イシノファミリー (56・的場文)
△(7)トーシンブリザード (58・石崎駿)
単280円 馬複540円 馬単1,000円
3連複460円 3連単2,410円
サカラートは当日マイナス16kg。しかし、見た目に細化は感じられず、パドックでも終始外々を大きく回り、いかにも昇り馬らしい活気があった。「正直このメンバーでどうかと半信半疑。強かったですね。驚きました。馬の成長がすべてでしょう」(石坂調教師)。ともあれこの勝利で、JBCクラシックの優先出走権を獲得した。王道を進む選択が自然だろう。アフリート×サンデーサイレンスの万能血統。あとはこの状態をどこまで保てるかがテーマになる。
ナイキアディライトは注文通り4コーナーまで単騎で行けた。ペースも速からず遅からず、全力を出し切った完敗というしかない。欲をいえば馬場がもう少し軽ければよかったか。逃げ一手。勝ちやすいようで勝ちづらい、常に目標になってしまう脚質ゆえ、宿命的な限界もありそうだ。アジュディミツオー。こちらは結果より内容重視という競馬になり、3着なら思惑通り。厳しい位置を進みながら、直線まったくバテていない。昨暮れ大賞典時より5kg増。改めて同馬のタフさ、逞しさには脱帽する。スターキングマン、カイトヒルウインド、4、5着。最後貫禄をのぞかせたのは前者だが、一昨年のデキを戻すとなると年齢的に厳しいか。後者はサカラートと同位置からジリ下がり。もう少し走れそうな戦歴だが、左回りはモタれるというコメントもあった。今後大井を使えるようなら正念場として注目したい。
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19日、盛岡「ダービーグランプリ」は、大井競馬場のヴィジョンで観戦した。その日は南関東休催日。当初「現地・日帰り…」も選択肢の一つだったが、船橋メイプルエイトの取り消し(左腕関節炎)で、記者自身かなりモチベーションが低下している。連休最終日、何度か経験した夕刻上り新幹線の強烈ラッシュも頭をかすめ、結局“消極策”“安全策”に落ち着いた。
ともあれ大井競馬場は、当日盛岡全11R発売。ファンの入り、ムードなどが気になったのも事実である。午後2時過ぎゲートをくぐると、正直これが競馬場かという寂しさ、危惧した以上の閑散だった。スタンド前の石畳で、カラスと猫がのんびりと遊んでいる。来場者およそ1000名。大井場外発売は、例えば昼間の船橋3000名、川崎ナイター5000名ほどが平均だから期待外れか。馬券システム自体の不統一も原因だろう。盛岡は3連単がないと知らされ、そのままトンボ帰り(無料バス)したファンも多かったとは後で聞いた。
ただその一方、競馬ファンの流れが大きく変わった、そういう側面もやはり感じた。来場者1000名、その半分ほどが競馬=馬券ではないのである。カネヒキリを見たい、スポーツ的、競技的な感動を味わうべく、わざわざモノレールに乗り大井競馬場に来ていること。閑散と書いたが、その中で、3〜4人の女性グループがことさら目立ち、およそ場違いにみえる若いカップルも、武豊に懸命な歓声を送っている。難しい、そしてわからない。競馬とは、いったい何のため、誰のためにあるものなのか。NHK連続ドラマ「ファイト」はある意味、いま地方競馬の追い風らしい。人と馬、そのヒューマンストーリー。がしかし、馬券が順調に売れない以上、この国の競馬は、その存在自体が危ういのだ。
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ダービーグランプリ(サラ3歳 定量 交流GI 盛岡2000m良)
◎(1)カネヒキリ (56・武豊) 2分03秒8
▲(2)サンライズバッカス (56・佐藤哲) 2.1/2
△(3)ドンクール (56・後藤) 7
△(4)コンゴウリキシオー (56・田中勝) 7
△(5)アグネスジェダイ (56・菅原勲) 4
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○ メイプルエイト (56・張田) 取り消し
単100円 馬複260円 馬単290円
レースについては今さら…ということになるだろう。2.1/2馬身差。ただし持ったままのカネヒキリ、一杯のサンライズバッカス。武豊は終始3番手を動かず、直線もぎりぎりまで仕掛けを待った。抜け出してからは手綱をはっきりセーブしている。「今までで最高の競馬かもしれない。強いとは思っていたけれど、今日はそれ以上の走りでした」。ズバ抜けたエンジンを持っていること。その燃焼にムダがないこと。3歳秋、これだけ心技体、完成されている馬も珍しい。JBC(名古屋)挑戦か、あるいはJCダート直行か。いずれにせよ現時点で古馬一線級にあらゆる面で遜色ない。
能力以上に極端な結果(着差)が出る盛岡2000mだが、それでもサンライズバッカス→ドンクール→アグネスジェダイは、中〜長距離に関すると明確な序列ができたと思う。サンライズバッカスは実戦派の追い込み馬。パドックなどイラつき気味でけっしてよく見えなかったが、いざレースに臨んで意外なほど集中する。取り消したメイプルエイト。あくまでタラレバだが、おそらくは前々の競馬で、そのバッカスに接戦とイメージした。春の力走続きもあり、しばらくオーバーホールとのこと。カネヒキリのライバルは、やはり故障癒えてのシーチャリオットだ。
夕刻5時のモノレール。乗り合わせた中高年3人連れ。こちらはむろん馬券ファンで、浜松町への道中「3連単のあるなし」が大きな話題になっていた。さまざま意見が飛びかい、結論は「百円単位で買える馬券がないと、誰も来ない時代…」に落ち着いた。経済的な好不況など、この先どうか不明だが、日本社会の高齢化、逆ピラミッドは、競馬の存廃自体にストレートに響いてくる。「“5連単”があれば買いたいな」、一人が言った。異論なし。で、その配当はどれほどか。翌日編集部でそんな話をすると、20〜100倍と意見が分かれた。「だけどJRA馬5頭ボックスで買えば当たるんでしょう…」。若手のひとことでにわかに冷めた。なるほどね。しかしそこに気づいてしまうと、地方競馬びいきには、何やら無力感が襲ってくる。